第94話 帰還
超絶眠い中書きました。題名通り、帰還します。
転移で・・・地球には帰れるか?
アイに、そう聞いた瞬間、冷たい沈黙が訪れた。
A:っ・・・
俺:・・・アイ?
A:マスターは・・・地球に帰りたいのですか?
俺:あぁ。帰れるのなら、帰りたい。
A:・・・皆が悲しみますよ?
俺:一旦帰るだけだってば。もし転移で帰れるのなら、また戻って来ることだって出来るだろ?
そう。転移は、1度行ったことのある場所であれば、どこにでも行ける。もし転移で帰れるなら、こっちと地球を、行ったり来たり出来るんじゃないかと考えたのだ。俺ってば天才?
A:・・・なるほど、マスターはその様に思っているから、帰りたいと言ったのですね。
俺:そういうこと。で?帰れるか?
A:寧ろ、転移以外に帰る方法はありません。
俺:え?そうなの?・・・あれ?でも勇者達が全員帰るのにも、転移が必要ってことだろ?魔王を倒せば帰れるって国王が言ってたけど、勇者って転移使えるようになるの?
A:はい。勇者の称号には、隠れた機能があり、魔王を倒せば、自動的に転移を習得します。
そうだったのか・・・
俺:ま、とにかく、転移で帰れるんだろ?んじゃ、1回帰ってみるよ。
A:ま、待ってくださいッ!
アイが、急にヒステリックな声を上げた。今まで、アイのそんな声を聞いたこと無かったから、めっちゃびびった。
俺:ど、どうしたんだよ?アイ。
A:マスター、1つ重大なことがあります。
俺:な、何だ?
A:その・・・地球に転移してしまうと、もうこの世界には戻って来れないんです!
俺:・・・は?ど、どういうことだ?転移は、行ったことがあれば、何処にでも行けるんだろ?だったら、帰ってくることだって・・・
A:確かにそうです。でも、それは転移が使えればの話です。
・・・ん?てことは・・・
俺:地球に戻ったら、転移が使えなくなるのか・・・?
A:転移だけではありません。ほかの魔法、スキルも使えなくなります。良く考えてもみてください。元々、マスターの住んでいた地球に、スキルや魔法なんて存在していましたか?
そう言えばそうだ。元々スキルも魔法も無い世界で、スキルや魔法を使える訳がない。
俺:・・・そういうことか。
A:はい。スキルが使えないと言うことは、私も存在しなくなると言うことです。そして、帰って来れないマスターは、私や皆と永久にお別れすることになってしまいます・・・マスター、どうか行かないでください・・・
アイは、最後に泣きそうな声で、縋るようにそう言った。
俺:・・・それが本音か?アイ。
A:っ!?あ、えと・・・その・・・
分かりやすい。アイは、俺と永遠に別れることになるのが嫌だから、俺に行って欲しく無いんだろう。
俺:・・・まぁ、それを責める気は無いけどな。俺だって、お前達と別れたくなんかないんだから。
A:あ、あぅ・・・はい、マスター・・・
どうやら、アイは安堵したようだ。だが、かと言って妹にも会いに行きたいのだ。そろそろ、あいつも1人でやっていくのも限界だろう。妹は、料理はとても上手いが、他の家事が、かなり駄目なのだ。最低限、洗濯や掃除は教えてあるから、そこまで汚くは無いと思うが。
俺:・・・地球でもスキルが使えるようなスキルでも創るか?いや、でもスキルを使えないのに、そんなスキル創っても意味無いよなぁ・・・
A:地球に行っても消えないものは、攻撃、防御、運のステータスと、後は『咒い』です。
俺:攻撃と防御と運はそのままなのか・・・後は咒い・・・ん?待てよ、もしかしたら・・・
A:何か思い付いたんですか?
俺:あぁ。実はーーー
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俺:どうだ?
A:・・・本当は、とても不安です。確証はありませんし、もしもそれで駄目だったら・・・やっぱり行かないでください!ますたぁ・・・
もし今アイに身体があったのなら、多分抱き着かれてたな。・・・おっと、またしても思考がズレてしまった。
俺:悪いな、アイ。確かに不安だ。もしかしたら、皆にもう会えないかもしれない。・・・でも、もしも大丈夫だったら、俺は帰らなかったことを、絶対に後悔する。だから、俺は地球に帰る!・・・ごめんな。
A:・・・もうマスターなんて知りません。勝手に行ってください。
アイは、完全に涙声だった。
俺:・・・ありがとな、アイ。絶対、帰ってくる。
A:・・・絶対、ですからね。
俺:あぁ、もちろんだ。・・・ニノ達にも言っておかなきゃな。
そっちの方が苦労しそうだ。ニノなんかは、自分も連れて行って欲しいとか言いそうだ。
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「って訳で・・・」
「私も連れて行って下さい!」
うん、やっぱり予想通・・・
「妾も連れて行って欲しいのじゃ!」
・・・あれ?
