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ブレイン・フィールド  作者: 小鳥遊彰吾
エピソード4
14/20

エピソード4-2

「フォースロンド」


 ニーナが放った十数個の光弾は正面にいた男にぶつかり消滅させる。


(これで4人)


「ケッ! しぶてぇ女だ! まさか一番隊が全滅するとはな!」


 精神的の疲労から肩で息をするニーナ。

 まだあと3人残っていることは知っているが余裕のつもりか高みの見物を決め込み若干離れた場所にいるので慌てることはない。大きく深呼吸し、声のした方向を見る。

 10メートルほど離れたところに3人の男が立っている。

 中心にいる全身真っ赤な甲冑で身を包んだ男が忌々しげにニーナを見ている。彼が「真戦組」のリーダー――彼らの言葉を使うなら局長。新撰組を意識してのことだ――名をユウ。


「まだ僕がいるよ」


 ここではルックスは自由に選べるので見た目はまったく意味をなさないことは理解しているのだがひ弱そうな子供が自信ありげにいう姿にニーナはバカにされているような気になる。


「1人じゃ隊とはいえねーだろうが! ったくいい装備くれてやったのに女1人に情けねーたらありゃしねぇ! ……こうなったら隊長として責任とれよ、シグマ!」

「ハーイ!」

「ちょっと待て」


 脳天気に手を挙げたシグマをもう1人の男、不気味な仮面をつけ身体全体をマントでくるんだ副長が止める。


「女、チャンスをやろう。今なら7番隊隊長の地位をやってもいい」

「エアデール! お前何いってる!」


 エアデールと呼ばれた男の思いがけない言葉は投げかけられたニーナよりも局長を慌てさせる。エアデールはユウに顔を向け、


「考えてみてくれ。1人で隊員4人をアッサリと倒した。サン・オブ・バトルマスターにしか興味なかったから気がつかなかったが……彼女も逸材だ」


 ニーナは「何を今さら」と腹を立てるが表情には出さないように心がける。

 彼らの目的は「真戦組」という組織を大きくすること。国家にも負けないくらいに。戦力補強にサン・オブ・バトルマスターに目をつけスカウトしにきたのだが、


「困りましたね、自分より弱くリーダーとしての資質の劣る人間の下で働くなんて……屈辱、ですね」


 この言葉で交渉はあえなく、いや当然のごとく決裂した。

 真戦組は最初から戦闘も視野に入れていたのだろう、手際よくサン・オブ・バトルマスターとニーナは分断された。何らかのアイテムでニーナは局長、副長、一番隊の計8人は離れた場所に飛ばされた。いまサン・オブ・バトルマスターがどこで何をしているのかはまったくわからない。


(心配するだけ無駄だろうけど)


 彼の強さは一番よく知っている。癪ではあるがほっておいても問題はない。問題があるとしたら自分がココで死ぬことだ。そんな屈辱はいやだとニーナは気合いを入れた。現実世界ならいざ知らずこのゲームでは囲まれたところで絶体絶命というわけではない。


「なるほどな……」


エアデールの言葉を腕組みして悩むユウ。ニーナはさっさと決断できるように手助けをする。


「お断りよ! 人海戦術の勝利なんてまっぴらゴメンよ!」


 そんな勝ち方に何の意味がある。いつまでたっても開けないではないか、最強への道が。

ユウはアッサリと考える素振りを止め、鼻で笑う。


「じゃあお前もサン・オブ・バトルマスターと同じように死ね。シグマ!」

「ハーイ」


 どことなく気の抜けた返事だが局長は気にしない。おそらく彼の地なのだろう。戦闘時に気が抜けるといって何度注意しても無駄であり今では誰も気にしなくなった。


「一対一でも強いことを証明してやれ!」

「らじゃぁ! デモンブレードを装備」


 端末に指示を出すと瞬時に命令が実行された。

 右手に彼の身長よりも高い長さの剣が現れる。無骨で刃渡りの広い片刃という大剣は一見小学生のようにしか見えないシグマにはアンバランスで使いこなせないように見える。剣を振るのではなく剣に振り回されるのではと心配になる、本来なら。

 ニーナは小声で呪文を詠唱し始める。油断は禁物。見た目に惑わされるのは初心者だと。


「シグマ、相手は強力な魔法を使うぞ。用意をしとけ」

「だねぇ。マジックシールド」


 エアデールの忠告を素直に聞きシグマは特殊能力を使う。一瞬光の幕が身体を包み、吸収されるかのように消えていった。


(弱ったな……でもやっるっきゃないか)


 効果は60秒。魔法ダメージを20%軽減するので速攻で倒すのが厳しくなった。


「エイ!」


 シグマはズカズカと間合いを詰めるとゴルフクラブでも振るように下段からすくい上げる。大きな刃が迫ってくる。鋭く風を切る音が雄弁に威力を物語るが黙って受ける義理もない。

 後ろに軽くジャンプ、そしてロッドを突き出し、


「ファイヤーボム」


 炎の弾が一直線に刀を振り上げた体勢のシグマに飛ぶ。


「よっと」


 シグマは慌てず、先ほどの動きを巻き戻しするかのように剣を叩きおろす、それも軽々と。ファイヤーボムは物体に触れた瞬間爆発して対象を燃やす魔法だが、シグマの剣に触れた瞬間かき消え、煙が発生しただけだった。そんなことができるのは「デモンブレード」がレアアイテムということ。牽制程度の魔法はあの剣には通じない。「真戦組」の悪名からそれくらいのことを予想していたニーナは気にも止めず次の行動に移っている。


