表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
60/100
52/98

地域密着型旧支配者

 あまり主人公のSAN値が減ってませんねえ。でも恋愛はしてる、のか?

 この夜の約束は、私たちの服装からも分かるわね?こっちでも夏祭りがあるのよ。何でも、いる輩がほぼ人外ってところを除けば覚醒世界の方の夏祭りの数倍豪華なんだとか。

 危ない?保護者にはおじいちゃんがいるんだから、ちょっとくらい危ない橋を渡っても構わないでしょ?

 え、だめ?つまんないの。

「さあ、行こうか」

「うん!」

 手をつないで、身を投げるように足を踏み出す。前に大きく体が傾いで、木っ端のように落っこちていく。

 高いところから身を投げたような浮遊感と風の冷たさは、きっと私じゃなくておじいちゃんのイメージ。なぜって……さあ。宇宙から来たおじいちゃんにとって長距離の移動は落ちるものなのかしらね。

 しばらくして立つ面が変わった。さっきまでの地面と垂直だ。立ってはいるんだけど、どうもふわふわとして頼りないわ。体を折り曲げるようにして、おじいちゃんが私を覗き込む。

「不安かの?」

「うん、いつも重力の魔に憑りつかれてるから、自分が軽いとちょっと怖いわ」

 今いるのは、どこかの神社の境内ね。明るい月の光にほんのり青白く細かい砂利と銀杏が浮かび上がる。空は一点の星もない深い藍色なのにね。

 狛犬の後ろ姿は黒々とどこまでも暗く、意外に大きな色あせた本殿は空虚に夜風を吸っては吐いて、やっぱり白っぽく照らされていた。昼間とはずいぶん趣が変わるけど、わかるわ。

 どこかも何も、おじいちゃんの封じられてる神社よ。

 本殿までは長ーい石段なんかない、傾斜きつめの坂があるだけの親切仕様。途中に今は閉まってるけど色々なお土産のお店や果てはイタリアンレストランまで並んでいる。

 公衆便所も全部で四か所。男性用女性用それ以外と三種類を取りそろえているわ。それ以外、不思議と使用頻度は高いそうよ。

 案内所には数か国語話せる人がいて来るかどうかはともかく外国からのお客さんも安心。内部にはジュースとうどんの自動販売機と周辺地図が置いてあるわ。それでなくても休憩用にベンチが取り付けられているしねえ。

 そういえば最近、震災時にかまどとして使える仕様になったそうよ。知ってた?ああそう。

 最後に、そんなに主張しないけど立派な石造りの大きな鳥居。何と、車でも入れます。車のお祓いも始めたそうよ。

 今更だけどこんなにオープンでいいのか、邪神を封じる神社。

「ふむ……不便じゃの。ま、すぐに慣れるじゃろ。やろうと思えば固定もできるがの、教えん」

「あら、ありがと。そう思ってみるといつも通りに戻ったわ」

「馬鹿な……早すぎる……」

 おじいちゃんにまでこんなこと言われるなんて、どんどん人間性がすり減ってくわね、私。おじいちゃんはしばらく悲しそうに賽銭箱の前の鈴をじゃらじゃら鳴らしていたけれど、しばらくして口を開いた。

 あのおっきい鈴。あれって神様のお呼び出しに使うのよね?セルフなんだけど。セルフお呼び出ししてるんだけどあの人。やだー。

「さて、祭りに行くにあたりいくつか注意事項がある。聞くな?」

「はーい!」

 いい返事に破顔してずれたパナマ帽をかぶり直す。

「まず一言も話してはならぬ。あれらは臆病じゃ。我らの正体が露見すれば恐慌を起こして何もかもがおじゃんになるじゃろう。意味のない叫びとかため息とかは大丈夫じゃ」

 むーん。思ったよりありがちな規制ね。顔面に目って書いた紙を貼りつけなきゃいけないのかと思ったわよ。

「そんな漫画みたいな……とは、否定しづらいのう。術としてはある。じゃが人ならぬ我が身じゃ、そこまでするとわざとらしかろう」

「なるほどね。目立たないように灰色の上下を選んだら逆に目立つみたいな話ね」

 いい例えじゃな、と私の頭を撫でる。むむ、髪の毛の法則が乱れる!気安く触れるでない!

「しっしっ。……けど、喋らないでいたら、あなたとはどうやって意思を疎通するの?」

 よし、よし。払われた手をにぎにぎしつつ、寂しそうに頷いておじいちゃんは続ける。

「声を使うな。頭で会話するのじゃ。やり方はゆっくり説明する」

(頭で……こうかしら?)

(こいつ……直接脳内にッ!)

 そんなに難しくないわね。いけるいける。

(せっかく説明しようと思うたに、一言って十わかってしまうのじゃのう)

(優秀でしょ?褒めてもいいのよう)

(構わんが、思考を何でもかんでもそれに乗せるでないぞ。ぬしは静かなほうじゃが、たまに連想ゲーム的な雑音が流れ込んでくるわい)

(はーい)

 あの感覚は何とも言いづらいわね。だって人間の感覚器だと絶対検出できないし、だから似てる感覚を探すのも難しいわ。せっかくだから説明してあげたいのだけど……。ただね、気持ちは周りには聞こえないけど大声で内緒話をしているような気持ちなのよ。

 他の約束事は割と何でもなかった。だって人型とってる限り破りっこないやつばっかりよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