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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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地下都市

 地下都市の恐ろしいところは、今この瞬間も自分の足元にあるかもしれなくて、でもわからなくて、ある日表に現れてくるかもしれないっていう可能性に尽きますね。

 小学生の時、ハ虫類人間っていう児童文学が好きだったんですが、あれも地下都市だったっけ?ちょっと内容をちゃんと覚えてないです。

 しばらくしてエレベーターは最下層についた。もはやガラスの側は緑で覆われている。といっても、ほとんど赤の光で埋め尽くされているから、人間なら全部赤に見えることには変わりないのだが、草木に。草木ってことで。

 街中をオオカミの群れが走り回っている。ちょっと何を追いかけているんですかねえ。大分サイズダウンしてるけど、マンモスに見えるんですけどねえ。あ、捕らえた。あ、こっち見てるし。

「怖いのか?」

 足を止めた私は素直に頷いた。

 仕留められたのは後で調べたらやっぱり像の仲間で名前はプラティベロドンだそうだ。

 鼻が短いし下あごが長いし下あごの先端にも牙があるしそんなに毛がないだろうがわかれって?わかるか。私からしたらマンモスもプラティなんちゃらも全部ちょっと変な象よ。

 壮二は私と、こっちに向いた黄色い二十四の瞳を見比べて、ちょっとほっとしたような顔をした。ひどい。それからオオカミ12匹に声をかける。

 おすわり、という彼の声で、さっきマンモスみたいなもの(だからプラティベロドンだってば)を仕留めたオオカミの群れは訓練された犬のように整列して座った。

「しつけたの?」

 この子たちは後で調べたら、どうやら現在もヨーロッパにいるシンリンオオカミだった。シベリアオオカミかもしれないけど大きな差じゃないよね。

 おいおいおい。そこはすでに絶滅した二ホンオオカミとかにしとけよ。エゾオオカミでもいいのよ。

 まあ、そのうち会ったけど。

「そんなことをしなくても従うぞ。ここの支配者は、儂とぬしなのじゃから。たとえ自害の命令でも……な」

 試してみるか?と一番手前にいた灰色のでっかいのをもふもふ触りながら聞いてくる。試してみるかって、おい。やってみたいかみたくないかでは圧倒的に前者だけど、言い方よ。

 白羽の矢が立った立派な灰色のオオカミがぴすぴす鳴きながらブルッちゃっているし、後ろに控えている奴らも命の危機を感じているようなので丁重にお断りした。

「さようか……ふうむ、そろそろ新しい玄関マットが欲しかろうと思ったのじゃが」

 そんなことしませんよねえ?しませんよねえ?二十四の瞳が揃って訴えかけてくる。しないしないと首を振る。支配の徹底は見て取れた。要はビビらず普通にしていればいいのだ。

 よし、と壮二が声をかけると群れはさっき仕留めたプラなんちゃらも置き去りに脱兎のごとく逃げ出した。

 群れを特に理由のない命令が襲う!

「あ、やっぱり戻ってこい」

 帰ってきた。しかもめちゃくちゃ足速い。今回は座っていないが、やっぱり整列している。尻尾を後ろ足の間に巻き込んで何とも哀れだ。

「ふむ、ぬしじゃ」ぴた、と一番手前のでかいやつを指す……またお前か、灰色。今日はほんと、厄日だな。

「依を乗せて共に来い。あとはそこの死体を片付けよ。行け!」

 体力はあるから気にしなくていいよ、と言う前に灰色はしずしずと前に出てきて、伏せの姿勢になった。私が乗りやすいようにだろう。耳がぺたんと垂れてしまっているがそれも乗りやすいようにだろうか?そんなわけないよな。

 ごめん、よろしくね灰色、と呼びかけながらそっとまたがる。あれ?何で私はこいつの名前を知ってるんだろう?

「さっき儂が呼んだぞ?」

「そうだったっけ」

 灰色の乗り心地はふかふかで悪くなかった。ちょっと揺れるけどね。地下のくせに湿度が高くないから気分も爽快だ。犬臭いけどそこまで気になるものでもない。こういう映画があったなあ、昔。それにしてもお尻ぬくいわー。

 灰色くんが腰を痛めそうなのがちょっと心配である。

「この都市はその昔、別の星から来た生命体が住んでいた場所じゃ。こちらは捨てられて長く経つ」

「うん、予想してた。その経緯」

 しゅーん。また壮二が小さくなったので、今度からオブラートにくるもうかなどと考える。

 でもさあ。こんな地下世界で、何だか違和感のある造形だらけの都市を発見したって「宇宙人かな?」くらいしか思わないじゃんかあ。

 だって宇宙から来たとか言っちゃう神様が目の前にいるんだよお。もう宇宙人の方がなんぼかリアリティがあるじゃん。

 灰色の背中に揺られること五分、ひときわ大きな建物の前まで来た。これだけ、材質が他のと違う感じだ。ガラスにも似ている。

 周りをぐるりと堀のような人工池に囲まれている。噴水まであった。水はどうやら普通の水で、赤い光でキラキラ光っている。

「……神殿?」

「それがあれらの最高の権威の象徴ならばそうじゃろうな。知らんけど」

 灰色から降りたら、彼はホッとしたように鼻を鳴らした。

 彼。そうだ、灰色は男の子だった。ありがとね、と頭を撫でる。あー柔らかい。ずっと触っていたいくらい。灰色も心地いいのか、目を細めて仔犬のようにきゅるきゅる鳴いている。かわいいー。

 なぜか壮二から不穏な空気が醸し出されてきたので、よし!と指示を出して仲間のところへ戻らせた。このまま目の届くところに置いておいたら玄関マットにされかねない。

 ケモノだらけの地下街にいたいけな少女を連れ込む年齢不詳の老人……。

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