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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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限りなく黒に近い黒

 僕は一か月前、この病院内で目覚めた。

 最初自分に何が起きたかわからなかったよ。昨日まで中学三年生の春休みだったからね。でもしばらくして自分の状況を思い出した。ああそうだ、ヘルニアで手術を受けたんだってね。そこからだんだん記憶がよみがえってきた。

 つい最近定年退職したこともそう、妻が若い時は美人で年を取ったらまあまあ普通のおばあちゃんになったこともそう、大学を卒業して会社員になったこともそう、……御神輿に乗ったことも。

 悪い人生じゃなかったね。

 外国の話で、極度のストレスで記憶が飛んで、中身が17歳の少女に戻ったおばさんの話があるけどそれとは違うと思う。

 だって僕はストレスなんか感じていなかったもの。

 いや、感じたかな?目が覚めた時、見捨てられたような気がして情けなくも号泣しちゃった。

 15歳から一か月前まで、色々な意味で夢のような人生だった。

 高校ではずっと成績も素行もトップでモテにモテた。卒業式なんか、制服の第二ボタンどころか頭のてっぺんからズボンについてるやつまでボタンというボタンを毟っていかれちゃったね。

 ずり下がってくるズボンを一歩ごとに引き上げながら、家に帰ったものさ。ワイシャツがすーすーしてね。完全に勝ち組だよ?羨ましい?

 あ、どうでもいい?そう。

 大学もこの辺ではなかなかいいところに行った。家から近いからって理由で進んだら高校の担任が泣いて悔しがってたね。

 ここも首席で出て、大学院を勧められたけど断った。就職のときは大企業を勧められた。これもお断りしたよ。地元の小さい会社で経理してた。

 親?何にも言わなかったよ。高校から一人暮らしでそれからずっとほったらかし。連絡もなかったし僕からも連絡しなかった。不思議でしょ?一応実の親子なのに連絡一つしないままなんて、ふふふ。

 何かに操られていたようでもあるんだなあ。それが夢のような理由でもある。

 一つ一つの分岐を選んで進んだのは確かに僕のはずだが、フワフワしていてどうしてそれを選んだかわからない。だってそうだろ?僕が選んだならミドリムシの研究者に進んだ。

 ……ちょっと、今の笑いどころなんだけど。眉間にしわが寄ってるよ?可愛い顔が台無しだ。えーと……ああ、依ちゃんっていうの。

 清楚な君にぴったりなんてお世辞と思うだろうから言わないけど、何て言うか、しっくりくるというよりは、実におあつらえ向きというか、ほんとにあつらえたような響きだね。君のためにも。

 うん、気にしないで?

 しばらくして結婚したんだけど、僕の中ではこれが一番の謎。お見合いなんかしてないから恋愛結婚のような気はするけど微妙。ある日仕事の帰りに着物姿の女の人に出会ったんだ。

 美人でもなかったし、奇麗な着物でもなかった。でも僕はその人に話しかけて、会う約束をして、家に帰った。僕も彼女も自己紹介なんかしてないよ。おかしいだろ。

 で、約束通りに会った。食事を一緒にしてその日のうちに婚姻届提出。なんつう頭のおかしいカップルだろうね。初対面だよ。超特急にもほどがある。

 結婚生活はなかなか良かった。美人は三日で飽きる、ブスは三日で慣れる。本当にその通り。そこまでひどい顔でもなかったけどね。むしろ愛嬌があってなかなかいい女だった。

 家事もてきぱきこなすんで子供ができなかったことなんて気にもしなかった。

 あ、ハネムーンに行こうとしたら会社の皆さんに「お前がいないと回らないんだ!」って涙ながらに引き留められて年を取るまで行けなかったことが唯一の問題点ね。

 僕はまったく妻に恋愛感情なんか持たなかったけどね。今だって妻からの連絡は一切ないけど気にもならない。

 定年退職のすぐ後、腰が痛くなって動くのがつらくなってきた。潮時か、って自分の口が言ってたのが記憶にある。それからすぐだ、手術で入院したの。まさか手術を受ける潮時ってことはないだろうがね。

 僕は思うんだ。15歳の時、御神輿に乗ったとき、何らかの超自然的な存在が僕の中に宿って、僕の地位と体をそっくり乗っ取って生活していたんじゃないかって。

 ……あは。喋りすぎたね。そろそろ見回りの人たちが来るから、部屋に戻りなさい。面倒なことになるよ。てんで話が通じないんだ、彼ら。

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