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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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祈り届かず、ただ想う 2

 おじいちゃんがのろけます。二話連続それだけの回です。

 叔母にもらったとか言っていた、あの浴衣もよかった。少し地味だとか言っておったがあの清らかさは何物にも代えがたい。穢したくなるのは邪神の性か、それとも。

「助けるわ」

 泣きそうな唇からずっと望んでいた答えを得た時、情けない話ではあるが何も考えられなかった。誰にも、自分自身にももう期待などしていなかったから当たり前じゃ。まだ終わってない、まだ頑張れる、そう思った。

 依は異常に呑み込みが早く、ほとんど指導が要らなかった。少し寂しい。

(封印が解けたら、どこ行きたい?)

 まだ涙の残り香が見える濡れた瞳。二つに分けて括ったところから出ているおくれ毛。目を奪われているのを察されないかとひやひやした。

(ベテルギウスじゃな。あとどのくらいあるか、わからん。それから馬頭星雲とかいうのも、本当に馬の頭に似ているかどうか見てきたいものじゃ)

(……ごめん地球上でお願いできる?スケールが大きすぎるわ)

(ならばアマゾン。ピラルクーは醤油を掛けたらうまいかの?)

(相変わらずね。大きいのが好きなの?)

 戦慄した。

(!?い、いや!そんなことはない!決してない!小さいものも良いと思う!大きいから何でもいいってことは、ない!絶対!)

(何を慌ててるの……?)

 わからなかったらしいがわからなくてよい。よしよし。小さいのは悪いことではないからな。頭で会話を続けながら、心の底では何度も何度も、好きだと叫んでいた。実際には言えない。言えるはずがない。

 きっと好きだと言えば、好きだと返ってくる。しかしその好きは儂の好きとは違う。

 依からすれば儂は楽しいことに誘ってくれ、なやかやと世話を焼いてくれる老人じゃ。一緒にいるといいことがあるし、面白いから私ついてくだけなのよと、そういうつもりじゃろう。

 好きは、好きなのじゃろう。あれは幼すぎる。異性を異性としてすら、本当に認識したことはないと見える、あどけない娘の好きという感情はまだ欲が混じらず、青い。

 こんな欲に塗れた好意とは違う。それを、答えという形にしてしまったら最後、取り返しのつかない誤解をしてしまいそうで恐ろしい。だから伝えない。伝えぬ以上は一方通行じゃ。それでは何ともならない。わかっている。

 せめて、手を握るくらいはできればよかったが、現実はもっと無様じゃった。つなごうと伸ばした手を、何度も何度も引き戻して、依にその腕を掴まれれば竦みあがり、口を開けばみっともない嫉妬があふれ出す。

 それでも依はとくに気にしなかったようで、よかった。うるさい先生に怒られたくらいの心づもりなのじゃろうな。はーい先生、と言うておったし。ああなんとかわいい奴。

 嫉妬だけでもなかったやもしれぬ。少し恐ろしかったのじゃ。

 純な娘の体内にそれと気づかす淫蕩を注入した結果が、稲妻の閃きでぱっと目前に現れたような、鮮烈でグロテスクな一種の啓示。紫の上を作るつもりが、ナオミを作り上げてしまったようにすら思えてくる。

 しかし作り上げるってほど触っても構ってもないことも承知している。ただ取り返しのつかないことに手を加えてしまったような気がするだけじゃ。

 実際にはそうではないと知っている。子犬が性別も何も関係なくじゃれて遊ぶように、すべてが子供っぽく無邪気な言動で、深読みしすぎているだけなのだと。

 依がどこか大人びて見えるのは、本人の気質云々もあろうが、それ以上に儂の願望がそう見せている。もう少し年かさで、この愛を受け入れてくれるような女を依の体内に望んでいるのじゃろう。

 それを依が感じ取って――それも、「大人っぽさを求められているらしい」というあいまいかつ不完全な形で――自分でも気づかないうちに背伸びをしている。それが悲しく、愛おしい。

 ならば猶更、言えるはずもなく。ただ、今になってみれば、言っておけばよかったと思わないこともない。

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