それいけ大人のショッピング
少女漫画にありがちな展開を強いてみました。まだあきらめてないんだからね!
おじいちゃんが向かったのは、普段私が行かないような店だった。フェミニンというかふりふりというか。女の子女の子した感じの服が置いてある。確かに世の男性が好みそうね。
「えー、こんなの着るの?」
「うむ。嫌か?」
おじいちゃんが差し出したのはよりによって白のワンピースだった。また男の幻想の王道を持ってきて……ふんだんにレースやフリルが配されているのが何とも痛々しい。
「……なんかちょっと……黒歴史になりそう……」
「こういうものは似合う時期が限られておるのだから、似合ううちに着た方が良いのではないか?のちにそれを思い出して苦々しく感ずるとも、それも一興」
それもそうなんだろうけどちょっと恥ずかしいわよ。
定番のノースリーブではなくて、半袖で麻混の少しざらっとした感触なのが救いではあるけれど、だからってレースやフリルが消えるわけではないの。
こんな女の子丸出しな服装はしたことがない。他の人が見たら何て言うかしら?
私の言葉に、おじいちゃんは何を言っているのかわからないとでも言いたげにはにかんだ。
「以前のぬしを知るものなど、もうとっくにおらんだろう?」
暗い穴の底に突き落とされたような気がした。よく言われる、目の前が真っ暗になんてならなかったけど、それはきっと穴の底の暗さに目が慣れていたからでしょうね。ずっと前からいたせいで。
そうよ、わかっていたことなの。最初からわかってたわ。友達にも家族にも、縁を切られたのよね。しかもだいぶ前に。だから今更傷つくなんてことないわ。
なかったはずなのよ。
「……さ、何はともあれ着てみよ。きっと似合う」
だから、言葉を失って唯々諾々と試着室に入ってワンピースに着替えたわけではないの。単に何も言うことはないと思っていただけなんだから。
ほら涙だって、後になって、それもちょっとしか出なかったでしょ?
ワンピースは透ける素材などでもなく、胸元が大きく開いてもいないわりと清楚なデザインだった。レースもフリルもごてごてしている感じではない。
レトロというのかノスタルジックというのか、あまり私にはわからないけれど、多分そういうものだ。
そっと試着室のカーテンを開けた。
「こう……?」
「よし、よし」水鏡先生みたいな返事をして、おじいちゃんは二着目をどこからか取り出した。ちなみに水鏡先生とは私が宇宙一好きなキャラクターなのだ。「これも着てみよ」
出典は三国志演義よ。あら、読んだことないの?名作よ。女性の存在意義が牛以下の時があるけどね。彼らに女性の扱いを学んじゃあ駄目よう。あはははは。
閑話休題。
おじいちゃんは「似合う」と言っていたのか、それとも?今回渡されたのはさっきのとは全然違うデザインのもの。だったら似合ってないから次を渡されたと考えるのが自然よね。
やっぱり私にはああいうの、似合わないのよ。胸もないし尻もないし色気もないし優しさもないものねえ、仕方のない事よ。
え?今似合ってるじゃないかって?まあまあ最後まで聞きなさいよ。そのときそう思ったのよ。「よし、よし」は似合ってるの方だったわけね。
再び試着室から出てきた私を迎えたのは大量の服が入った紙袋だった。言葉を失って、紙袋を手にニコニコ笑っているおじいちゃんを見つめる。次に同じくらいニコニコ笑っている店員さんを見る。どういうことこれ。ねえどういうことこれ。
「ぬしが買えと言うたのではないか」
そうでしたっけね。でもこんなに大量に買ってくれと言った覚えはないのよね。嬉しいシチュエーションではあるんでしょうけど、これを一体どこにしまえばいいのよ。うちにこんな量を収納できるようなスペースはありません!
「いや、これらをしまってまだ空きはあろうよ」
「どうしてそう断言できるの?私自身すらちゃんと把握できてないのに」
おじいちゃんの笑顔が凍り付いた。フリーズしたまますーっと横移動する。え、何?どこ行くのよう。
私はこの服を着替えたほうがいいのよね?え、着替えなくていいの。でも値札が……取ってるわね。くううう。これを着て外を歩けと!
「ねえ、私の服は?いつの間にか試着室から消えてるんだけど」
あああれか、と無造作に彼は少し向こうの店を指さした。一昔前の洋服が吊るされている。
「そこの店へ持っていったら紙幣を何枚かもろうたわい。ほれ三千円」
「売るな!」
あれ、気に入ってたかどうかはともかくぱぱっと着れるから便利だったんだぞ!今すぐにでもはっ倒したい気分だったけど、はっ倒した場合損害を被るのはおじいちゃんではなく体を使われている弓削なので疼く右腕を抑え込む。くっ……鎮まれ邪神……!
主人公にのみ都合のいいことになるのをよく見るのですが、そうはならなかったようでがす。
俺様系にはちゃんとなってるように思います。




