決断と告白
ちょっと急展開かも?でもいつまでもぐだぐだしてもいられないから、ずんずん進みますね。主人公があれだから1カメ2カメ3カメとやらないと忌まわしくも恐ろしい状況がちゃんと描写できないんですよう。
え、しなくていい?聞こえまセーン。
「なあ、依。ぬしらの世代ではまだ神無月と言うのか?」
あら唐突に何を聞くのかしら。
「言わないわね。でも学校で習ったから言葉自体は知ってるわ。長月のあとで霜月の前よね」
「うむ。言葉の由来はわかるか?」
「日本全国の神様たちが全員島根県の出雲に集まっちゃって神様がいなくなるからよね。……あ」
言わんとするところが何となくわかった。もしかしておじいちゃんたちも集まるの?
「その通り。先住どもに今の状況を軽く報告してやるほか、我ら居直り強盗どうしの親交を深める会でもあるな」
言い方がざっくばらんすぎて微妙な気分だわ。年末年始神社に手を合わせてきたからなあ……。
「でもそれには奥さんと行くんじゃないの?」
「来ないかもしれん」わずかに迷うような顔つきだった。「そうなったら……代理として、ぬしが来い」
数が足りないのはよくない、ということかしら。私も興味あるし、島根旅行、行ってみたいけれど、そうねえ。言い方ってものがあるわねえ。
「どうぞお越しくださいませ」
「うむ、よろしい」
ていうか最初からそう言えばいいのよ。何のプライド?ああ、神のプライドね。なら仕方ないわ。神は驕るものなのよ、きっと。
九月には学校が始まったけど、私はほとんど通わなかった。弓削がうるさいのを黙殺して、修行と捕食に日々を費やしたわ。
触手が今までよりずっと体になじんで扱いやすい。本当に手足のようね。もちろん手足よりスペックは高いわよ。素晴らしい気分だったわ。
十月に奥さんは現れなかった。だから、島根に行ったのは私とおじいちゃんだったの。おばちゃんの車でね、ずーっと高速道路を走ってくの。ずいぶんゆっくりで、心配になるくらいね。
「集合時間に遅れないの?」
「さほど厳密に決められているわけではない、気にするな。とがめられるようなら『遅れちった~、メンゴメンゴ』とでも謝っておけばよかろう」
ゆるいなあ。日本なのにどこかの南国みたいだぞ。ああ、占領下でしたっけ。納得納得納豆納豆。
「誰もぬしに構わんとは思うが、もしものことを考えて、宝具を出させるか神器を持たせておきたいのう。神器は無理じゃが」
「ちょっと待って宝具と神器って別なの?」
え、って。何を驚いているのかしら。どっちも同じに聞こえるわ。
「それは知らんのだな。意外じゃ」
「意外さね」
「おばちゃんまで何を言うのよ」
そろいもそろって失礼だわ。しばらくすねてそっぽを向いていたらおじいちゃんが改めて、と前置きしてから説明してくれた。
「宝具には実体は要らん。形状と用法だけ決めておいてその都度、使う時だけ出せばよい。つまりは力の方向性じゃからな……ぬしの出せる宝具はぬしの力量も表しておる」
「つまり私より強い宝具は出せないってこと?」
「そういうことじゃ」弓削の湿った手が私の頭を撫でた。キモイ。しっしっし。
「……じゃが神器は違う。実体のある道具を核として、しかもその用途に見合う方向の力しか持たせることができん。さらに核の道具の耐用年数を超えて使うのは無理じゃ。あと作るのに時間がかかる。出したり消したりもできんしな。一方で、宝具と違って融通が利く部分もある」
「私より強い神器を作れる……ってことかしら」
「うむ。今からでは時間が足りぬがな」
いつからなら間に合ったのよ。
「うーん……今年の二月かのう……ギリギリで」
「なるほど……」
間に合わないわ、それは。早くおじいちゃんを救出しないといけないのに。それじゃ宝具を出せるようにならなきゃってことになるのかしら。いまいちイメージがわかないけど。
「おじいちゃんはどうやって出してるの?」
「なんでも出てくる箱みたいなものをまず設定する」
ほうほう。まずは箱と。メモったわよう
「で、その箱から宝具を取り出すイメージじゃな」最後によくわからないことを言っておじいちゃんは弓削の手を見た。「この体では見せてやれんな……まあいい、会場に着くまでに見せればよいのじゃから」
「えー」
できんものは仕方なかろう。それはそうなんだけどね、ちょっと残念なのよ。だっておじいちゃん戦神よ?すっごく神殺しのヒントになりそうよね?
「宿に着いたら即寝じゃ。集合はドリームランドになる」
「えー、島根まで来たのに!?出雲大社見に行きたーい!大注連縄が私を待っているのよォーッ!」
「わかったわかった帰りに寄る、そう騒ぐな。な?」
「ほんとね!?嘘ついたら承知しないわよッ」
「なぜ啖呵を切るんじゃ……なぜ出雲大社なのじゃ……」
ものすごく大きい注連縄が神楽殿にあるの。1トン以上あるのよ。これってすごくない?え、すごくない?……そう。そっか……。
人の価値観とは、お互いに相容れないものなのね。あは……。
「奥さんを殺すの」
微笑さえ浮かべて、依は言った。全身の関節が固定されたようになって、一言も発せないで顔を見つめていた。何を言い出すのか、とは言えない。そう仕向けた。
しかしよし頼んだ!とは言えなかった。違う、こんなことをさせたかったのではない。そう思っている。だが何が違う。元からそのつもりでここまでレールを引いてきたのは誰ぞ。
他の方法にも気づけずに日々をいたずらに過ごして……。
今年の十月には妻が来なかった。ならばあの手が使えるか。隣で窓の外を眺める後頭部に話しかける。
「なあ、依よ」
「うーん」
眠そうに唸るのがいじらしい。頭を撫でてやろうとして、やめた。そういえば嫌がっていたな。
「……愛しているよ」
「そう。どうもありがと……」
上の空で謝礼のような言葉を発して、大きなあくびをひとつ。そのまま背もたれに身を預けて寝入ってしまった。駄々をこねたり叫んだりで疲れてしまったのであろう。ひざ掛けを一枚、肩にかけてやる。
ぬしの手は汚させない。
まさかの難聴系主人公。




