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ブレイン・フィールド  作者: 小鳥遊彰吾
エピソード4
15/20

エピソード4-3

――キィィィィーン!


 金属同士の激しい接触音が聞こえる。見るとレイピアはなくそれを弾いたであろう日本刀、遅まきながら発生したシールドが見える。


「お、お前、いつの間に?」


 日本刀に弾かれ曲がったレイピアと曲げた男を見る。

 レイピアという武器はクリティカル率が高い分、横からの衝撃に弱く、弾かれるなどするとすぐ曲がる。ああなると戦闘後なら直せるがこの戦闘では使えない。


「さぁ? 一体いつでしょうか?」


 エアデールは現れた男には今の状態のレイピアは使えないことがわかりきっているので武器変更を行おうとした瞬間、蹴飛ばし後ろにはじき飛ばす。


「大丈夫……ですね」


 男はニーナに手を差し出す。素直に手を取り起きあがりながら、


「そっちこそ、しぶといわね」


 辺りを確認するとエアデールは元よりユウさえニーナの横の黒髪の男を指さし口をパクパクさせている。


「さ、……サン・オブ……」

「ええ、ご存じの通り。サン・オブ・バトルマスターです」


 底抜けに明るい物言い。

 ノースリーブの派手な刺繍がほどこされた青地の上着に黒い皮のパンツに同じく黒の指の部分が開いた手袋。腕はむき出しなのだが右腕だけに腕輪がはめられている。腰にはベルトの代わりに鎖が巻いてあり、バックルにあたる位置にある円形の黄金の装飾とつながっている。一見するとかなり軽装に見えるが彼にバトルで勝ったものはいない。


(あれ? 武器変わってる?)


 今まで彼はソード系の剣を使っていた。今使っている日本刀は彼と長いつき合いのニーナでさえ見たことがなかった。


「お、お前、どうやってあの鉄壁の陣を突破した!」

「どうやってて……決まってるでしょう? 正面突破に」


 笑顔のサン・オブ・バトルマスター。信じることができないユウは当然のごとく大声で否定する。


「ウソを言え! 25人に囲まれて生き延びれるはずが無いだろう!」


 そうあり得るはずがない、普通は。だが眼前の最強に彼らの常識は通用しない。


「僕は一騎当千ですよ。聞いたことないですか?」


 この当時、彼の有名な逸話は千人のノンプレイヤーを倒したという。エアデールは立ち上がりながら気を落ち着かせようと深呼吸して話に参加する。


「25人は全員プレイヤーだ。それに俺たちは多数対一という戦闘を基本にしコンビネーションを練習している。それが全滅なんて信じられるか」

「……と言われましてもね」


 サン・オブ・バトルマスターは少々困ったような顔で考え込む、仕草をする。


(あ、始まった。マスターと長話するなんて百害あって一利なしよ)


 ニーナは胸中で呟く。この時点でユウたちは彼の術中にはまってしまったのだ。サン・オブ・バトルマスターは豪快な戦闘とは裏腹に繊細で慎重。


(マスターはたぶん、あたしよりよく知ってる)


 頭に怒りなどの雑念が入れば反応速度が鈍るということを。

 だからこそ馬鹿丁寧な口調で神経を逆なでするするようなことを言い挑発する。ニーナは彼の相手を逆上させる話術や演出だけは勝てる気がしない。


「そうですねぇ、あ、そうそう……」


 日本刀を2人によく見えるようにかかげる。


「この刀の元持ち主だけはそこそこ強かったですねぇ。あとは……そんなに手応えなかったですね」

「――! その刀はソーマのか」  


 赤い柄が印象的で覚えていたのかユウは明らかに顔色を変える。サン・オブ・バトルマスターはポンと手を叩く。


「そうそう、そんな名前でしたね。その人に剣を叩き折られまして」

「情けないわねぇ、最強の称号が泣くわよ」


 ニーナも彼の手伝いをしてやろうと口を挟む。


「まあそういわないでくださいよ。で、機転を利かせて刀を奪ったんですから」

「どこぞの三流組織みたいなことしないでよ、みっともない」

「それを言われるとつらいですね」


 うまいことを言うと苦笑。

 「真戦組」はダンジョンから武器を探す方法よりもプレイヤーから奪い装備を充実させてきた。敵対したのみならず無関係のプレイヤーからも略奪を繰り返してきた。


「殺すことを前提に戦うのならば逆に殺される可能性がある。ゲームのみならず世界の摂理でしょ? 相手だって殺されたくないのだから必死にもなりますよ。同じように略奪してきたのだったら逆に略奪されても文句は言えないでしょう? 逆にそういう経験も必要だと思ますよ。される側のつらさ悲しさを知るべきです」


