風の絆
今回は依ちゃんの親友による語りになります。友情物です。それはそうと両脇に「♰」がついてそうなタイトルですね。♰風の絆♰みたいな。
うーん、読むとしたらウィンダムストリングス?
依とは、小学校からの付き合いだった。
私もあの子も走るのが好きで、中学校では陸上部に入った。陸上部で私は短距離を選んで、それは伝えたから当然依も同じにするだろうなって思ったらあの子は長距離を選んだ。
何でって聞いたら、私には長距離のほうが向いているわって身もふたもなく言ったっけ。向いている種目をやったほうがつづくのではなくて?だって。その言葉通り県大会優勝した。マジで?
どこか現実的でドライなところのある子だった。
勉強は私と全然違ってよくできた。一度教えてもらったことがあるけど、私がわからないのがどうしてわからないのかわからないみたいで、先生には向いてないわねとか言ってた。
お父さんもお母さんも優しくて、弟もかわいい。ちょっときついことを言う子だったけど友達もいた。リア充って本当にあの子のことだと今でも思う。
それなのに時々遠い目をして、どこか違うところにいる人みたいになっていた。何の夢見てたのってみんなが聞いたら、うつし世は夢、夜の夢こそまこと……とかなんとか、小難しいこと言って質問を避けてたっけ。
ほんとに遠いところに行っちゃったわけだけど。
依がいなくなって、私は高校生になった。今、私の髪はパーマがかかって明るいキャラメル色をしている。そもそも校則の厳しくない高校に入ったのはこのためなんだ。部活は軽音部に入ってみた。
依以外の、ほかの友達とは今はあまり接点がない。何ていうか……みんな、依のこと忘れたがってるような気がして。
忘れたがってるのは私もなんだけどね。陸上もやめたし、無理やり当初の予定通り髪を染めた。実際、表面上は忘れてたよ。忘れたふりしてた。
「もしもーし、由香ちゃん?」
あの日、依のお母さんから電話が来るまでは。
「あ、はい、由香です」おばさんから電話が来るなんて本当に久しぶりだから何だか改まってしまう。「お、おばさんどうしたの?」
依がいなくなってもう四か月もたつ。
明るかったおばさんはすっかり塞ぎ込んでしまっていた、それが最後だ。なのに、今のおばさんは昔みたいに明るい。娘がいなくなったとはいっても四か月もたつし弟もいるから、元に戻ったのかな。
その時私は何をしていただろう。何か、お笑い番組でも見ていたと思う。笑い声を覚えているから。
「依のことなんだけどね」びくっとした。忘れようとしてたのがばれたかもなんて、ありえないことを考える。
「いい加減、あの子の部屋を片付けようかなって思ったの。あの子のことだから、由香ちゃんに借りたまま返してないものか何かあるんじゃない?」
上がっていた口角が下がる。テレビの笑い声が空虚に響いた。やっぱり、依は帰ってこないんだ。でもどこか認めたくなくて特に何か貸した覚えはないけど依の家に向かう。
二階建ての一軒家。きっと、夫婦に小さな男の子一人じゃ広すぎるだろうな。もう一人、誰かいないとさ。
「いらっしゃーい」
久しぶりすぎておばさんの顔はまともに見れなかったけど、あの明るい笑顔なんだろうなって思ったら元気が出た。
居間のベビーベッドには依の弟の……うん、あの名前はちょっとないと思うな。名前は伏せるよ。とにかく弟くんが天井を見上げてきゃっきゃと笑っていた。天井にゆらゆらするおもちゃでも吊るしてあるのかな。この位置からじゃ見えないけど、きっとそうだよね。
依の部屋のドアは軋んだ音がした。中は中学の頃に遊びに行った時からほとんど配置を変えていない。しかもさっきまで人がいたみたいに雑然としている。
椅子は立ったままの形に、斜めを向いて机から離れているし、ベッドの掛布団はしわになっている。でも、人がいたのは本当に四か月も前なんだなって思った。
だって、部屋の中の全部に薄く埃が積もっているもん。持ち主がいなくなってから四か月、掃除すらされずに、この部屋は放置されていたんだ。本当に、いなくなったんだ。




