袖の下
主人公、収賄します。
「なあに、おばちゃん。私今忙しいんだけど」
ニタニタと笑いながら、おばちゃんは私に布で包んだ大きな棒状のものを差し出した。さっきまで担いでたやつよ。なあにこれ。紐をほどいて、布を剥ぐ。
「わかってるさ、そんなこたね。ただ、私は未来のご主人様にゃ媚びを売っときたいのさ」
中身は鞘に入った日本刀だった。
刃渡り70センチくらいかしら。おっきいし、重い。しかも豪華ね。よく知らないけど、奉納刀ってやつかしら?隣で弓削が武器入手イベントがどうとか言ってるけどそうじゃないわね。これは私には扱えない。
いただきまーす。鞘ごと口に含んでめりめりと噛み砕いた。弓削の悲鳴が聞こえるけど無視。噛み砕いたものを飲み込む。おいしいでーす。
布が巻いてある柄も食べる。糸が歯に絡む感じがいいわねえ。最後に柄のお尻の部分を飲み込む。ごちそうさまでしたー。
「き、衣川……大丈夫なのかよ」
「ゼンゼンダイジョーブ。おいしかったわ」
これは、奥さんの神器。用途は見たまま敵を斬るって感じかしら。神器ってもとになる道具の用途以外には設定できないものね、日本刀っていい目の付け所だわ。そのうち参考にさせていただきましょう。
ゆっくりと戦い方を思い出す。今まで本当に不器用にやってたわね。人型に縛られることはないのに。何だか勝機が見えてきた。いける。今なら戦える。勝てる。
「何笑ってんだお前……」
なんでもないわよと笑いかけてまた弓削を掴む。気を取り直して決戦の地へ向かうわ。おばちゃんには……何か便宜を図っておきましょう。後でね。
エレベーターのある建物の前で降りた。
「弓削、目」
振り向いた弓削の目にぬちょっと触手を突っ込む。うご、とか何とか言ってるみたいだけど気にしない。赤い光の中でも普通に物が見えるように若干いじるだけよ。
あとはそうね、SAN値削りそうなものが目に映ったら自動で解像度を下げるようにでもしましょうか。それから、地下にずーっと降りるのよね。気圧の変化に耐えられるようあちこちいじっておきましょう。
「なーきぬがわー……今、俺の視界にこう、ぎっしりと無数の白い手のようなものが見えるんだがー」
「なるほど、そこにあるものがあるように見えてるのねえ。いいことじゃないの」
よし、作業終了。ぽかんとしている弓削を引きずってエレベーターに乗せる。え?これに乗ってる時襲撃されたらとか考えなかったのかって?そ、そのときはそのときよ!べ、べべべ別に何も考えてなかったわけじゃないんだからね!
それほど長い時間降下していたようには思わなかったけど、弓削はもやしだからエレベーターの床に座り込んでいたわ。立ちっぱなしは地味にキツいんですって。
「まだかよ」
「もう着くわよ」
「さっきも聞いたよそれ……」
じゃあ何回も聞かないでよ。