君への嘘。
最後に「。」の題名って携帯小説っぽいよなと思って丸つけてみました。ちゃんと内容にもあってますよ。
「……実は、告白されたのよ」
「えっ嘘だろお前が!?」
もちろん嘘だよ!ばーかばーか!と言い返してやりたくなったがすべてが台無しになるので言わない。さすがに傷つくわ。でもちょっと恥ずかしそうに顔を伏せて、うん、とでも言っておく。
「世の中には変わった性癖のやつがいたもんだな……」
めちゃくちゃ失礼だけど信じ込んだっぽいのでよしとする。くそっ殴りたい。まだだ、まだ耐えろ。耐えるんだ。
「ほっといてよ……私自身信じられないんだから」
「で、何て答えたんだよ!?」
「ちょっと答えを保留したわ。告白の口上がおかしかったから」
「どうおかしいんだ……衣川に愛の告白をする以上におかしなことってこの世にあるのか……」
やっぱ殴りたい!落ち着け、落ち着くんだ。深呼吸をしろ。すーはー。素数を数えろ。1、2、3、5、7、11、13、17、23、あと何だっけ?
ともあれここからは文系能力の見せ場よ。
「なんかね、YMCKの世界の中で君だけがRGBに輝いていた。助けてくれ、そんな風に言われたのよね」
「はあ……」
「助けてくれは変よね。そうは思わない?」
「ああ、うん……」
「でね、ちょっと考えさせてって言ったら、返事しようにも、相手に避けられてるみたいで会えないの。どうしたらいいかしら」
「ほっとけばいいんじゃねーの……」
あれ?YMCKわからなかったかな?わーいえむしいけい!わーいえむしいけい!てけり・り!
今日もこんな調子で坂を上がった。そういえばちょっと弓削が気になることを言っていた。生理と思ったって言ってた?デリカシーのかけらもない奴だと思ったけど、それ以上に何だか妙な気分ね。
トイレのサニタリーは減っても増えてもいない。もう何か月も使っていないかのようだ。……なんて、使ってないんだから仕方がないじゃない。来ていないもののせいだと思ったなんて言ったから、気持ち悪かったのね。
え?引っ越した当初は生理も来てたわよ?それがどうかしたの?
私服に着替えて、ふらふらとその辺を歩く。保留してるほうはともかく妖怪の駆除に関しては、ちゃんと助けてあげなきゃ。
探知系の触手を細ーくして、空気中に流して、空気から臭いがしたら直行。駆除。復活されるのを防ぐために、死体は食う。慣れてきた。
戦闘にもならない単純作業だ。隣で繰り広げられている小学生の虫取りのほうがなんぼか戦っている。それに比べてこれは、一方的な殺戮。
おじいちゃんを助けるとしたら、もっと強い妖怪を相手にして経験値を稼ぎたいものだけど……。漫画なんかで上位種の扱いを受ける人型の妖怪も何体か倒したわ。天狗、妖狐、大蛇、鬼蜘蛛、牛鬼。まあ確かに、人型でない奴らよりは強かった気がするわ。
でも駄目ね。どれもまったく手ごたえがないの。だって私が触手を出さずにただ殴るだけで倒せるのおかしくない?
え?妖狐は中国の妖怪だろうって?一度山の頂上に登って殺気を発しまくったらおびき寄せられてきたのよ。喧嘩を売ったのは売ったけど、それで来るのが中国からのお客様となると、日本大丈夫かしらね。
――まあ、あんなでもただの人間くらいならトイレのティッシュみたいなもんだから、喧嘩は売らないに越したことはないわよ。馬鹿なことはやめておきなさい?
触手以外もまだ教わっていないし、おじいちゃんと連絡を取ることが先決なのだけど……そこまで考えて、私はやっと、私がおじいちゃんとの連絡を行う方法を知らないことに気付いた。
どうしよう。ここまでの接触は常におじいちゃんからの一方通行だった。弓削の体を使って、おじいちゃんが私に接触してくる。私はそれについていく。いつもそうだった。防ぐ方法も近づく方法もない、一方的な関係だったことに気づいてしまった。
じゃあ私は――いいえ、私個人の心情は今は、考えるのはよしましょう。笹食ってるどころか泣いてる場合ですらないわ。後で泣きなさい。先に考えることがあるはずよ。
触手を使って弓削の項を刺激したら出てくるかしら。この案は却下。できそうだけど、私はそんなに人体に詳しくない。うっかり弓削を殺すか半身不随にしそうね。何より魚兄さんが怖いし申し訳ない。
蛇の道は蛇、魚兄さんに相談すれば方法がわからないかしら。この案もちょっと難しいわね。たぶん方法はわかるでしょうけど、それにはおじいちゃんの現在の状況を説明しなきゃならないわ。
敵対関係かどうかは知らないけど、どっちにしろ深海に封じられた邪神様におじいちゃんにとって不利な情報が流れるのは止したほうがいいでしょう。
魚兄さんを信用していないわけではないけれど、あのひとはこっちの派閥じゃないから別問題ね。もちろんおじいちゃんと連絡を取りたいとだけ言って、複数の方法を教わり、片っ端から試すということもできるから、完全に却下とはしないわ。
おばちゃんを通じて連絡は……どうなんだろう。こっちの住人と思っていいんでしょうが、おばちゃんがどっちの手先かわからないからちょっとリスクがあるわね。
最悪、奥さんの携帯におじいちゃん向けのメッセージを入力するようなことになりかねない。それで奥さんがどう動くか、私には未知数だけど、昼ドラを見るにろくなことにならないことは確かね。
おじいちゃんのいるところへ殴り込む。まあ私らしくてシンプルかつ効果的に見えるわ。でもおじいちゃんはあそこへ降りないように私に言っていた。発狂するかもしれないから、と。助ける助けないは別としても私が発狂しちゃったんじゃあおしまいねえ。
たとえ発狂せずにそこにいることができたとしても、おじいちゃんは耳も聞こえないし鼻も利かない、目も普通の人間くらいは見えるとは言うけどあそこじゃ見えないのと同じだわ。どうやって私は『連絡』するの?
どこかの小説では胸に字を書いていたように思うけど、弓削を通じて触覚を得られないおじいちゃんは私に触ったことがないようなものよね。
詰み、ね。
さて依ちゃんには嘘だけど、本当に嘘なのか……。とりあえず壁でも殴ります。