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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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ヒロインの不在

 何だか主人公が逞しくなりすぎて、おっぱいのついたイケメンになりつつありますね。

 でもここまで精神的な打撃を受け続けてたら、自分の中で成長するしかないと思うんですよね。

 おじいちゃんが出てこない。

 弓削が文句を垂れるから仕方なく毎日学校に通っているが、一時限目から七時限目までずっと弓削だ。弓削にしてみれば元に戻ったということなのだろうが、何だか落ち着かない。

 だってもう二週間になるわよ。おじいちゃんめ、このままずうっと引きこもってるつもりじゃないでしょうね。

 このままずっと?もしかして忘れてくれってそういうこと?まさか思い詰めてるんじゃないでしょうね。緩慢な自殺よそれ。まさか嘘でも助けてあげるって言わなかった私のせい?

 私だって何とかして助けてあげたいわよ。おじいちゃんには何度も助けてもらったから。項から触手が生えてきたときは、それをコントロールして、元通りにする方法を教わった。魚兄さんが出現したときは、筋道立てて何が起きたのか説明してくれたわね。

 そりゃあおじいちゃんたちがいるせいで私は神獣もどきになったわ。親戚縁者に一方的に縁切られて早すぎる一人暮らしで、いっそ触手と心中せんばかりの勢いだけど、こうならなかったら弓削と知り合うことも魚兄さんと分かり合うことも一生なかった。そうでしょう?

 神社の下のジオフロントだって楽しかった。エレベーターでは人生初の――人生かどうかはいいとして、お姫様抱っこをしてくれたわね。筋肉痛でぶっ倒れた弓削にはごめんなさいだけど、私はちょっと嬉しかった。

 蹴っ飛ばされて痛い思いをしたけれど、うっかり発狂する危機だったんだから、助けてくれたことには感謝してる。

 それに私の本当のおじいちゃんは、小さい時に二人とも亡くなってしまったから、ただおじいちゃんって呼びかけるだけでも楽しいの。

 優しくて、時々叱られたりもして。おじいちゃんがいるならあんな感じかしら。セクハラ発言が多いけど、お年を召した男の人ってああいう感じよね。

 助けてあげるって、言えばよかったのかな。嘘でも?絶対嫌。おじいちゃんに嘘なんて吐きたくない。

 だから、私だって何とかして助けてあげたいって言ってるのよ。あったりまえじゃない。でも私は弟のことも心配なの。今頃一歳になったかしら?そんなところで人生を終わらせるのは、良くないと思うの。

 私もね、人間でいたのはたったの十五年だけど、その十五年の間に楽しいことも嬉しいこともいっぱいあったの。その機会が弟に与えられないなんていうのは許せない。

 そりゃあ恋愛はしたことないけど、人を好きになったこともないけど……その倍生きれば、恋愛くらいなことは経験できるでしょう?素敵なことだともっぱらの噂だから、弟には経験してみてほしいのよ。

 え、弟の名前?今、それ重要かしら?話に戻るわね?

「依、明日から夏休みだよな」

「そうね、あんたと私、学校同じだものね」

 この日は終業式のためだけに学校に来た。なんという無駄システム。休みにしろとは言わない、だったら授業をやれよ。勉強嫌いだけど。

 私とおじいちゃんのことなど何も知らない弓削は通常運転である。腹が立ったりはしないが、気分が好転するわけでもない。相変わらずのヘビーローテンションだ。

「ニュージーランド行かね?兄さんの友達の家があるんだって聞いたことあるんだ」

 相談したら連れてってくれるかもしれねーぜ?嫌よ。コンマ一秒で却下する。友達がきっと不快なほど人間に似た魚だろうことはいいとして、言わないとして、だってあそこ、今行ったら冬じゃない。

「そもそも依代にそこまでの行動範囲が与えられているのかしら。依代になってから、この地域から一歩でも出たこと、ある?」

「ねえな」

「じゃあ一歩出た瞬間体が爆散したりして。それとも、どこかの島の巫女風に、出ていこうとしたら当日の朝に戻されるとか」

「うっ……ありそう」

 考えなさいね。でこピンを食らわせて笑いかける。私がイライラしたり、心配したり、悲しんだり、その他さまざまな負の感情を抱いていたとしても、それはどれも弓削の責任ではないもの。できるだけいつも通りに接しましょう。

 完全にいつも通りにできるほど、私も人間はできていないけどね。

「なあ依」

「なあに?」

「何かあったか?お前、最近、ここ二週間、イライラしてるだろ?」

 だからあっさり見抜かれちゃったのね。とっさに返事ができなくて、私は黙っていた。弓削は続ける。

「唯一の友を自負するこの俺に全く心当たる節がねーもんだから、最初は生理かなと思ったんだけど、あれってそんなに続かねーだろ。何があったんだ?」

 何って。おじいちゃんに助けを求められたり答えを延期したら引きこもられたりしてるんだけど、本人の名誉を考えて言わないほうがよさそうね。

「あんたに言うようなことは何も、よ。しかもデリカシーなさすぎるわ。生理かなって何よ」

「当然の可能性に決まってんだろ。まさか兄さんにまたなんか言われてんのか?」

「敬一さんとはウーパールーパーの話で盛り上がったわよ」

「まじかよ」

 じゃあ何でイライラしてんだよ。掘り下げられて私は戸惑った。弓削はこれで聡いのだ。関係ないでしょ、と突き放せば逆にまずいだろう。しかもむちゃくちゃな嘘を吐いてやり過ごせる相手じゃない。

 といって本当のことを言うとおじいちゃんが可哀想だわ。どうしたもんかしら。嘘と紙一重の本当のことを言うしかないわね。

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