 真顔で説教めいたことを言う。ユウは顔を真っ赤にし激高する。


「てめぇ! さっきからくだらねぇことばっかいいやがって! 俺らが何をしようと勝手だろうが!」


 その言動にニーナは呆れる。挑発による怒りで我を忘れているのか、はたまた元々こんな身勝手な人間なのか。後者なら救いようがない。


「そうですね。勝手……ですね」


 サン・オブ・バトルマスターは疲れたように息を吐く。


「あなたはあなたで好き勝手すればいい。僕も僕で勝手にします。あなたたちみたいな悪党を今までの被害者たちに代わって裁くことにしますよ」

「偉そうに、何様のつもりだ!」


 冷静でしっかりしたプレイヤーだと思っていたエアデールの言葉にニーナは呆れて肩をすくめるが同時に勝利を確信する。「真戦組」総崩れという事実は冷静を奪う。


「権利って、それはお互い様でしょう? 恨むのなら分不相応に僕にケンカ売った自分たちを恨んでください」

「おお! やれるもんならやってみろ! 『真戦組』の局長と副長の地位は伊達じゃねぇ! 隊長クラスと思うなよ!」


 完全に頭にきたユウ。勢いよく長剣を抜く。エアデールも曲がったレイピアを予備のと交換する。


「2人しかいないのに局長も副長もないでしょう」


 どんな魔法を使うかと考えながら挑発していると、


「ニーナ、下がって休んでで。後は僕がやります」


 顔を見ることさえせずに言う。ムッとしたニーナは険のこもった目で睨む。


「なに、それはあたしに対しての侮辱?」

「滅相もない。ニーナのとは誰よりも僕が理解しているつもりだよ、相棒。最強目指してることだって、僕の次に強いってことも。……5人は倒したみたいだけどAP残量は?」


 ニーナはハッとして腕の端末を見て、唇をギュッと噛む。指摘通りAPはもう1桁で思い切った戦闘ができない。


「……うっ」


 悔しかった。ダメージを与える術が魔法のみになってしまうのでAP残量には常に気をつけておかねばならないというのに完全に失念していた。

 今まで1人でここまでの人数を同時に相手をしたことがなかったのでそこまで気が回らなかった、というのは彼女にとって言い訳にならない。単純なミス、だが彼女にとっては死活問題に直結している。


「かくいう僕ももうAPがなくて特技つかえないけどね。でも俺の場合まだ肉弾戦はいけるから。だからまかせて。元々は僕に売られたケンカだから」


 落ち込むニーナに小声で言う。


「……ここまで巻き込んでてよくいうわよ」

「ええ、感謝してます。ニーナが分断した敵を引きつけてくれたおかげでノーダメージでこれたんだから」

「分断『した』……ね。あたしはてっきり『された』のかと」


 事実に基づく皮肉。だか彼は平然と微笑む。


「結果を見てください、結果を」


 今では2対2となり「真戦組」の思惑通りには進まなかった。だが敵の作戦を自分の作戦のようにいう図々しさはニーナにはない。意地を張るのが何となく馬鹿らしくなったので大袈裟に肩をすくめる。


「いいわ、任せた。残りの雑魚2匹さっさと倒してよ」

「了解」

「誰が雑魚だ! 誰が!」


 憮然とした表情で叫ぶユウ。エアデールも仮面のせいで表情越えおわからないが開いている目の部分から覗かせる視線は鋭い。

――が、ニーナに恐怖はない。そのことがかえって余裕のなさをかもし出すからだ。後方に下がりながら返答する。


「あたしたちから見たらたいていのプレイヤーは雑魚よ」


 それにサン・オブ・バトルマスターがいる。


(マスターに勝てるのはあたし以外にいるもんですか!)