「私もぉ、連れて行って欲しいですぅ!」
んん?まさかの3人からでした。・・・いや、もしも失敗すれば、もう二度と会えないのだ。そりゃ、ニノだけじゃないよなぁ・・・
今更ながらに、俺は気付いた。
「悪いけど、誰も連れて行かない。不安で悲しいかもだけど、連れては行かない。ごめんな。」
すると、ニノが抱き着いてきた。
「嫌です!絶対!私は・・・私は!ずっとご主人様のお傍に居たいんですっ!」
それに便乗するように、ココとベルも言い始めた。
「そうじゃ!妾も、ずっとリークの傍に居たいんじゃ!多少離れるだけならまだよいが・・・じゃが、もしお主の考えが外れて、もう帰って来れぬなどとなってしまったら、妾達はどうすればよいのじゃ!」
「それにぃ、私達との結婚はどうなるのですかぁ!?帰って来られなかったら、貴方は約束を破ることになるんですよぉ!?先程、自分の発言には責任を持てと言ったじゃないですかぁ!」
・・・確かに、皆を地球に連れて行けば、もし帰れなくても、ずっと一緒にいることは出来るだろう。だが、それだと不安なのだ。俺が帰れないということは、即ちステータスやスキル、魔法が使えないということ。そんな状態で、3人を守り切れるかが不安なのだ。
その点、こっちに置いて行けば、3人は普通に暮らしていけるだけの力はある。正直、目の届く範囲に置いておきたい気持ちもあるが、こっちの方が、恐らく地球より安全のはずだ。
「・・・悪いな。でも、絶対に帰ってくる。約束する。俺を、信じてはくれないか?」
「「「・・・」」」
3人は、とても不安で辛そうな顔をした。だが、それから長い思考の末、
「・・・妾は、リークを信じる。」
「なっ!?何言ってるんですか、ココ!ご主人様を信じても、帰って来れる保証は・・・」
「私もぉ、リークさんを信じますよぉ。」
「!?ベルさんまで・・・」
ニノ以外の2人は、俺を信じてくれた。
「2人とも、ありがとう。・・・それで、ニノはどうするんだ?」
「っ・・・う、うぅ・・・絶対、帰って来て下さるんですね!?絶対ですよ!?」
「あぁ、絶対だ。」
「・・・分かりました。ご主人様の自信に嘘はありませんでした。だから、信じます。・・・絶対、帰ってきて下さいね・・・」
最後に、念を押すようにボソッと呟かれた。3人の為にも、ちゃんと帰って来なきゃな。
「それじゃあ行ってくる。転移ーーー発動!」
キュイン!
発動の宣言と共に、俺の身体は、この世界から消えた。
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「ん・・・?ここは・・・」
目を開けると、そこは見慣れた風景だった。ただそこに、いつもの人達がいないだけで。
「そうか・・・俺は戻って来たのか・・・」
そう、そこは、俺達の通っていた学校・・・の俺のクラスだった。人がいないことを除き、変わったところと言えば、教室の出入り口に、立入禁止のテープが張り巡らされていることだ。どうやら、俺達の失踪から、いくらか時間は経っているようだった。
・・・と、それより先に確認しなくちゃ。
俺:アイ、居るか?
A:はい、マスター!私はちゃんとここに存在しています!
俺の呼びかけに、アイは答えた。
俺:良かった。てことは、成功したってことだな。
A:はいっ!マスター、本当に良かったです・・・ぐすっ・・・
俺:そ、そこまでか!?と、とりあえず落ち着け。早く妹の安否を確かめたいんだ!
アイがちゃんと答えてくれた感動はそこそこに、俺は、自分の家に向かった。・・・転移で。だって、歩いてる時間が無駄だし、誰かに見つかって騒がれても困るし。
ピンポーン♪
軽快な音と共に、インターホンを鳴らした。しばらくして、玄関が開きーーー
「ただいま、我が妹よ。」
俺は少し、巫山戯た口調で、妹にただいまと言った。きっと妹も、俺のおふざけを軽く窘めつつ、おかえりと言ってくれるはず・・・
「えぇっと・・・どなたですか?」
おぉっとぉ?妹さん、まさかの兄を覚えていない・・・!?