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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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忘却の彼方で逢いましょう

 記憶力が悪いって辛いですね。はい。そういう回です。

「……ふぁ」

 そして目が醒めた時、私はおじいちゃんに関する何もかもを忘れていたの。

 何だったんだ、さっきまでの前置。いつもの我が家じゃないか。何だか妙な夢を見たなあ。水、水。寝ている間に汗でもかいたのかしら。喉が渇くわ――ぼんやりする頭をふりふり、コップに水を注ぐ。うーん水道水旨いわ。

 今日は……どうしようか。夏休みに入ったから学校もないし、家にずっといるっていうのもおかしいわね。図書館にでも行こうかしら?じゃあ着替えないと。タンスを開けた。

「な、ナニコレ」

 ひらひらとふりふりがそこには満ちていた。何かの見間違いだと思い、一度閉める。もう一度開けた。見間違いじゃなかった。何で?しばらく首を捻った私は、叔母ちゃんのいたずらだと思うことにした。

 我が叔母、忘草甘味。色んな意味で計り知れない不審者よ。夏でも冬でも同じような服装してるし常にテンションがおかしいの。そもそも私がこんなとこに住むことになったのもあの人が原因だし、あれ?

――どうして私はこんなところにいるの?

 まあいい、寝ぼけているんだろう。お腹は減ってないわね……昨日ドカ食いしたのかしら。よく覚えてないわ。

 とりあえずパジャマから着替えなきゃ。一番マシそうなのは……うん。紺色の、これかな。これを着ておこう。鏡を前にパジャマの襟に手をかけた時だった。

「あれっ?」

 あらわになった私の左胸には、変な形の痣があった。人が爪を立てた痕みたいな、青紫色の小さい痣。それがつながって、直径6センチくらいの円を描いている。

 身に覚えがないけど、タトゥーシールの類かしら?剥がせないようだけど、お風呂とかで洗って落とすのかしら。まあいいわ、服着ればわからない位置だし、今日はこのままで。

 ワンピースは意外に似合っていた。細いからねえ、ハンガーに吊るのと大差ないのよ。靴箱にはサンダルと靴。どちらも女の子らしいデザイン。くっ……ここにさらにこれを装備、だと!

 装備品は装備しないと意味がないわ。仕方なくサンダルを履いて、外に出る。

 鍵を閉めて、そしたら隣の家の前でお兄さんが花に水をやっていた。イケメン、それも男に興味がない私にときめかせるほどの上玉よ。

 やがてイケメンは振り向いた。

「やあ、依ちゃん。うちの弟に用かな?あいつ寝てるけど」

 声までイケメンだった!誰この人。まさか弓削のお兄さん?いや、弓削のお兄さんはこんな顔じゃなかったと思うけど。もっとこう、なんていうか……まあいいや。

「いいえ。今日は暇だし図書館に行こうと思って」

 イケメンお兄さんこと敬一さんは少し変な顔をした。顎に手を当てて、何か考えているみたい。どうかしたのかしら。

「……そういうことか。ねえ、依ちゃん。神社へ行ってごらん」

「神社って、あの?」

 坂の上だわ。しんどい。あからさまに嫌な顔をした私にも敬一さんは眉一つ動かさない。クール属性おいしいですわ。

「うん。たしか君は、陸上をやってたんだろ。ちょっとした運動になると思うから」

 私は首を傾げつつも、まずは図書館へ向かうのだった。陸上やってたなんて敬一さんに話したかしら。弓削には話した……かな。じゃあ知っててもおかしくないや。

「あ、どうしたのお前」

 大きな家の前を通り過ぎようとしたら、門越しに大きな犬が尻尾を振っていた。珍しいなあ。撫でてと言わんばかりにぴすぴすと鼻を鳴らしている。

 ちょっとためらったけど、撫でてやることにした。門は格子になっていて、隙間に私なら手首まで通るの。毛足が長くてもふもふねえ。立派な毛皮を着て、お前暑くないの。あの人にも触らせてあげたいわ。

――どの人かしら?

 ちょっとわかんないや。それにしても、歩いてみると思ったより遠いな。弓削みたく自転車か何か、あればいいのだけど。

 私はどうして持ってないんだろう。こんなとこ、お世辞にも都会とは言えないんだからあった方が絶対楽なのに。畜生。

 謝れ、JC衣川!

 知るか、JK衣川!

 図書館についたとき、私はもうヘロヘロだった。

 20分くらいあれば往復できるとかいう謎の目測は何だったのかしら。めっちゃ遠いんだけど。徒歩で一時間以上かかっちゃってるんだけど。足の裏が痛いわ。

 しかもバス停が近くに……何でバスを使う気にならなかったのかしら。よくよく考えてみれば神社はもっと遠いのよ。帰りは誰が何と言おうとバスなんだからね。

 しばらくひーこら言いながら休憩して、当初の予定通りよさげな本もがなと本棚の間を巡行する。むーん、ずいぶん借りてなかったけど読んだ本ばかりね。

 もしかして、だからこそ来なかったのかしら。ここ数日の記憶があいまいだわ。きっと夏休みに入って平坦な日々を過ごしていたからでしょう。えらくない、ちっともえらくないわ。

 最初からわかっていたようなものだけど、収穫はなかった。バスに乗って家へ帰る。疲れたわー。確か、冷蔵庫にゼリーがあったわね。あれでも食べようかしら。

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