 彼女が気づいたこの世界の法則がある。

 ここで身体を動かすのは実際に身体を動かす必要がない。脳波感知システムのおかげで思うだけで身体が自然に動く。その事実をほとんどプレイヤーはどうしてかを深く考えずに現実世界と同じようにごく自然に体を動かす。もちろんそれで十分動くし、取扱説明書にもそのように書かれている。

 ニーナが気がついたのは本当に偶然だった。明確に自分の身体が動く様を強くイメージすると本来リアルの自分の身体ではしたことのない――もしくはできた試しがないようなアクション――が行うことができるということに。

 先ほどエアデールにしたようなスライディングも知識としてはあるが現実ではやったことがない。もしも体を動かす要領でやっていたら失敗していただろう。なんどかテレビなどで見た姿を思い描くことで成功させたのだ。脳波感知システムは強いイメージを再現できるのだ。


(マスターも気がついてる)


 ニーナは確信している。

 もっというなら自分よりも完璧に使いこなしていると。

 それが彼と彼女の差なのだと。

 また戦闘前に挑発するのも有効な手段なのだ。冷静さを失わせることで脳波を乱れさせ動きを鈍らせる。自分は冷静に詰め将棋でもするように頭脳的に戦う。

 この恐ろしさに気がつかず術中にはまっているプレイヤーが何人来ようとも彼の敵にはなり得ない。


「せっかくですからご自慢のコンビネーションとやらを見せてください」


 刀の背でとんとん得お肩を叩きながら2人を見据える。「2人同時にかかってこい」といったほうがまだ柔らかい言い方であるユウはエアデールに目配せをし、同時に走り出す。


「紫電無双」


 先に近づいたエアデールが間合いギリギリの位置から牽制もなしに予備のレイピアを突く。

 刀身は電気をまとい先端はいくつかに分身した。

 マスターは慌てない。出始めの一瞬のスキに間合いを詰め、左手で仮面を殴る。仮面は割れこそしなかったがカウンターということもあり後ろに転がっていく。レイピアで繰り出される点の攻撃はスピードも威力も恐ろしいが見切ることさえできればカウンターの餌食となりやすい。


(マスター、カウンター得意だしな)


「たぁぁぁぁ!」


 左脇に回り込んだユウ。上段からの一撃を加えようとする。左手で殴ったので若干体勢が悪い。

 いうだけのことはあり実にいいタイミングだ。バトルマスターは身を引こうと左足を下げるしぐさを見せる。だが何かに気づき動くのを止め、刀を両手で持ち下段に構える。


「何?」


 ユウの振り下ろした長剣はかすることはなかった。サン・オブ・バトルマスターの腰の鎖につながった円形の黄金の装飾が当たる直前、剣の前に自動的に移動し盾となり防いだ。

 アクセサリー「十六夜」――物理的攻撃を確率で自動的に防ぐ盾。


「確率なんだったら、いつ防いでくれるかわからないから不便じゃない? 避けた時に防がれたら損でしょう?」


 ニーナがかつて質問したと彼は笑って答えた。


「だから鎖につけて腰に巻いてるんだよ。鎖が動いたら気がつくでしょう」


 つまり先ほどは避けようとした時に鎖が動くことを感じ、攻撃の準備をした。


「ガァァァ!」

 

「十六夜」はほっておいても元のように鎖と一緒に腰に巻き付く。

 バトルマスターはすかさず身体のバネを目一杯つかった下段からの斬り上げ、そして流れるように刀を返す。

 ユウも腐っても「真戦組」のトップ。初撃は食らい甲冑に傷をつけられるが、連続で食らうようなことはなく後ろに大きく跳ぶ。

バトルマスターは追い打ちをかけない。

 右足を軸に反転し、自分の後方を横になぎ払う。するとちょうど後ろから音もなく近づいてきていたエアデールは反射的に足を止める。


(……なるほど)


 ニーナは悔しいながらも感心する。思い起こせば彼らはスキあらばつねに後方に回り込んでいた。彼はそれを逆手にとった。


「ハァァァァ!」


 急に止まったせいで上体がつんのめったエアデールのアゴ先を長い足で勢いよく蹴り上げる。身体は宙を浮き、そのまま着地することはなかった。


――ズボッ!


 ヤケに生々しい刃物が肉に食い込む音。手に持った刀でエアデールの胸を貫いた。


「……ま、まさかエアデールまで」


 悲鳴一つ無く光の粒子となって消えていったエアデールを見てユウは茫然自失という表情でつぶやく。


「いまさら青い顔しても無駄ですよ。あなただけは絶対見逃しませんから」


 穏やかな口調で物騒な台詞。我を取り戻したのかさらに我を失ったのかは不明だがユウは叫ぶ。


「ウルセェ! そりゃぁこっちの台詞だ! お前を殺せば少なくとも『真戦組』の株は上がるんだ」

「……万に一つも無いことですが、仮にできたとしましょう。生き残ったのが1人でも株ってのは上がりますかねぇ?」

「関係ねぇ! 俺が『真戦組』だ!」


 左手の親指で自分を指す。


(タチ悪ぅ~)


