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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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噂をすれば暗黒邪神の眷属

 この回には設定の都合上、セリフが総平仮名で表記されているキャラクターがいます。気をつけてお読みください。

 閑話休題。

 ぐたぐた愚痴を垂れたいわけじゃなかったっけ。学校生活は相変わらずのシカトの嵐で進んでいったわけ。弓削も相変わらずだから友達がいないんだよお前はとツッコミたくなるくらいの無神経さと屁理屈コネコネ。

 しばらくは平和この上なかったのだけど――時々触手が生える程度だったのだけど。

 ああ、触手ね。

 そうそう、うなじ以外の場所からも生えるっていうか、生やせるようになった。住んでいる長屋の鍵ぐらいなら指先から生やした細めので開けられる。これか、進入路。

 この触手についても弓削に話すかどうか迷ったけれど、結局話さなかった。

 だってどうやって切り出すの。自分触手生えますけどって?言えるか。

 事件は五月に入ったころに起きた。

「やっはろぉ」

 弓削の目から生気が消えていた。いつもの屁理屈もない。無神経さも鳴りを潜めている。一応壮二かもしれないから確認はしたがやっぱり弓削だった。

「……何があったの」

「あ、はは、噂をすれば影が差すって、ほんとだな、はは」

 何だかやばそうなので学校まで並走する。体力もさらについてきた。この程度では息も乱れない。今なら五輪も夢じゃない。無理か。

 私の選手としての心は無理だと叫ぶ。ドーピングだ。陽性が出なくってもドーピングだ。きっと筋肉の構造とかそういうものが変わっているのだろう。

 授業中ももちろん弓削は生きた屍のようだった。

 授業なんて言っても私たちはいるだけで受けてはいないのだが、それは死体じゃなくて透明人間の方だ。透明人間になったら何が死体かなって、そうじゃない。透明だけど死んでるんじゃないって話だ。

 理由はすぐに分かった。弓削を追い立てながら帰ってきたら弓削がもう一人いたんだ。

――そういう意味じゃないよ?

 弓削が弓削と壮二に分かれてたってことじゃない。そんな器用なことができるなら依代システムは存在しないだろう。あれだって不便もある。でも他にできないから――できなかったから、あるわけで、ね。

 だから繰り返す。もう一人、弓削がいたのだ。弓削カッコ兄。

「なになにそうちゃん。それ、かのじょさん?しょうかいしてくれるの?はじめてだね」

 顔は確かに弓削に似ている。ぎょろっとした目。細身。年齢は20代ってとこか。弟より美形だな。ベージュのスーツ。

 事前情報と弓削の呼び方が異なるが……まあいい。弓削カッコ弟の方では虚ろな目のまま返答していた。

「勝手なこと言うなよ。こんなのが彼女だったら世界中の女が悲しみに暮れちまう」

「そうかもねー」にこやかに笑って、弓削カッコ兄は手をこちらへ差し出した。「こんにちは。ぼくはゆげけいいち。きみは?」

 私は衣川依。金属バット持って殴りかかってきそうねあなた。

「そっちじゃないよ。ぼくはだいいちにうやまう、だからぼうりょくてきなしゅだんはとらないよ」

 敬一さんか。近くによると海の香り。握った手は思ったよりぬるっとしている。だが肌はサメ肌というほどではないがざらついていて、魚を想起させた。冷たい。

 ただ不快な感触とは思わなかったからよかった。そういうことを考えると相手に伝わりそうだ。

 でも何だろうこの人……。

「それにしてもよりちゃんのなまえってありえないよね。ただのぐうぜんのさんぶつとはおもえないなあ。ゆいいつぜったいのかみをしんこうしているぼくなんかでも、にほんでいういんがをしんじてしまうくらいにきっちりかっちり……むしろできすぎ?できちゃったみたいな」

 頭が縦に長い。肌色は緑がかっている。顔色が悪いというわけではない、だろう。だって元気そうだし。声はなんとなくこぽこぽと泡立つ水面のようだ。高いような低いような。

 口の動きも開閉しかない。厚ぼったい血の気のない唇が上下に開閉する。横に広げるとかない。ぱくぱく、ぱくぱく。

 あれは池の鯉を想像してくれればわかるだろうか。あの動きだ。あの動きを繰り返しているだけなのに人の言葉が聞こえる。

 ぎょろっとした目も少し外側を見ているような変な目つきだし全然瞬きをしない。さりとて潤んだような目が乾くことはない。

「できちゃったってそんな、言い方があるだろ……奥さんはまだ寝てんの」

「うん。じさぼけはつらいね。ほんとにぼけてないだけいいってことでひとつ」

 池の鯉状の口パクに毒舌がリアルタイムでレコーディングされている。弓削は気づいていないのだろうか。それとも、慣れているのだろうか。違和感半端ないんだけど。

「よりちゃんきょうごはんたべていきなよ。ぼくはこうみえてりょうりはとくいだから、ほらいくめんってやつ?」

「自分の子供大量虐殺しといて言うことがそれかよ」

 試験管。何って?凶器。

「あれはぼくのこどもだけど、ぼくのこどもであるいぜんにじっけんようのじゅせいらんだ。しじょうはころさないとね、うふふ」

「めちゃくちゃ楽しそうじゃねーかこの変態」

「ひどいなあ、けんきゅうしゃはだれしもせいめいのしんぴにみいられるものだよ。そうちゃんってばそれでもりけい?」

 ごちになります。兄弟げんかが始まりそうだったので有無を言わせぬ口調で宣言する。

 敬一さんは嬉しそうに口元だけで笑って、上機嫌で、上機嫌なのだろう、家に上げてくれた。何だか自分の家みたいに扱っているけどそれ弟の家だよ。

 男子の部屋ということで想像していたよりもずっと片付いていた。いや、片づけられたのか。来襲した兄に。ぴしゃりと閉め切られた奥の襖の向こうでは多分時差ボケ奥さんが寝ているのだろう。

 一度もその姿を見ることはなかったけど、時差ボケが酷いのだろう。

 そろそろ元ネタが割れて来たかな。

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