エピソード0-1
エピソード 〇 時に残酷な真実の追究に後悔はしませんか?
オズ(♂)
HP:95 AP:50 OF:35 DF35 SP:35
(HP=体力、AP=特殊技ポイント、OF=攻撃力、DF=防御力、SP=スピード)
特殊技登録 :詠唱、操作、瞬間移動
必殺技登録 :登録不可(その代わりにパラメーターに+50))
武器 :三日月 (OF:+20)
防具 :疾風の闘衣 (DF:+18、SP:+12)
アクセサリー :命の腕輪(AP攻撃に対してのDFボーナス)
十六夜(確率で物理攻撃を防ぐ盾)
希望シチュエーション :ゲームマスター補佐
称号 :サン・オブ・バトルマスター【闘神の直系】
――おかしい、……何かがおかしい。
黒髪の少年は歩きながら眉間に皺を寄せる。
道らしきモノはあるが雑草や砂利で足音がいつもより大きくなるが特に気にはならない。彼にとっていま一番気になるのはおそらく自分だけが感じた違和感のことだけだ。
「……どういうことだ?」
「なによ一体? どうでもいいけど最近、……あの巨神とやり合ったあたりから変よ、あなた」
その言葉にハッとする。
いつの間にか独り言が出ていてそれが人に聞かれたことに。
少年は歩みを止め、視線を感じる後ろを振り返る。自分についてきている4人が4人ともこちらを見ていた。
いきなり何の説明もなしに『天空の回廊』に行くと宣言した時も怪訝そうな顔をしていたが現在もその思いはかわらないようだ。しかし自分の立場からすると彼らにも聞かれてはマズイことは多々ある。たとえこのゲームの正規登録プレイヤーで4本の指に入る彼らでもだ。
「ねぇ、聞いてるの? マスター」
背中に生えた大きな翼があまりにも目を引く少女ニーナが顔をのぞき込む。
頬からアゴにかけてのラインがあまりにキレイで――自分の好みで、より理想を言うなら髪をロングではなくショートにしてもっと強調して欲しい――ドキッとする。翼といい、服装といい容姿といいまさに天使と呼んでも差し障りのない少女だが少年は、
(コイツだけは侮れない)
肝に銘じている。
あの翼を使いこなせるプレイヤーが自分以外にもいるとは思わなかった。それも何の説明も受けていないのにだ。
『四天王【空】』『エンジェル』の称号を持つニーナはサン・オブ・バトルマスターという自分さえいなければ間違いなく最強だと確信している。自分をも遙かに凌ぐスピードに振り回されることなく、空を飛ぶ
こともでき、魔法も多く手に入れ的確に使いこなせる彼女に勝てる人間は現在自分一人しかいない。
(偶然かもしれないが……)
ニーナはイメージで身体を動かす術を知っている。それは大きい。この世界ではイメージが持つ力は大きい。場合によっては人を越えた動きさえ可能になる。
「ええ、聞いてますよ。……でもそんなの変ですか?」
「うん!」
即答、それも目一杯。
殴ってやりたい衝動にかられるが今の自分はそんなキャラではないし、実際ニーナの言うことは当たっている。
(あの時やっと気がついたからなぁ。あまりにも強すぎるってのも考えもんだな)
不遜に聞こえるが彼は大真面目だ。
『グリンベルの巨神』というバトルマスター以外誰も倒せないモンスターが登場するまでまったく気がつかなかったのだから。少年の立場からすれば失態もいいところだ。
ゲームのバランスが崩れている。そんな大事なことにいまさら気がつくということは。
「ところでぇ、サンちゃん。今向かってるところにはぁ~、何がぁあるんですかぁ~」
妙なテンポで間の辞した声を出すモエ。
その口調は正直聞いていて気持ちのいいものではなかったが口調を偽ってわざと馬鹿丁寧な口調を使っている身としては文句をいう資格はない。
「僕も詳しくは知らないんですよ。以前小耳に挟んだ情報ですから」
とモエに答える。「モーターボディ」という機械性の防具に始まり、身にまとうモノはすべて機械製、武器も重火器7丁所有しているこのゲームでは少々異質な格好をしている。
そんなモエだが『四天王【(爆)】』『重戦車』という2つの称号を持つ。
7丁の重火器の織りなす攻撃は称号に偽りはない。がモエのもっとも注目すべきは防御力だとバトルマスターは分析している。
防御力はバトルマスターをも凌ぎ通常攻撃ではダメージを与えることはほぼ不可能。その分低い攻撃力は銃という命中率は低く、弾数に限りがあるものの性質上命中さえすればクリティカルとなる武器を使用することで解消している。命中精度を上げるようにアクセサリーや特殊技能をもっているからこそ称号を得るほどの強さを得た。
