前ーA
周りが変わったんじゃない、私が変わったんだ
中学校を卒業するくらいなんてことはない。高校生になるって、それがどこまでのものなのか。依はため息をついた。ところ、今朝まで通った懐かしのわが母校中等部の校門周辺である。衣川依、卒業か。ふうん。私のことか、興味ないな。
卒業すれば何か変わると思っていた。高校生になったら何か変わると思っている。この心の内ですら一切の変化がない。見上げた空は灰色の板みたいになっている。
つまらない。つまらない。三年間、中学生活たしかに楽しかった。修学旅行、楽しかった。でもなんだかつまらないのだ。
陸上部に入ってみたけど、そして卒業もしたけど、イメージしていたような、刺激的な青春なんかどこにもなかった。かっこいい先輩もいなければ虫の好かない女もいなかった。
ただ毎日が、授業に出て、食うものを食って、走り込みをひたすら行って、記録はどんどん良くなって、それで毎日が過ぎて行った。あーあーつまんねーの。
人、それを本の読みすぎという。
「依ぃ、あんた高校どうすんの?」
元クラスメイトに、ふっと笑いかけた。答えるまでもない。どこだって同じじゃないか。
どうせまた、次は何か変わるだろう、次は何か変わるだろう、次は何か変わるだろう変わるだろう変わるだろう変わるだろう変わるだろう変わるだろうかわるかわかかわるだかわとか言いながら一生を過ごしていくんだろう。
自分では何も変えられないまま、世界も何も変わらないまま。
「依はここの高等部でしょ。私と同じ」
「えー、ずるいー。私頑張っていいとこの高校通ったのにー」
おお、当事者がいなくても話が進んでる。依は遠くを見た。どうしてどこか空しいのだろう。こんなに満ち足りた生活をしているのに……。
「依ちゃん、今度のお祭り人が足りなくってさー。やってくんない?」
「私ですか」
次の日、春休みを絶賛堪能中の依の元には叔母が来ていた。彼女は隣町の神社に勤めている。いわゆる神職というやつだ。
「うん。『依代』……っていうんだけど」
「アルバイトなんか、したことないんですけど」
だいじょーぶだいじょーぶ、そんなんじゃないって。叔母はケタケタと妖怪みたいに笑った。
「依代なんて大仰な名前がついてるけど、実のところお飾りだからあ。御神輿の中で座ってるだけでいいから!ね、よろしく」
「……」
引き受けてしまった。
割れる。割れる。背中が割れそうだ。この痛みは、この身の痛み。これが訪れるようになったのも本当にごく最近のこと。
世間一般に言う、ヘルニアというやつなのは理解していた。だがこの程度で儂の動きを封殺することはできぬ。しかし、思うことが一つある。
この身も老いたものよのう。
情けなくすら思えてくる。ここまでの経験からしてこの年数なら、まだ動くはずなのに。日々の行動にすら助けが必要になるとは思わなんだ。ただ儂はまだ何も悲観しておらん。
「あなた、準備を」
「ああ……間もなく」
この身が老いたなら、次を用意すればよいだけなのじゃ。
恋愛経験ゼロで書いております。ダメ出し・文句などあればどうぞ。