後
最終話です。いえーい。百話内に収まったぜ!
私は両手を広げて、愛する夫を迎え入れた。顔ごと溶け合うようにして口づけを交わし、離れる。できればずっとこうしていたいけれど今はほかにやることがあるでしょ。
あの女の体が徐々に風化して風に舞い、消えていくのを横目で眺め、ずいぶん傷だらけになってしまった床を修復する。
あまり趣味のいいとは言えない調度もこれから入れ替えていかなくてはね。引き継いだ記憶によれば前はここをあまり使わなかったみたいだけど、これからは私たち夫婦の主寝室となるのだから。
しかし私に家具選びのセンスはないのよね。誰に任せようか……こういうもののセンスがいいのは叔母さんだけど、確か家具屋してるのがいたわね。久々に呼んでもいいかもしれない。
身に着けていたセーラー服はボロボロで恥ずかしいことになっていたので、夫に倣いその場で白いワンピースを織り上げて上から着る。
白ねえ。結婚式みたいで気恥ずかしいわ。少し色素を吹き付けて赤に変える。靴も片方なくしちゃったみたいだから同じように作ってみた。何らかの繊維百パーセントではあるけど、何が百かしらね。わかったもんじゃないわ。
記憶は……まだ少しあちこちが混乱しているようね。でもすぐに馴染むでしょう。
ぼんやりしている弓削を地上へ戻さなきゃ。そう思って周囲を見回すけど、依代はさっきあの女ごと殺してしまったから回収不能ね。
お掃除の手間が省けていいけど融通が利かないのは困ったわ。どうやって弓削を送ろうかしら。今の私が出てきたら弓削以外みんな死ぬわね。せめて町の人全員に加護を与えてこればよかったのに。
雑な仕事をしたものだわ。反面教師、反面教師。
「ねえ弓削」声をかけると彼はびくりと後ずさった。大丈夫、包丁はもう持ってないわ。両手を広げる。「ここまでくる道は覚えてる?」
「……いや、微妙だわ。遠かったし似たような建物は多いし地図的なものもねーし」
そうよねー。くまったくまった。だけどエレベーターの前までならいけるかしら?彼女はこういったことに無頓着だったから私にもほとんどわからないわ。夫にすり寄る。やっぱり相談第一ね。
「弓削を返したいんだけど、あなた前に言ってなかったっけ。毒電波出ない形式の化身があるとかないとか」
「何じゃ、夫婦として初の会話にしては色気がないのう。夫の前で他の男の名前を出すか?」
それは申し訳ないけど初回から相手のケツを撫でてくるのも大概よねー。やだー。優しくその手を振り払った。
「がっつく男は嫌われるわよ、お・じ・い・ちゃん」
「ははは、嫌われるのは嫌じゃな」
教えてもらったけど、ぱっと覚えるのが無理そうだったから弓削には一人で地上に出てもらうことにした。二人でエレベーターまではちゃんと送ったから間違いないわね。
包丁のことなんだけどね、どうやら自傷行為とかいろいろやってる間に防御を無視して神を切る専用の神器になってたらしいわ。さしずめ神殺しの剣ってとこ?どう見てもただの包丁だけど。あれはそのあとどうしたかしら?どっかになくしてしまったみたい。
私が誰かって、そんなの分かってるでしょう。ずっと変わらないわ。
――私は私、衣川依よ。
俺は独りエレベーターに押し込まれて、地上へ戻された。依は向こうへ残ったままだ。あいつは入れ替わりに神の嫁になっちまったらしい。あの筋肉野郎の独り勝ちってわけだ。
もともと好きあってたのか成り代わったせいなのかわからねーがアツアツになってやがった。俺としちゃ成り代わったせいってほうに一票入れたいがこの通り女心なんか理解不能だから何とも言えねえや。
ああ、目な。
自分で潰したんだ。俺はあれからものを見るのがとにかく嫌になっちまってな。大学へも進まず坊さんになってこの寺を継いでる次第だよ。本当はこの町にも居たくなかったんだがここの前の住職が寺くれるって言うんで断りにくくってな。
いやなに、問題はないさ。兄さんは子供産まれたって言うし、俺はもともと出来の悪いほうの息子だ。何も問題ない。
ん?包丁?なぜか一本増えてたんだ。切れ味がよくて重宝してるぜ。




