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ブレイン・フィールド  作者: 小鳥遊彰吾
エピソード3
9/20

エピソード3-1

   エピソード 3   理念達成のために鋼の魂は持っていますか?



イリナ(♀)

HP:86  AP:40  OF:25 DF:29 SP:20

(HP=体力、AP=特殊技ポイント、OF=攻撃力、DF=防御力、SP=スピード)

特殊技登録      :詠唱、煙幕、索敵

必殺技登録      :ジオ・スパーク

武器         :三十八口径(OF:+11、SP:-1)

防具         :共和国士官用軍服(DF:+13、SP-1)

アクセサリー     :守りの指輪(DF:+4)、大佐章(共和国内で特権)

*注{共和国登録によりDF、SPが+2}

希望シチュエーション :新国家建国




「タァァァァ!」


 眼前の少年の動きに二十前後の女性はメガネの奥の目を丸くする。

 ライトブルーの軍服が示す彼女の所属は共和国。佐官用の仕立てのいい軍服と大きめな胸につけられた大佐章はかなりの地位を示す。

 上官、部下を含め多くの戦闘を見てきたがこれほどまでの強さは見たことがない。


(あれが噂の『超加速』か)


 少年は目にも止まらぬ速さで高速移動。

 居場所はどこかと探す間に聞こえた掛け声と斬撃音。三匹いたゴブリンと呼ばれる獣人を相手にたった一人であっさりとなぎ倒していく。

 『超加速』とはAPを消費することで移動速度を上げる特殊技能。攻防に使え戦闘を優位するにはもってこいという話だが今までその使い手を見たことがなかった。


「お見事。お疲れさま」


 モンスターと遭遇してから一分たっていない。まさにお見事としか言いようがない。


「……たかがゴブリン3匹程度に疲れるかよ」


 絵巻や時代劇などで見られるリアルさを追求した和風な鎧ではなく、それをモチーフに見た目重視でデザインされた漆黒の鎧を着た侍風の少年が不機嫌そうに言う。

 柄と鞘が禍々しい飾り付けを日本刀を腰に戻しながらため息をつく姿に女はピクッと眉を動かす。確かに彼クラスの実力者の言葉としては不遜ではないかもしれない。

――だからといって愉快ではない。


「そうね。見かけ倒しでつまらなかったわね。こんな雑魚に襲われるなんてついてないわ。1分も無駄にした」

「…………」


 少年は女の言葉に閉口したまま睨む。武器も鎧も漆黒で一見呪われたアイテムのようだが一応は純和風だ。だというのに腰の辺りで結んだ長い銀髪は女の感性にはよくは映らなかった。


「何? この言い方も気に入らない? ……じゃぁねぇ」


 頬に指を当て考える仕草をする。


「もういい」

「あら、そう」


 予想通り憮然と即答する少年に内心で満足する。にこやかに笑いながら、


「でも私が感謝してるってことは覚えててね」

「……あんまりそうは感じないけどな」

「気のせいよ。『剣王』殿には今回同行していただいて共和国大統領をはじめ、主だった閣僚は感謝してるわ」

「その閣僚にお前さんは入ってないんだろう?」

「そう見える? 心外だわ。私もこう見えて閣僚よ。……ジャックリーン共和国軍大佐、対妖魔討伐部隊司令官イリナ。代表して貴公に感謝を捧げます」


 ブラウンの髪を大きく揺らし、わざと大袈裟に一礼をする。


「嫌味な女だな、お前さんは」

「なによ、もとはクロードが素直じゃなかったからこうなったんじゃないのよ。あなたにとってはたかが雑魚モンスターかもしれないけど新規参入組の普通のプレイヤーだと1人でゴブリン1匹を倒すのでさえ一苦労なのよ。ウチの兵隊だって3匹倒せるプレイヤーが一体何人いることか……」


 一気に主張するとクロードは疲れたように両手を上げる。


「まいった。……たくよぉ。でもそれくらいじゃないと弱いプレイヤーが国家でのし上がれないのかね」


 どちらともとれる物言いだが否はあえて褒め言葉として受け取ることにした。


(そう、私はまずのし上がらなきゃなんないんだから!)


 そんな心情を察する余裕がないクロードは頭をかきながら呟く。


「ったく、俺はトコトン女運がねぇーな」


 イリナは耳ざとくそれを逃さない。


「あらもしかして同じ四天王の【空】殿と【爆】殿と一緒にしてくれてるの? だとしたら光栄よ、四天王【巧】殿」

「俺を『殿』なんてつけて呼ぶな! 鬱陶しい!」


 さっきにまして不機嫌そうに言い放つ。


(男が口げんかで女に勝てると思ってるの?)


