戦勝処理
ちょっと時系列が飛びますよ。
地上へ戻った時、太陽はちょうど沖天していた。卒業式の中断から大して時間は経ってなかったんだ。予想はしていたが滅茶苦茶だ。
体育館は老朽化のせいで小さい地震で崩れっちまったとかで、そんなに大騒ぎにはなってなかった。けが人はいくらか出てたが、命に係わるけがでなし、死人もなしってんで被害もかなり小さかったのもあるだろう。
先生方は卒業式の式場として市内の別の高校の体育館を借りるか自分とこの運動場を使うかいつやるかって話をしてたみたいだ。
むしろ俺と依が行方不明者だったんで大騒ぎで話を聞かれた。ちょっと前までのシカト合戦が嘘みたいに、一列にこう、担任と学年主任と教頭と校長と野次馬が並んで、説明しろったってありゃ無理だぜ。
そこで俺は地震が来たときあんまりびっくりして滅茶苦茶に走って、気づいたらなぜか神社の前にいたけど他は何にも覚えてねえって話をした。呆れられた。心外だがパニックでわけのわからん行動をとった残念な子ってわけだ。
そんで行方不明者二名のうち一人がひょこっと帰って来たんで、もう一人もそのうち見つかるだろうって話になった。
高校生が授業をサボってどっかへ消えるのは、決して褒められたことじゃあねえが珍しいことでもねー。それに状況が状況だ、テンパって逃げ出してなんかきまり悪くなって出てこれないだけかもしれねえってよ。
さほど捜索らしい捜索も行われないまま衣川依って女生徒は消えた。親も捜索願を出さなかった。よくある失踪話だ、そのうち皆依のことを忘れっちまった。
もうあれから十年以上は経つんだな。時の流れってのは早いもんだ。おっとお前さん、茶がなくなってるぜ。もう一杯どうだい?何でわかるかって?何となくだよ、なんとなく。
さて、何だか依が死んだみたいな話になってんな。いや死んでねえよ?生き物って呼べるかどうか知らねーが死んではいない。だってそうだろ?依は勝ったんだから。
――意識を取り戻した俺はおっかなびっくり立ち上がった。立ったのはすぐに走って逃げられるようにだ。
チキンとか言うなよ。だってさっきまで怪獣大乱闘状態だったんだぜここ。実際俺も巨大な鉤爪のようなものに掴まれて無重力になって気を失ってたんだ。警戒もするってもんさ。
依はあの女の胸に深々と包丁を突き立ててうずくまっていた。靴は片方脱げてなくなっていた。人間に見えたよ。怪獣みたいなディテールが消え去ってたからな。
依、お前勝ったのかよ、すげえな、みたいなことを言おうとして、その人影に気づいた。背が高い、ごっつい男だ。さっきまではいなかったと思う。だって全裸だもんよ。
男は口からしゅるるっと糸を吐き出した。ごく細い糸だった。糸はそいつの体にまとわりついて、あっという間に服を織り上げた。
何で?さあな。全裸が恥ずかしかったか寒かったかしたんだろうぜ。とにかく白い着流しみたいなのになった。こいつも人外か。そういえば髪は真っ白だし妙に黒目勝ちだ。多分俺たちが助けたのはこいつなんだなと思う。
変な奴だったぜ。なんとなく喋りかけづらいし、じっと見てると頭が下がってくるんだ。神だから?俺はあんなもんが神とは思わんね。
依が顔を上げた。元通りの顔だった。