「いつのぉことですかぁ~」
「いつでしたかねぇ。モエに会うよりも前で……そうそう千人倒した時だ。そのときのリーダーがそんなことを言ってました」
「そ~なんですかぁ」
その場凌ぎのウソを鵜呑みにしてくれたのでホッとする。
「じゃぁそこに行く目的は」
一難去ってまた一難。
今度は白銀色の中性の西洋騎士さながらの甲冑を全身に身にまとった大男ランディが口を挟む。目、鼻、口のT字ライン以外は見えないような兜をかぶっているので表情はわかりにくいが、バトルマスターを意識しすぎなのか時折視線は鋭い。
彼は『四天王【滅】』『ジェネラル』の称号の持ち主。初期パラメーターの段階でバトルマスター以上の数値をOFに振り分けている完全なパワーファイター。
武器は最高クラスの槍「カイザーランス」、さらに特所技能で攻撃力を上げるという徹底ぶり。スピードは遅いが戦うとなると決して楽な相手ではない。
「大した用事じゃありませんよ。……ただなんて言うのか」
頭に手をやり思案する。正確には「なんと言ってごまかせばいいのか」である。
「正義の味方を探そうかと」
「……正義の、味方?」
「何それ?」
ランディとニーナが怪訝そうな顔をする。ニーナに至っては「何バカなこと言ってるの」という表情丸出しである。
(くそっ! バカにしやがって)
胸中穏やかでない。自己弁護するために少しは本当のことを教えようかと思ったが、どういえばいいのか悩み、
「悪いことをするノンプレイヤーがいるように正しいことをするノンプレイヤーもいるそうです。天空の回廊にはね」
結局ウソをつく。
「何でまたそんなのがいるんだ?」
今まで会話に参加してこなかったクロードが参加してくる。
ランディとは趣の違う彼は日本の侍風の格好をしている。もっとも刀も鎧もカオスアイテムと呼ばれる呪われたアイテムなので禍々しい雰囲気は免れない。カオスアイテムとは圧倒的な破壊力や防御力をもつかわりに何らかのペナルティーを装備者に与える。たとえば彼の持つ「妖刀ムラサメ」は与えたダメージの半分を自分も受ける。「鬼神の鎧」は特殊技能を使った後の硬直が長くなるといったもの。そんな一般の戦闘には不利になることこの上ない武器なのだが、クロードはカオスアイテムの逃げ道を見つけ上手に使っている。「聖なる護符」というアクセサリを装備することで呪いをキャンセルした。
『四天王【巧】』『剣王』の称号が示す通りクロードは剣を使った技巧派のプレイヤー。リアルでは実家でやってるという剣道ではなく居合い切りをメインにした剣術をやっているおかげで剣の扱いには光るものがある。バトルマスターはクロードと一度戦った時手加減ができなかった。
「そこまではわかりませんね」
クロードの問いにお手上げという仕草をする。なんとなくバカにされた気になったのか少しムッとし言葉を続ける。
「……じゃぁ正義の味方とやらを探しに行く理由くらいは教えてもらえるか?」
なんとなく、といったら戦闘が始まるかなと思うがここで遊んでいる間もない。
「この前の巨神みたいなモンスターが出てきた場合、何とかしてもらおうと思いまして」
半分本当のことを言う。だがニーナは心底驚いたのか眼を丸くする。
「ちょ、ちょっとマスター、どこか身体の調子でも悪いの?」
「――へっ? いや、すこぶる調子いいけど……どうしてです?」
「だってあなた、ああいうモンスターと戦うの生き甲斐でしょ?」
「――オイッ」
「私もぉそうだと思ってますけどぉ~」
突っ込もうかと思った瞬間すかさず言うモエ、ランディは表情が見えにくいのでわからないがクロードは頷かんばかりに同意の表情をしている。
「……何か、ひどい言われようですね」
バトルマスターは疲れたように大きく息を吐く。
(生き甲斐じゃなくて仕事なんだよ)
ただそんな彼でも巨神が出るまで気がつかなかった。いや彼だからこそ巨神のおかげで気がついたともいえる。
「古代巨神型兵器」はまだ出てくるはずのないモンスターだと知っているのはゲーム関係者のみ。
「いいですか、考えてみてください。最近の増えてきた強いモンスターだけでも普通のプレイヤーは苦戦している。なのにアレはひどいでしょう? 巨神は一体だけで助かりましたがアレと同クラスが2匹以上別の場所に現れたらさすがに対処できません」
「エラソーに」
ニーナの声は敢えて聞かなかったフリをし、前を向き歩き始める。目的地はすぐそこ。