 勝ち誇るように胸を張る。たいていの場合若い男性は口での言い争いで女性にかなわないことが多い。イリナは大人の女性をイメージしたキャラを扱っているが実際の年齢は十七歳。最強クラスのプレイヤー、クロードの実際の年齢はわからないが口ぶりからしてほぼ間違いなく同世代だと判断した。ならば挑発したりなだめすかしたりして彼をコントロールすればいい、そう考える。


「はいはい、以後気をつけるわ。じゃぁクロード、少し休んでから後を追跡しましょう」

「いらねーよ、っんなもん」


 現実世界と同様にキャラクターの操作は自身が動こうと思うだけで自然と動く。違うことと言えば身体が疲れないということだ。ただ精神力や集中力は個人に依存するので休憩は別に変わったことではない。


(男ってつまらないとこで意地張るからなぁ~。その分扱いはやすいからいいけど)


 クロードは素人目に見て簡単に倒していた。それでも特殊技能を使ったのでAPを消費しているし、人間個人の集中力の問題もある。初期のテストプレイの頃から参加して、強さではこのゲームで5指に入るプレイヤーとて休憩は妥当だと考える。


「私が休みたいの。……確かに急ぎの任務だけど休憩くらいしたって文句言われないでしょ? それにこれから山登りっぽいし」


 イリナは街道に残った大きな足跡の進む先を指さす。人気のない寂れた街道は山に向かって進んでいる。


「全然戦ってもないくせに……」


 グチりながらも木陰に腰を下ろすクロード。


(将来悪い人に騙されなきゃいいけど)


 扱いやすいのは楽でいいが、ここまで想像通りの行動されると心配になる。イリナは顔の見える位置に座り、


「私は見ての通り弱いのよ。あなたから見れば護身用の力さえ持ってない。そんな私が戦闘に加わったって役に立つどころかかえって邪魔なだけ。そうでしょう? いつもだって後方で指示する立場なんだから」

「なるほどねぇ、身の程はわきまえてるってことか」


 クロードは大きく頷き不意にあることを思う。


「……じゃあお前さん、なんでわざわざついてくるんだよ?」


 何をいまさらと聞いてくるんだろうと肩をすくめるがどんなタイミングでも説明しなければならないこと。軍人としては答える義務がある。


「今回みたいな任務は共和国では、対妖魔殲滅部隊が担当するんだけど……」


 共和国の軍隊は首都防衛軍と国境警備軍に二分されており、有事の際には対応することになっている。

 イリナに言わせれば無駄もあるシステムだ。

 一応大統領が二つの軍の責任者ということになっているが、各軍にはそれぞれ指揮官がおり独自の判断で動いている。三人の責任者がそれぞれの軍指揮をしているので横の連携が非常に悪く、非効率的にしか見えないからだ。


 今イリナが所属する対妖魔殲滅部隊は首都防衛軍に所属している。

 主な任務は領地内を暴れる「妖魔モンスター」を退治すること。とはいうものの帝国と違い共和国の軍は志願制。わざわざ志願してくるプレイヤーはお世辞にも多いとはいえない。

 しかしゲーム設定では帝国の対抗する国であるのでバランスを考えてか軍隊はそこそこ数はそろっている。七割は肉弾戦闘専門のノンプレイヤーではあるが。


「基本的にウチの部隊はそうでなくても人が少ないのに、最近帝国と小競り合いがありそうだからって大統領が勝手に人事発令して国境警備軍に送ってんのよ。一応は国のトップの命令だから従ってるけど、おかげでいま首都防衛軍のほうは穴埋めのために異動が多いのよ。私だって急遽ここに配属されたのよ。っで最初の任務がコレ。」


 ハァーとため息をつく。


「悪い時期に厄介な任務がめぐってきたもんだと頭を抱えたわ。……共和国の政策として臨時に傭兵を雇うことは知ってるわよね」


 仕事を探しているプレイヤーに傭兵という仕事を斡旋している。仕事を受けたプレイヤーはその間は共和国の臨時兵扱いとなりパラメーターにボーナスがつき、成功したあかつきには賃金が支払われる。


「知らねぇわけねぇだろ。いま俺はその傭兵だろうが。……暇つぶしだがな」


 クロードは少しムッとした顔を見せるがイリナは気にせず続ける。


「基本的に対妖魔殲滅部隊は軍隊とはいっても組織だってないのよ。だって、そうでしょう? 領地内のモンスターは弱いものならさっきのあなたみたいにプレイヤーが何も言わなくても勝手に退治してくれるでしょう? 強いモンスターがイベントとして発生したときにウチが対策を練るの。対策っていってもたいていは傭兵を雇うってことで落ち着くんだけどね。その場合、本当に依頼を実行したかどうかを確認するために同行するのが決まりなのよ。報酬を払う以上義務ってことね」


 軽い口調で言うが心までそうだというわけではない。


(理由はそれだけじゃないんだけどね)


 気にかかることがある。


「……じゃぁ何だ? 聞いてると閑職みたいに聞こえるぞ。……エリートサンもリストラ間際ってか!」


 クロードが私をいぶるネタが見つかったと上機嫌に鼻をならす。だが当のイリナはまったく気にしない。


「閑職って言うよりは……専門職かしらね。トップにのし上がるにはこういう経験も必要よ。軍に入ってる男どもはそれがわかってないのね。ただ強いだけじゃ国家という大きな組織は動かせない。結局はココがモノを言うわ」


 人差し指で二度自分の頭をつつく。クロードはまだ何か言うかと思ったが黙っている。


(私は戦闘能力ではなく頭脳で称号と建国したという伝説をつくりたいのよ!)


