フードコートの誓い
忙しいんです勘弁してください。
腫れた頬は二日もすると元通りになったわ。どうも再生力が高くなっているみたいね。触手細胞をこう、研究施設かどこかに持っていったら不老不死の研究がオンユアマークだわ。現代の科学で解明できる代物かどうかはちょっと置いといて。
ね?お姉ちゃんのお願い。聞き分けてちょうだい。
今日はちょっと頑張って、この町で一番大きなショッピングモールへやってきた。この町どころか、この県内で一番大きいんじゃないかしら?だって地図がないと絶対迷うし。
あら、今は二番目なの。そっちも行ってみたいわねえ。今度旅行から帰ってきたら行ってみようかしら。
おばちゃんの仕送りもひっそり貯めてたから豪遊だ!私は少々舞い上がっていた。買う物は水着と、新しい服と、日焼け止めクリーム。
季節が季節だったから、夏服を持って家を出てこなかったのよ。服に関しては触手のおかげであってもなくてもどんな服装でも体温は一定に保てるのだけど、おばちゃんみたいになるのは嫌なのよね。それに女の子なんだからおしゃれはした方がいいと思うの。
日焼け止めクリームは……買うのを忘れていたことにやっと気づいたのよ。こんな夏本番になってからなんておかしいって?たまたまこの年日光が少なかったんでしょ。これから紫外線が増えるかもしれないから買っておいた方が安心ね。
というわけでやってきた巨大モールの一角、なぜか私はフードコートでお冷を目前に置いて座っていた。
「うむ、なぜじゃろうな」
いやいやいやいやいやいやいやおいおいおいおいおい!元凶が言いますか!?元凶が!お前のせいに決まってるでしょ!?何で首傾げてんの!?何で私の金でスペシャルブレンドコーヒーとか飲んじゃってんの意味わかんない!
と、私はヒステリックに怒鳴り散らしてやりたかったが、周りには人もいるしただ乗り移られているだけの弓削の顔に泥を塗ることにもなるので長く細く息を吐いて気分を落ち着け、それから口を開いた。
「……あなたが、私の行くところにずーっとついてきて、なおかつ、それはどうかと思う、あまり似合わない、を連発した挙句に、ちょっとそこでゆっくり話そう、とか、言い出して、コーヒーを注文して、代金を、私に、つけるからよ」
ちょっと句読点が多すぎるような気もするけれど、自分のヒステリーをどうにか抑え込もうとしているの。暖かな目で見守っていただけるかしら。
一方おじいちゃんは悪びれる様子もなく優雅にコーヒーを啜る。
「だって似合っておらんのだもの」
「コーヒーの代金は?」
「おごらせてしまった埋め合わせに服を選んでやるという自然な流れに持ち込みたかったのじゃが」
「だとしたら華麗に失敗ね。強引すぎるわ。せめてそこまでに言葉とか催眠とかで持って行ってからになさい」
不自然すぎるだろ。神様だってんならちったあ考えやがれ、てめえの頭は飾りか?――お冷をちまちまやりながらそんなようなことを言う。
もちろん、実際にはもっと高い声で、もっと優しい口調で言ったわよ。ただ本心ではこうだったというだけなの。
「言葉はともかく催眠は良いのか?」
「こんな馬鹿げた状況になるよりはマシ。で、服は選んでくれるのかしら」
「以外に前向きなのじゃな」
「だって私はもうおごってしまったもの。あと、お金は出してもらうし、荷物持ちもお願いするけれど……それ以上に、そこまで言うならあなたのセンスがどれほどのものか気になったのよ」
要約、そういうてめえにはプロ級のファッションセンスがあるんだろうな、ええ?なかったら土下座でも何でもしてもらおうかい。もちろん凄んでないわ。ちゃんと婉曲表現で伝えたわよ。
「ふふ」
なぜか兄より魚類に近い弓削の顔が微笑んだ。おでこの絆創膏は我が家の土間で転んだ時のものね。
「ならば、やはり成功ではあったじゃろ?行くぞ、依」
ええ、もうそれでいいわ。でもコーヒーは飲み干していってね。お金もったいないから。