「犠牲者は少ないほうがいいでしょう? せめてバランスの悪すぎるくらい強いモンスターを足止めして欲しいという意図から天空の回廊に向かっています」
足音で皆が突いてきていることを確認して一応それらしい目的を話す。
「いいこといってんだか、そうでないんだか」
「でもぉ~最近、モンスター強いですねぇ~」
「……言われてみればそうかもな。装備が整ってないヤツにはキツイのもいるか」
話題が自分からそれたことに胸をなで下ろしつつ、進む。
(考えてみればバランスの悪いモンスターってのはまだマシか)
それ以上のことが既に起こっているのだから
「えーと確かこの辺のはずですが」
ほどなくして目的地にたどり着く。
「冗談! 何もないじゃない」
「そういわれましても」
ニーナが訝しがるのも無理はない。道はあったもののほとんど森の中を時間をかけて歩いてきて結果がこれ。
眼前には祠だとかストーンサークルといったイベント風の建造物はない。あるのはこけむした3メートルぐらいの巨大な岩が、その後ろには幾重にも木がさながら一本の巨木のように重なり合っている。無駄足にしか思えない。
「……それにしてもコレはスゲーな。まさに圧巻ってやつだな」
「本当ですねぇ~」
クロードとモエは風景に感心している。
風が吹けば――この世界は風どころか雨などの天候の変化さえ起きる――木の葉が揺らめき、それによって自分を照らす光の位置さえも変わる。頭上からユラユラと葉がひらめく。背景は実写をもとにCG。ただ枝の動きや光や影などは何度も同じように見えるようにプログラミングされたものではない。世界の仕組みというか基本となる法則を入力することで自然と同じように背景が動く。つまり現実の風景とほとんどかわりがない、という話だ。
こういったモノを見るといつも思うことがある。
――兄貴は天才、と。
「ブレイン・フィールド」の制作会社社長で世界最高のスーパーコンピューター「ブレイン」を制作した菅総一郎は一回りほど歳は離れているが彼、菅信二の実の兄なのだ。
(ダメだ、ダメだ)
イヤな考えを吹き払うように頭を振る。そんなことよりやるべきことがある。
入り口を開かないとならない。別段難しいことではない岩を軽く押せばいいだけのこと。
行き止まりということ――それがトラップになっている。
たいていのプレイヤーは何もなく行き止まりならば深く調べずに帰ってしまう。既存なゲームならばそんなことはない、ボタンを連打しまくって気がつくという人もいるだろうが、ここまで現実ソックリだとそうはいかない。視覚からこれ以上ないというくらいの行き止まりの風景を移すことでわざわざ調べるまでもないという気にさせる。巧妙な心理トラップなのだ。
「こけの生え方もリアルだよな、なんか生々しいっていうか」
岩にこびりついた緑の苔を感心しながら見るクロードの言葉を受け、ランディが自然と手を伸ばす。
「ふむ、感触も本物ソックリだ……ん?」
ラッキーな展開にバトルマスターは心の中でガッツポーズする。
――ゴッゴッゴッ……
どこからもなく音が鳴り出す。岩のそばにいたクロードとランディは反射的に後ずさる。すると岩の真ん中が2つに割れる。
「……ゲート」
淡い光を放つ人の背ほどある物体――蒼いクリスタルが宙に浮いている。
それを見て信じられないという面持ちでニーナが呟く。
この世界の各地に散らばってるゲート。クリスタルに触れるとそれに対応したゲートにワープできるという代物。
彼らは何度も使ったことがあるので存在に驚くことはない。ただこんな手の込んだものを見たことがないから驚いている。本来ゲートはどこにつながっているかは使ってみるまではわからないがこの場合は明らかだ。――「天空の回廊」へとつながるゲートだと。
「なるほど、岩を押すことがスイッチか」
「……すごい、偶然ですねぇ~」
「ベタって気もするが」
クロードの言葉にその通りだなと内心で頷く。仕掛け自体は思い切り単純だし、それと気がつかなくてもスイッチは押すことができる。だがここまできて行き止まりということに腹を立てて蹴飛ばして開かないように手で押した時のみ開くようになっている。
(興味本位で触れるプレイヤーのことまでは考えてなかったんだろうなぁ)
改善点に思えたがそんなこともない。何も知らないプレイヤーには「天空の回廊」はまったく意味をなさないのだから。
「その辺はどうでもいいですけどね。せっかく開いたんです。さっさと行くとしましょう」
ついて来るなといっても無駄だろうからあえて言わない。
(どうせ途中でおいていくことになるんだし)