 唯一の目的。決意というべき代物。


「で話を戻すけど、今回の事件は厄介なのよ。言ってなかったけどあなたに依頼する前に三組の傭兵のパーティが向かったんだけど全員返り討ちになったの、同行した私の部下も含めてね。想定以上のことにどうしようかって悩んでたときにあなたが斡旋所にきたのよ。ホント助かったわ」

「そのわりにはぞんざいに扱われている気がするけど」

「気のせいよ」


 クロードのもっともな言葉を即座に否定する。見事な切り返しに言葉をつなげれない。これも上に立つモノに必要な素質だろうか? とあきらめイリナの話を聞くことにした。


「今回の事件は確実に伝説級よ!」


 イリナの一言はクロードの目つきを変えさせる。興味を惹くには十分な一言だった。

 ブレイン・フィールドではプレイヤーが遊ぶイベントが数多く用意されている。それらは階級分けされており初級がD級とランク付けされ、順にC,B,AそしてS級となっている。S級はその難易度の高さから別名伝説級と呼ばれている。プレイヤーの知名度はイベントの成功回数によって上昇する。余談だがS級を2,3度解決すると称号が手に入る。

 正確に言うと今回の事件はS級に認定されてはいない。当初はA級ということで十分それがこなせるくらい実績のあるプレイヤーを選択して解決を望んだのだが3組とも情けないくらいあっさりと全滅した。


(伝説級で間違いないでしょう)


 いま上司(システム側のノンプレイヤー)を通してゲームマスターに階級の見直しを進言している。問題なくS級に認定されるだろうと確信がある。


「クロードは伝説級何回もクリアーしてるし、称号まで持ってるから珍しくないかもしれないけど」

「まぁ暇つぶしにはもってこいだな」


 その自信は傲慢にも聞こえるが頼もしくもあるし、彼は言う資格がある。


 クロード=K=ラディッシュ。

 『剣王』、『四天王【巧】』の2つの称号を持つトップクラスの戦闘能力の持ち主。一説には最強の称号『サン・オブ・バトルマスター【闘神の直系】』をも凌ぐ剣技の持ち主。彼にとってS級は暇つぶしでも何ら不思議ではない。


「でしょうね。珍しくもないでしょう? 伝説級なんて。そんなあなたは超有名人だから同行するのも階級が低いプレイヤーじゃ失礼との政治的判断から私がデバったってこと。以上が私が同行する理由。他に質問は?」


 そういえば自分が質問したんだっけと会話の始まりを思い出す。暇つぶしの会話にココまで膨れてすっかり忘れていた。


「でもよ、相手はゴーレムなんだろ? それで伝説級になるのか?」


 切り上げてもよかったのだがせっかくだからもう一つ質問することにした。


「あなたがそんなこと言うなんて意外ね。以前サン・オブ・バトルマスターとS級のゴーレム倒したんでしょう?」

「……旦那との、ああ、アレのことか」


(旦那? サン・オブ・バトルマスターのことかな? 確かに長い称号だけどその言い方もどうだろ?)


 思い出すように呟くクロードはイリナのことを気にせず続ける。


「でもアレは分類上はゴーレムかもしれないけど……普通じゃなかったぞ。街一つを簡単に消滅させる攻撃力を持った超巨大な……なんていったっけ、そうそう、古代巨人型兵器だ。比べるまでもなくこんな小さな足跡じゃ無かったぞ」


 立ち上がりゴーレムのものと思われる足跡を指す。

 イリナ的には十分大きく深さから見ても重たそうなゴーレムの気がする。実際遭遇したプレイヤーの話を聞くと体長が4メートルあったという。右と左、両方の足跡の外側に引きずったような後があるのは腕を引きずって歩いているのではと推測した。

 同じく情報からゴーレムは腕が少々長かった上に二の腕が不自然に太かったというからだ。その他の情報として腹から胸にかけて刀傷があったというが防御力に不安があったわけではなかったらしい。

 話を聞くだけでもとんでもないモンスターだと思う。よくいるタイプのゴーレムはせいぜい2~3メートルくらいで傷を入れることさえできると一転脆くなるというからよけいだ。


「アレに比べたら少々でかかったって、雑魚にはかわりねぇよ」

「頼もしいわね」


 たとえ虚勢でも実力の伴う人間の自信ありげな言葉は信じるに足る。2人は休憩を切り上げてゴーレムの足跡を辿っていった。


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