隔離
不安要素だらけなもののなんだかんだでのんびり書いてます。旧支配者VSその辺の女子高生、ファイッ!
「ふー、ひとまず距離は置けたかな。座って座って」
「あ、あの」
私は気づくとホログラムさんとどこかの部屋にいた。洋室ね。ふわふわの絨毯が敷き詰めてあって、くすんだピンクのファブリックのソファがぽてんと置いてあったわ。
壁紙は落ち着いたアイボリーで、小さな花の模様が散っている。天井は間接照明で、柔らかく部屋全体を照らしている。かわいい女の子の部屋って感じなの。
でも、ドアとか窓とか、外につながるものが一つも見当たらないわ。私たち、どうやってこの部屋に入ったのかしら?
「座ってってば」
ホログラムなのに、喋るのに合わせて口が動いている。でも瞬きはしないの。何となく焦点が合わない目はまん丸に見開いたまま。この人も古墳時代ルックスで髭があるけど、この人の髭は一本一本太い。私の小指くらいある。
「怖かったでしょう。でも、もう大丈夫。彼らはすごく警戒心が強くて臆病な動物で、学習能力もないわけじゃないから、もう二度と君に手を出したりはしないと思うからさー。でもねー、疲れたよね。疲れたでしょう。ちょっとくつろいでいってよ」
何となくイケメンチックな、涼やかな風貌をしている。顔の入れ墨も他の人より控えめね。とがった顎を覆う彼の髭は青灰色でびよんびよんと蠢いていたわ。髪の毛は普通に黒いのにね。タコの足は八本ていうけど、髭も八本あるみたい。
私がしどろもどろになって何も答えられずに、動けずにいたら、ホログラムさんは首にかけた珊瑚の飾りに手を触れた。神経質と見えるわ。手の甲にはびっしりと、鎖と波の模様が彫られている。
「あれー?警戒してるの?何もしないよー。ていうかそもそもホログラムだし何もできないし。ほらほらー、あまり警戒心を抱かれない顔にしてるでしょ?ああ、それとも」
ぶうんと画像がぶれて、何かが切り替わった。
「男は嫌い?」
切り替わったのは性別だったみたいね。声も高くなって、背はわずかに低くなって。ダイナマイトバディなのがちょっとジェラシーだわ。今度は耳と後頭部が伸びてるのね。服も卑弥呼様だわ。
「い、いえ、そういうことじゃ……」
「そうなの?意外だなー。君みたいな子は、そう……『うぶな子』って眷属たちが呼ぶタイプだと予想したんだけどー、ううん、予想自体は間違ってないみたいだけどー」
ずずいとホログラムなお姉さまが顔を近づけてきた。映像なのに打ち上げられた海藻と膿んだ傷口、それからみそ汁と腐った魚を一緒くたにしたような臭いがしたわ。決して不快なほどではないけれど、この距離はちょっと怖いわね。だってこのひと瞬きしないし。
さすがに怖くて一歩引いたら、何かにつまずいて、ソファに身を投げ出すような格好になったわ。お姉さまは何だか満足そうにうなずいていたわ。
「そうそう座ればいいの。そうだねー、君は『うぶ』はその通りでも段階が一つ前だったんだねー」
何を言われているのかしら。わからないままに、お尻で後ずさって、ソファにもっと深く腰掛ける。お姉さまは顔を離して、私の目の前の絨毯の上に片膝を立ててあぐらをかいた。
「一つ、前?」
「うん。私はねー、眷属を通して人間の男女間のあれこれを見知って来たけどー、相談にも乗って来たけどー、君はそれ以前の問題なの」
確かに恋愛ごとにかかわりが薄かったけど結構な言われようだわ。それ以前の問題って、ひどすぎると思わない。ムッとしたのは相手に伝わってしまったようね。
「あれー?怒っちゃった?少し言い方が悪かったかなー。うーん、どこが違ったかなー。わーかんないやー。あとで教えてほしいなあ。でも、今は君が優先だから」
おじいちゃんもそうだけど、やっぱり感覚がずれてるみたい。優しさが伝わるけれど方向が違うから響かない。私もいつか、そうなるのかしら。
「君ってさ、今までに男の人を好きになったこと、ある?」
いいえ。首を振る。恋バナみたいになってきたけど、相手のお姉さまが真面目な顔だからまぜっかえせもしないわ。
ふーんそっかー、そうよねーとお姉さまは頷いた。ふんっ、どうせ私ゃ非リアよ!文句あんのか!
「じゃあさー、告白されたことはー」
「いいえ、まさか」
ほんとに?何で確認するのかしら。ないわよ。ないって言ってるのよ。お姉さまは相変わらず瞬き一つしないでぽてぽてと首を傾げた。何か考えてるみたいね。
「あー、こりゃリューシのやつも難儀だわー……」
「おじいちゃんが?どういう意味ですか」
「うんちょっと待っててー、今言い回しを考えてるからー。日本語って婉曲表現が多いからー、近くしても下品だしー、だからってあまり遠くすると伝わらないのねー」
ぽてぽて、ぽてぽて。左右に首を振り動かして脳に刺激を与えている……とでも分析したものかしら。たぶんホログラムに搭載しているわかりやすい『ただいま考え中』のコマンドだと思うけど。
でもだとしたら、どうして『瞬き』は入れなかったんでしょうね。
警戒心を抱かれない見た目って、瞬きしてない時点で……あれは何だ!?窓に!窓に!




