第1章 捜査の始まり
第1章 捜査の始まり
あぁ。飲みすぎた。
たまのオフで浮かれすぎたか。
最後のウイスキーが余計だったな。
「おぅげぇぇぇ。」
こりゃ二日酔いルートかな。
せめて事件さえ起きてくれなければ。
なんてことを思い、ふらりふらりと、たまにコンクリートの塀に体を擦りながら家まで俺は歩いた。
こんな独身男性特有のだらしない生活がこの日が最後になるなんて、俺は驚いたね。
警視庁刑事部捜査一課。
殺人、強盗、誘拐、などの凶悪犯罪の捜査を行う。
世間で言う刑事さんと言われるものだ。
「ほーらみろ、やっぱりあの最後のウイスキーだ」
昨日飲みすぎてふらついていた彼、鷲崎章太郎の職業だ。
「だから、最後の一杯は止めたじゃないですか。鷲崎さん。」
鷲崎の後輩、神崎英太が水を持ってきた。
彼は鷲崎のパートナーであり、お守り役である。
「鷲崎さん、現場ではめちゃくちゃ頭も切れて現行犯逮捕でも瞬時に犯人を捕まえちゃう凄腕刑事なのに。そんなんだから、独身なんですよ。」
英太はいつも一言余計だ。
「うるせーなー。俺は別に今の生活で満足だ。」
満足・・・。
そうさ。
金に困らない、飯も食えてる、同僚にも恵まれている。
そりゃ、仕事柄危険な目にあうことが多いがそれはそれで面白い。
「そういえば、鷲崎さん。聞きました?」
「ん?何をだ。」
二日酔いに効くらいし、漢方薬をデスクの引き出しから取り出しながらきき返す。
「最近、話題になってる異常現象の捜査ですよ。」
「なんだ、それか。俺たちに関係ないだろ。」
ここ最近、世間を騒がせている事件だ。
日本各地で今まで起こったこともないようなことが起きているそうだ。
山がまるまる削られたり、何キロにも及ぶ地割れが起きたり、街一つ飲み込むほどの巨大竜巻が発生したり。
まるでハリウッド映画のようだろ。
これらのことが起きれば、警察も動く。
だが、それはここ一課の仕事ではない。
警視庁で動くとしても警備部のやつらだろう。
そいつらも、そこまで大きく動くわけではなく主は消防や自衛隊だろう。
鷲崎は一飲みで漢方薬を飲み込みかけた。
「それがですね、どうやら一課の仕事になるらしいんですよ。」
「ゴッ。ゲホ。」
むせた。
「うわあ、鷲崎さん大丈夫すか?」
「大丈夫じゃねーよ。どういうことだそれ。」
正直面倒くさい。
そんな自然現象なんて、俺らが調べたところでしょうがないものだで大抵片付く。
「まぁ、一課と言っても俺たちに当たるかどうかはわかりませんからね。」
英太の言うとうりだ。
「そうだな。んな面倒くせー捜査に当たらないことを祈るな。」
少し離れたところから呼ばれた。
「鷲崎さん、神崎さん。総監がお呼びです。」
嫌な予感がした。
すうっと背中に冷水が垂れたような感覚。
鷲崎と神崎は、まさかなと頭の中に浮かぶ思いを振り払った。
コンコン。
「失礼します。お呼びでしょうか。若本総監。」
鷲崎が先に入った。
続けて神崎が入った。
「おぉー、来たか。聞いてるよ〜。君らの活躍ぶり。頑張ってるね〜。」
相変わらず、つかめないおっさんだ。
上に立つ者はどうしてこうも軽々しいのか。
「ありがとうございます。」
部屋は心地よい温度だ。
「ところでどういった要件で。」
神崎が待ちきれず切り出した。
「ん〜。そうそう、ここ最近の異常現象の件知ってる?」
予感的中。
「はい、耳にしております。」
さすがに、知りませんという嘘はつけない。
それくらいこの件は世間的に有名だ。
若本総監は、書類に印を押しながら話しを進める。
「なら話は早い〜。」
若本総監は立ち上がり鷲崎の肩に手を置き。
「よろしくちゃ〜ん。」
「はい?」
「君ら2人今日からこの異常現象について調べるよ〜うに〜。」
もうこれは逃げることは出来なそうだ。
「はい。わかりました。」
始まりはこの命令からだった。
まさかこんな、つまらなそうな捜査があんな出会いを生むなんて。
俺たち2人はとりあえず、つい一昨日異常現象が起きた現場へ向かった。
何も知れなければ、どうすることもできないからな。
パーム第1章でございます。
いきなりの現実的な世界観。
前作までの、ファンタジー要素が吹っ飛びました。
しばらくは割と、今回のようなテイストが続きますかね。
今回登場した鷲崎が、このお話の回し役的ポジションにいます。が、決して主人公ではないです。
神崎は、鷲崎の後輩で2人はバディーという関係です。
極端に言うならば、鷲崎がガンガン肉体系で攻めていくタイプで、神崎は頭脳派の守りのタイプ。
いいバランスです。
そんな2人の今後にご期待。