 ニーナはイヤそうな顔をする。だがサン・オブ・バトルマスターは平気な顔、いや楽しそうな顔をしている。


「あなたのように自分勝手で最低な人間って、僕けっこう好きなんですよ。殺しても特に罪悪感もわかないから」

「アタック!」


 ここまで馬鹿にされて話をするのがイヤになったのか特殊技能を発動させる。全身が一瞬だけ赤く光るこの特殊技能は60秒間だけ攻撃力をアップさせる。そして続けざまに、


「時空剣」

「――――!」


 ニーナは目を疑う。ユウの持っている長剣の柄は握られているが刀身が消えたのだ。ニーナが不思議に思っているとバトルマスターは横に飛ぶ。すると今までいた場所に上空から刀身が振ってきた。


「テヤァァァァ!」


 ユウは柄しかない手をバトルマスターの逃げた方向に横なぎするようにふる。すると数メートル離れた刀身はバトルマスタを追っていく。


「剣の刀身だけが分離して遠距離攻撃ができるってことか」


 ニーナはようやくその能力を悟る。

 バトルマスターはその場でジャンプし、攻撃をかわすがユウの執拗な攻撃は止まらない。

 自分ならどう戦うかとニーナは考える。こうも続けざまに攻撃を仕掛けられると詠唱をするのは楽ではなさそうだ。だがスピードに自信があるので、回避に専念すればダメージを負うことはない。ならば特殊技能の効果が切れる瞬間を狙う。そう結論を出した時、バトルマスターは違う結論を出した。


「何ぃ!」


 ユウが驚くのも無理はない。何度目かの攻撃をバトルマスターは左手で刀身を握った。それも白羽取りというのではない、無造作に握ったのだ。真っ赤な血が刀身を伝い、地に落ちる。しかし当の本人は痛がる素振りすら見せない。それどころか強く握って力任せに刀身を引っ張る。


「え! たぁ」


 するとユウは引っ張られるように前のめりになる。刀身は離れているとはいえ柄の動きにあわせて動く。ならば逆に刀身を動かせば柄も動くということになる。


「クソ!」


 毒づいて体勢を立て直そうとした時にはもう遅かった。


――ザン!


 一気に間合いを詰めたバトルマスターが刀を振る。


「時空剣、キャンセル」


 間合いが縮まった以上「時空剣」は不利と悟り元に戻す。だがバトルマスターはお構いなしに攻撃を続ける。


――ガツン!


 剣を使うと見せかけて頭突き。ユウは片手で食らった頭を押さえるがバトルマスターは痛んだ素振りさえ見せず腹を蹴飛ばす。


(相変わらず足癖悪ぅ)


 サン・オブ・バトルマスターの戦闘の特徴は手癖、足癖の悪さだとニーナは分析している。基本的に剣を装備しているが下手をすると剣での攻撃よりも素手での攻撃する回数のほうが多い。

 ユウは力に逆らわず後ろに倒れ込む。まだ生きているのはひとえに防具がいいのだろう。ユウは痛みの表情は隠そうともせず瞳には恨みというなの闘志が宿る。

 バトルマスターが近づいてくると倒れたままの体勢ながら長剣を突き出す。けれどもこれは「十六夜」に簡単に防がれる。


「……列斬覇」


 歩み寄ってくるバトルマスターにユウは最後の賭に出る。ユウの身体に渦を巻くように風が集まり気流となる。


「マスター!」


 ニーナは叫ぶ。これが一か八かの大技だとしたら確実に必殺技。

 だが忠告を聞こうともせずさらに前に進む。そのとき気流が刃の形に変化しバトルマスター目がけて勢いよく突き進む。かわせるような距離ではない。


「……ウソ」


――ヴァシュゥゥゥゥゥー!


「アハハハハ、ざまーみやがれ!」


 バトルマスターは避けることさえせず気流の刃を左手で強く弾いた。結果として軌道をそらすことに成功したがただでは済まなかった。

 左腕は血をまき散らしながら肩から飛んでなくなった。

 このゲームでは腕が無くなろうと、足が無くなろうと病院・薬・魔法という手段で完治することができるので深刻な問題ではない。

 だがそれは戦闘後の話だ。戦闘中に腕が無くなれば痛みは治すまで継続するしHPも徐々に減っていく。

 バトルマスターは痛みで顔をゆがめている。だが瞳は真っ直ぐに自分をあざ笑うユウをみる。その意味に気がついたのかユウは慌てるが硬直で身動きがとれない。


「残念、でしたね」


 右手だけで器用に刀を逆手に持ち替えユウの胸に突き刺す。

 ダメージの蓄積されていたユウはアッサリと消滅した。

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