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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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粉砕骨折

 お久しぶりです。このペースなら、依代は100話までに終われるのかな?

「壮二ぃ?」

 見るな、と言われたことをうっかり忘れて階段の方へ歩み寄る。彼の聴力なら聞こえているはずだけど答えはない。

 もしかして弓削に戻ってるのかな。だとしたら中で発狂されてたりして……魚兄さんの顔が迫ってくるような幻を見た。ちょっと待って魚兄さん、私は悪くない。私のせいじゃない。たぶん。

「壮二ってば」

 階段の入り口は墓穴に似ていた。赤いガラス質の床にいきなり長方形の穴が開いているのだ。その下へ、赤い色は同じだけど別な材質で階段が降りていく。

 こっちは不透明で、大理石にも似た感触。普通穴の底は暗いはずだが、ここは明るかった。むしろ穴から燦燦と赤い光がほとばしっている。下から。私の脚の後ろに変な影ができた。

「ねえ大丈夫?すごい音がしたわよ……」

 一段、降りた。目線が下がったせいかさらに強く、赤い光が目を焼く。瞳孔がかってに収縮して、視界の明るさが調整される。

 もう一段。三段目、四段目……ここで絞首刑の階段のように、13段になっていることに気付いた。偶然か、必然か。それはいまだにわからない。

 何がいまだにって?まあいいじゃないのよ。細かいこと気にするとモテないわよう。

「あら、何かしら……」

 私の網膜に何か、見慣れないものが映った。光が強くてだろうか、ピンボケになってはっきりと像が結ばれない。もっとよく見ようと目を細くした時だった。

「ぐはっ!?」

 腹に強い衝撃を感じるとともに、斜め上方へ後ろざまに吹き飛ばされる。口の中に広がる鉄の味。何だ!?光が急に弱くなったから視界が一時的に暗転する。

 とりあえず足を地につけたほうがいいのかな……私は吹っ飛びながらもさっと触手を伸ばしてぺたっと床に貼りつけ、自分の体を引き寄せた。ぺっぺと口の中に這い出てきた血を吐き出す。うー、お腹と着地の時につけた両手が痛い。

 ソファが大丈夫ですか!?みたいな顔をして駆け寄ってくる。大丈夫。たぶん。腹っていうか胸元から色々な硬いものが砕け散る音がしたけど、今生きてるから大丈夫。

 両手の指先から、刃のような形に改良した攻撃用触手を20センチほど伸ばす。以前のトンネル妖怪の一件で、私がとっさに取る攻撃方法は平手打ちらしいことが分かったからそれに合わせて作ったのだ。

 といってもただ両手をぶんぶん振り回すだけだから、平手打ちって言うほど立派なものでもないけどね。物は言いようだ。

 ふくらはぎからも触手を展開して足の皮膚の下へ潜らせる。何をしてるのかって、筋肉を増やしているんだけど?だって私の一番の武器って、忘れられがちだけど驚異的な脚力とスタミナよね。強化しとくに越したことないんじゃない?

 忘れてた?罰が当たるわよ。

 視界が広がっていく。あっれー、こんなことできたっけ?これは目が増えてるって認識でいいのかな?すべての感覚が研ぎ澄まされる。臨戦態勢であることは素人でもわかる。来るであろう何かを迎撃する準備を、勝手に身体が整えたのだ。

 誰かが階段を上がってくる足音がした。

「……誰ッ」

「儂じゃよ。よかった、正気じゃな」やはりというか何というか、壮二だった。「すまん、蹴った」

 女子を蹴るなよ。多分だけど肋骨が砕けたぞ。ぶうぶう。文句とブーイングを垂れながら臨戦態勢を解く私に壮二はてくてく近づいてきて、ぽふぽふと背中を撫でて来た。

 おうおう、今更優しくしたって靡かないぜ。この暴力野郎。人を文庫本二冊で落とせるチョロインだと思わないでちょうだい。

「だからすまんと言うておる……儂も必死だったのじゃ。ぬし、降りるなと言うたのを覚えておるか」

 そういえばそんなこと言ってたっけ……私の記憶力、心配である。

「忘れてたわ」

「見ると発狂すると、言わなんだか」

「……そういえば言ってたわね」

 謝るのは私の番だった。ごめんなさい。弓削の茶色い瞳に壮二の嘆息が映る。まだちょっと心配そうだ。

「何か見えておったか」

「ううん、何かあるのはわかったけど、ピンボケになって何も」

「よかった。お食べ、供物があった」

 微笑を浮かべて、壮二が丸い果物をこちらに見せた。すっかり縮み上がっていたソファを呼び戻して座る――ああ、やっぱりそうやって背もたれにするのが基本なんだ。私もそっと隣に腰を下ろす。

 果物を受け取った。ほとんど黒に近い青で、奇麗な球形をしている。一か所がちょっと凹んでいたので、ここにヘタがあったのかなと思った。

「皮ごと、齧ってごらん。きっとおいしいから」

 おいしいの?見たこともないけど……まあ食べてみるけど……私は首をかしげて、一応大事なことを聞いた。

「ちゃんと洗ったんでしょうね、これ?」

「え?あ、洗った洗った」

 声に動揺が見える。

「ほんとうに?」

「あ、洗ったと言うておろうが……」

 だから、どうして動揺しているの?

 持ってみた感じではどっしりとしている。汁気が多いかもしれない。服が汚れるのはちょっとやだな。

 慎重に、歯を立ててかぶりついた。ぱつんと薄皮が破れて、予想より少ない汁気が口を潤す。甘い。白米のような酸味があっていい香りのブドウに似た味だ。昔好きだったような。

 今……今は回りまわって好物だけど、この頃はそんなに好きでもなくなってたわね。嫌いとはいえ素直においしかったけどね。

 ゴムの塊のように柔らかな果肉を、上下する顎の動きに従い歯が断ち切る。じゅる、と齧ったところからあふれる汁気を吸い込んだ。

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