下着とラブコメと錯乱する価値
クリーンとは何なのか。
「さて次はあっちの店じゃ」
つと指さす先に見えたのはマネキン。肌もあらわに堂々と胴体だけが立っている。そりゃそうだ。彼女に展示されているのは下着だもの。
「……下着の店なんて何の用があるのよ」
「下着を買う用に決まっておろう。ほれ、サイズを測ってもらって来い。それとも儂が測るのか?」
嫌々ながら従う。任せたのは私だから恨むべきも私。おじいちゃんに測ってもらうって選択肢はないわ。だって体は弓削だもの。生理的嫌悪感が止まらないでしょ。友達でもそこは庇いかねるわ。
いえ、友達だからこそ嫌なのかもしれないわね。
細かいサイズについては割愛するけど、測ってみてわかったのは、自分で思うより胸があったということ。まともに測ったことなかったからサイズが違うのは当たり前と言えばそうなのだけど、上方修正がかかるなんて我ながら意外だったわ。
それでも貧乳に変わりはないけどサイズの合う下着に変えてみたら確かにちょっといつもより楽だった。おじいちゃんの言うことも一理あったようね。
「とりあえず五着買っておこう。それで回せ」
「……はいはい」
お礼を言おうとしたら出鼻をくじかれた。しかも好みのデザインとか一切聞かないのね。サイズだけ合わせて勝手に買うのね。次に向かったのは靴屋である。弓削の両手は既に荷物で埋まっている。こんな状態でどうやって持つんだろう。
やっぱり今度も女の子らしい靴だった。フェミニストに目をつけられそうね。とはいっても私自身に主義主張はないから履き心地さえ保証されれば何だってかまわないわよ。
いつか選んでくれるの?あなたが?……うふふ、ありがとう。
「おじいちゃんってさ」靴を試着しながら聞いた。だから相手の顔は見ていない。だって下を見るでしょう。「ひらひらとかふりふりとか、好きなの?」
少し間があった。
「それ自体を好むわけではない。世にある衣服はすべて、ぬしに似合うからこそ価値があるのじゃ」
あら、当時は何も思わなかったけどよく見たら逆説的に紳士服の価値を否定しているわね。このひと明日から全裸で生活する予定かしら。あんたの全裸なんて誰が得をするのよ。
よくわからなかったから、ふうん、とあいまいに返事をして、靴を履いて数回足踏みして、問題ないから一旦脱ぐためにスツールに再び腰かけた。再び、おじいちゃんに背を向けた。
「……何だかやっすい恋愛小説の告白みたいね」
そんな目で見ないで。この頃告白をでっちあげたりして恋愛脳だったのよ。特に深い意味はないわ。おじいちゃんはそれについて何も言わなかった。言おうとしたかもしれないけれど、そこまではわからない。
「では、行こうか」
言わなかった言葉を、私が拾えるものか。
「まだどこか行くの?」
「ぬしは水着を買いに来たのではなかったか?」
そうでしたね。うっかり本命を忘れるところだったわ。このままじゃ水着までおじいちゃんセレクトだけど、それも悪くないかもしれない。ふりふり系は恥ずかしいイメージがあったけど着てみるとそこまででもないもの。新天地で新しい自分ってのも悪くないかもしれないわね。
どうせ人間辞めるし、人としての尊厳なんか知ったこっちゃないわ。あぶない水着でも何でも出してきなさい。ばっちこいよ。
と、思っていたら割とまともなセパレートタイプが出てきた。何て言うのかしらあれ。ビキニとは違うわよ、お腹が出てないから。おじいちゃんの選ぶものは意外に露出が少ないの。
「どうじゃろ」
「別にいいと思うけど……ちょっと意外ね。男の人ってもっと肌が出るようなものが好きだと思うのだけど」
「何でぬしの肌をどこのともつかん馬の骨にさらしてやらねばならんのじゃ。案件じゃぞ、案件」
相変わらず貧乳尻無仏頂面だから見てもあまりうれしくないと思うけどなあ。喜ぶなんて人は特殊性癖としか言いようがない。
え、嬉しいの?変なの。
おじいちゃんは一度試着させた後、「よし、よし」と水鏡先生式に頷いて、そのままそれをレジに持って行った。今更なんだけど弓削の財布が氷点下に達していそうね。
後で聞いたところによれば、おじいちゃん専用の口座とそこから適宜引き出せるクレジットカードがあって、それで支払いをしているらしいわ。お賽銭とか、そういういかがわしいお金じゃないわよ。実はクリーンなお金なのよ。
ちょっと想像できないかしら?もちろんアルバイトなんてしてるわけではないの。そこまで酷使したら弓削が死んじゃうわ。だから働いてはいないけれど、収入はあるらしいの。
商店街とか、参道とかに出ているお店には神社のグッズがあるでしょう。あの売り上げからいくらか、使用料として手に入るんですって。まるで芸能人みたいな話よね。
いい気なもんだわ。
おっとっと、また脱線しちゃった。戻らなきゃね。




