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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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終わりの始まり

 次回から本気出します。次回からSAN値ずんずこ削ります。次回から。

(では行くぞ)

(あいあいさー!)

 神社の鳥居を出ると、目の前に唐突に立ち並ぶ屋台と行き交う何者かの群れが現れた。

 さっきまでは鳥居の向こうはただ暗いだけだったのに、提灯や豆電球できらきらしてる。地面は明るい。ひとの顔も、服も。そこだけ見るとまるで真昼のようね。空は相変わらず均一な紺一色なのに不思議だわ。

 後ろを振り向くと、鳥居があるだけで中の神社は全く見えなかった。納得。

(ところでお金はあるの?)

 もちろんなかったら依直々に払っちゃうシステムよ。色々おごってもらっちゃったし、このくらいは返させて?

(ある、とも言えるし、ない、とも言える。払う必要もない。みな見世棚からかっぱらうだけじゃ、商売すらしとらん)

 合法万引きだと。ここまで前科も特になく、ごくごく善良な人間としてやってきたというのに、ここへきて万引きかッ。悔しいのう。

 おじいちゃんと頭の中で会話を続けながら、参道を下りていく。私は歩幅が小さいから時々待ってもらわないといけなかったのをよく覚えているわ。

 こちらの住人たちは、二人か三人でくすくす笑ったり、小声で話したりしながら歩いていた。一人なのは、特に何も言わないわね。別にそこにいるどれも、顔面が犬とかそういうことはないわよ。

 浴衣だったり、半袖にズボンを穿いていたり、普通の人みたい。白髪にほとんど黒目のおじいちゃんの方がよっぽど人外よ。

 でも、何となく違う。見ていると不安になるような、にへらにへらって感じの笑顔。両目はどこを見ているのか、焦点があっていない。

 彼らは通り過ぎざまに、または少し足を止めて、私をじっと見た。かわいい、とかではなさそうね。もっと、粘り気というか湿り気のある視線だわ。おいしそう、かな。ダブルミーニングでどうぞ。

 隣を歩く彼もその視線に気づいたみたい。離れるなよ。うん。深く頷く。でもちょっと怖いな。人見知りってわけではないのだけど、少々初心でね。こういう視線には慣れていないのよ。

 そっと下に目をやると、さっきからふらふらしているおじいちゃんの手が見えたの。そうだ手をつなげばいいじゃないの。

 ただその手はかなり大きいから、私の手が小さいせいもあるけどちょっとこれと手をつなぐのは難しいわ。思いついて、いくらか握りやすそうな肘より少し上を握った。ごつごつしていて、体温は意外に高い。

 周りから、おお、とか、ほお、とかの声が上がった。おい、女子高生はともかく既婚の老人をはやすな!

(こうすれば、離れないわね)

 見上げて笑いかけたら、彼はこっちに顔を向けて目を見開いていて、いつもほとんど見えない白目部分がいくらか露出していた。

 それから前を向いて、つないでいないほうの手でパナマ帽を前に傾けたから、私からは強く結んだ口元しか見えない。

(……その、依)

 足を止めずに、脳に直接言ってきた。もちろん木でくくったような鼻まですっぽり帽子に隠れちゃってるわよ。歩けてるのが不思議ね。前見えてるのかしら。

(ぬしは、誰にでもこうなのか)

(こう、って何が?)

 おじいちゃんをちょっと引っ張って屋台の真っ赤なリンゴ飴を手に取る。おばちゃんは楽しそうにニヤニヤしているだけで何も言わなかった。そういうものなのね、きっと。

 ぺろぺろと飴部分を舐める。甘いー。覚醒世界のと違ってどこか不思議な味がする。帽子越しにおじいちゃんがこっちを見ているのが分かる。やっぱり見えてるのかしら。

(今日、覚醒世界の方でも祭りに行ったろう、……その)

(弓削?ああ、誘われたから行ったわ。それが?)

 何だか歯切れの悪い言い方。子供の交友関係を気にする親みたい。ていうか弓削の存在バレバレね。何のために隠してたのかしら。一応あの時点での最善策ではあったと思いたいけど、あまりにお粗末だわ。

 何だか恥ずかしくて思わずリンゴ飴に噛みついた。ばりばりと咀嚼する。

(それだけか?)

 帽子が上がって、ほとんど黒い目が見えた。悪いことをして先生に怒られた小学生みたいに口を尖らせる。

(盆踊りと買い食いをしたわよ。花火も見たわね。でもそれだけ。本当よ)

 黒い目に私の顔が映る。潔白そのものの顔をしていると思うけど、そもそもの表情筋が貧弱にできているからひょっとするとおじいちゃんにはわからないかもしれない。そう思うと悲しくなった。

(……左様か。しかし、ぬしも女じゃ、誘われたとてほいほいついて行くのはどうかと思う)

 ほんとに生活指導か何かの先生みたいだな。知ってる人でもほいほいついて行っちゃいけません!ってか。でもそれだとおじいちゃんにもついて行っちゃいけないことにならない?まあ、細かいことはいいか。

(はーい、先生)

(だからそういうのをよせと……はあ。まあ、良いか。楽しもう)

 リンゴ飴はとうとう芯と刺さっている割り箸だけになってしまった。ゴミ箱は……と。不思議空間にもちゃんと分別あるのね。しかも表示が英語だわ。ハイカラすぎる。

 落下音がしなかったけれど、さっき入れたゴミはどこへ行ったのかしらね?

「んん」

 突然、太い指が私の口元をぐいと拭った。何か光っている。指先でつまんでいるのは赤い飴の欠片。

 でも……何かがおかしいわ。

 視界がぐらぐらと動き出す。でも掴んだ腕は動かないから、地面が揺れているわけではない。相手はそのまま口に放り込んだ。

(こんなところに弁当がついておるよ?)

 弁当。口元に食べかすがついている、の別な言い方ね。食べかすということはさっき食べていた……そうだ、リンゴ飴。リンゴ飴を食べていたのかしら。だって口の中は甘いし、でも……。

 この人は、誰?

 目につくのは白と黒。髪が白くて、眼は真っ黒で、それから、それから……揺れる世界が漂白されていく。全部白い闇に呑み込まれて、見えない。何も。

 そもそも目を開けているの?

 掴んでいるのは、この人の腕?

 指先から感覚が消えていく。さっきまで何をしていたか、うやむやになっていく。

(くっ……まだ聞こえるか!?依、そこから逃げろ!)

 最後に切羽詰まったような声がして、感覚が戻ってきた。なくなった時と同じに指先から。布……タオルケットかな。何も掴んでいない。枕に後頭部を預けて仰向けに横たわっている。目を開けた。

 リンゴ飴はうまく食べられない。よくある話ですね。

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