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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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降下

 登場人物紹介は予定だけです。そのうち書きたいけど、そもそも登場人物が大していないから寂しい予感がしております。

「本殿に入らないの?」

 ずんずん左側の小さな小屋に歩いていく壮二が足を止めた。本殿はさっき素通りしたところだ。

「そうだ。あれは目立つからのう。あっちからもゆけるのじゃが、日が高い間は不都合じゃ。最近の観光客は誰も彼もカメラを持っておる、下手な行動はできん」

 ちょっと昔は高級品だったのじゃがのう……爺臭いセリフを弓削の口から吐く。

「ふうん……こんなとこ、誰が何の観光に来るのかしらね。何にもないのに」

「な、何かあるじゃろ、何か、ほら、何かが」

 どうして動揺しているの?

 小屋には鍵がかかっていたが、あんなものは私たちにとって何の制限でもない。金庫の鍵に似ていたが、厳重とは言えない。ドアノブを捻るくらい簡単なことだ。当然、掛けなおすのも。

 小屋の中にはごく当たり前のようにエレベーターが設置されている。ぽちっと壮二が一つしかないボタンを押す。

「ちょ、ちょいちょいちょいちょいちょい!」

「何じゃ騒々しい」

 しゅるしゅると摩擦音を響かせてエレベーターの扉が開いた。

「何で神社の敷地内にエレベーターがあるのよ!?」

「便利じゃから」どうしてハンバーグをミンチで作らないの?便利なのに、みたいな顔だった。「どうしたんじゃ妙な顔をして……早う乗れ」

 ちょっと古いデザインのエレベーターだった。たぶん本当に古いのだろう。ふわっと内臓が浮く感覚があって、奥の壁が動く。なぜか片側だけガラスのようだ。ざーっと駆動音が鳴る。

 安全性についての薄くぼんやりした不安は置いといて、さて、どこまで降りるのだろう?壁を見るにかなりの速度で、ジェットコースター並みの速度で下に向かっているようだが、まだ着く様子はない。

「しばし待て……かなり深いのじゃ」

「そのようね」

 椅子が欲しいなあ。足がだるくなってきた。靴で歩き回った後だからじかに座るのは嫌だ。立ちっぱなし、しんどい。あ、触手使えば楽かも。椅子みたいに使ってやれ……駄目だ。何の解決にもなっていない。

「何じゃ、そわそわと」

「……椅子が欲しいわ」

 壮二が静かに四つん這いの姿勢になった。椅子になってくれるようだ。

 さすがにそれはどうなのよ、私の人格が疑われるじゃない。引き起こしてそんなようなことを言うと納得してくれたらしく、椅子になるのはやめて私を抱き上げてくれた。

 膝の下に腕を入れて太ももを支え、背中の上の方をもう片方の腕で支える。俗にいうお姫様抱っこというやつだ。

 あれ?こっちのがしんどいんじゃない?弓削ごめんね、明日筋肉痛不可避よ。

「ごらん、依。もうずいぶん深い」

 言われて首をねじり、ガラス窓の方を向いた。

 ばぁっと真っ赤な光が差し込む。反射的に目を閉じたらフフッと笑う息遣いが聞こえた。押し殺したつもりか?聞こえてるぞ。

 第六感、触覚、嗅覚、視覚に続いて聴覚も人間をやめだしたからねーん。数キロ先で落ちた針の音が分かるくらいには地獄耳よ。ヨリズイヤーは地獄耳ってね。

 味覚?正常でしょ?毎日ご飯がおいしいもん。まだまだ私が人間をやめてしまうには時間があるってわけだ。

「わぁ……」

 差し込んでくる赤い光で私たちはちょうど3メートル×2メートル×4メートルの六面体に満ちた血の海に沈んでいるようだった。ガラスの前を時折梁が通り過ぎて黒い大きな影が落ちる。

 赤い。ただひたすら赤い。私の手も足も同じ赤に染まる。

「どうじゃ、この眺めは。これまでに見たことがなかろう」

 壮二が赤い光に照らし出されて弓削の顔を得意げに笑わせていた。私は率直な感想を述べる。

「アニメに出て来た秘密基地みたい……」

「あ、そお……」

 ちょっと悲しそうに言って、壮二は遠い目をした。

 神々にしろ人間のふりをしている魚にしろこの眺めにしろ、この世の大概のものは他の人が夢想済みのことなのだ。私がいちいち新しい表現を考える余地なんて、もうとっくの昔に無くなっている。

 私が何かを生み出す余地なんて……。

 さらにしばらく降り続けて、そうすると町のような構造物が見えて来た。建物がたくさん並んでいるのだが、違和感。一言で言うと、歪んでいる。

 造形が、融けかけた子供の粘土細工のようだ。建築家はおろか、まともな脳みそをした大人が作る建物の形ではない。

 赤い光にも目が慣れてきて、尋常な光の下ではレンガのような赤茶色をしていることが見て取れた。表面も大体レンガと同じで継ぎ目がない。

 あちこちに草木が生えている。視界の一部をズームしてみよう。熱帯雨林にあるようなあでやかな蘭の花が咲き乱れる丘、一緒に清楚な白の水仙が咲いている。

 あっちにはバオバブの木だ。なぜ足元にベリー系の低木が茂っているんですかねえ。そうかと思えばヒョウが身を閃かせて獲物を捕らえる……アルパカ?アルパカってヒョウと同じところにいたっけ?

「どうじゃろう……前に、これを見せた人間は、楽園のようだと評しておったが……」

 ちょっと自信がなさそうに壮二が言った。私はやっぱり率直な感想を述べる。

「生物の先生が見たら怒り狂いそうよね。バイオームを何だと思っていやがる!って」

「……ああ、うん。すまん、節操がなくて」

「ところでそろそろ降ろしていただける?恥ずかしくなってきたわ」

 弓削よ、これでいいのか。

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