「シグマ! 後ろだ」


 煙のせいで一瞬ニーナを見失ったシグマにエアデールが忠告する、がもう遅い。ニーナのスピードはハンパではない。呪文を詠唱しつつ瞬く間に回り込む。


「エアスラッシャー!」


 早口も得意だが、言い慣れた呪文はすぐに完成する。鋭いかまいたちがシグマを襲う。


「エッ?」


 タイミング的にはピッタリのはずだった。だがエアデールの声にすかさず反応したシグマはその場に倒れ込むこむ。直線にしか進めないかまいたちは胴体のあった場所を突き進む。大きめのかまいたちだったのでいくらかは背中にかすったようだががマジックシールドのおかげでダメージは少なそうに見える。


(こんなことなら背中じゃなくて足下狙うんだった)


 エアスラッシャーを至近距離から背中にぶち当てればマジックシールドでの軽減を含めてもダメージが見込めると計算した。だが倒れて避けるというのは計算外だった。


「――――」


 ニーナはいったん横に飛び間合いをとる。今はシグマの相手をしているからといって後2人いるのだ。なるべく全員を視野に入れておきたい。


(……マスターは平気かな?)


 一瞬頭をよぎる。今までの攻防でわかったことが2つある。シグマは見かけによらずパワーファイターということ。もう1つ本当に1対1でも強いということ。

 すでに倒した構成員はそれほどでもないが隊長クラスはそれ相応な実力を持っている。

 サン・オブ・バトルマスターには二番隊から六番隊があたっている。計25人の内、隊長は5人。シグマと同等の実力だとしたら少々厄介である。


「お前らがいかにバカか理解したか? かっこつけても1人じゃ限界があるんだよ。大勢で協力していい装備を手に入れれば早く強くなれるだろうが!」


 心配が顔に出たのか、それに目ざとく気がついたユウが声をかける。


「それが協力? 1人じゃ何もできなくて徒党を組んでる人間のいいわけに聞こえるけど」


 どうもニーナは局長が気に入らない。軽く挑発をする。


「――! エアデール! お前もいってさっさとあの女消してこい!」


 たった一言でムキになるユウを見て笑うを通り越して呆れてしまう。


(こんな直情的な人間がよくリーダーやってるわね)


「局長~。僕が相手するんじゃなかったの?」


 すでに起きあがって会話を眺めていたシグマはその決定に不満げな声を出す。エアデールはレイピアを抜きながら局長に代わって答える。


「いいじゃないか。俺たちの基本は多数対一だ。そうでなくても一番隊は壊滅。おそらくサン・オブ・バトルマスターに何人かやられてるだろうから数的にかなりの損害だ。死んだ人間が全員合流できるとも限らないし、合流したところで装備にマイナスがある」


 エアデールはニーナとシグマを三角形の頂点に見立てて正三角形になるような位置で止まる。


「もちろん、シグマが負けるなんて思っていない、……けど石橋を叩こう」

「……わかったよ」


 素直に説得されるシグマを見てニーナは妙に納得する。つまり「真戦組」は局長よりも副局長のほうがしっかりしているということに。


(……ちょい、ピンチかな)


 呪文を唱えながら戦況分析をする。エアデールは影のリーダーである以上実力はシグマと同等か上。地位からして装備も整っているはず。加えて真戦組のスタイル、数人で1人を倒すを考案したのが彼であるというならコンビネーションというものを熟知しているはず。エアデールとシグマの位置は互いがフォローでき、攻め入ることも囮になることもできる位置。ニーナにとって決して楽な展開になり得ない。


(最悪な軍団ってフレコミもあながちウソじゃないってことか。……スピードでかき回して不意をつくしかないか)


 不利という自覚はある。しかしたとえどんな状況下でもどんな相手でも「勝利」すること。それこそ目指す最強への道だと信じている。


「フォースロンド」


 エアデールに身体を向け戦闘態勢を見せ、ノールックでシグマのいる方向に手を向け魔法を放つ。


「イッ!」


 まさか自分に攻撃がくるとは思わなかったシグマ。対応が一瞬遅れる。しかも誤った選択をした。剣でなぎ払おうとしたがフォースロンドは数十個の光弾。一降りで完全に相殺できるはずが無くいくつかが直撃する。


(これで少しは時間が稼げるはず)


 声を上げて吹き飛ばされるシグマを確認。全弾命中すると十分致死に至るが今のシグマにはいかほどのダメージか? それでも少なからずダメージがあるものと確信している。


「――――!」


 稼いだ時間でエアデールを先に、と姿を確認するが一瞬目を離したスキにロストする。

 こういう場合は今までの経験上非常にやばいと全速でその場を離れる。


――シュッ!


 刹那、空を切る鋭い音が耳に届く。今までニーナがいた位置にレイピアが突かれる。


「こっちはスピードか」


 シグマとエアデールの違いを即座に分析。

 動くスピードも剣を振るうスピードもエアデールが上。逆にパワーではシグマが上。

 ただニーナにとってどちらが厄介かと言えばエアデールのほうだ。スピードとAPに特化したニーナにとって基本スピードでは分がある。だがエアデールの武器が厄介だった。

 レイピアの基本攻撃は突き。線ではなく点の攻撃は避けがたい。一点であるので避ける動作は確かに少なくてもすむが最小の動作で最速の動作を視認する動体視力に欠ける。彼がニーナの能力以上の使い手なら苦戦はやむなし。避けるだけなら集中力である程度カバーできるが限界はあるし、避けるだけでは勝てない。それに敵は1人ではない。


「レザースラスト」


 エアデールは突きが外れたことは気にせず、再び突く。間合いの外ではあるが特殊技能と言うことは明らかだったのでニーナは身体をひねる。彼女の予想通り剣先から光がレーザービームのように伸びる。


「――ったく」


 避けたことへの安堵の間もない。

 横目で見るとシグマはすでに立ち上がり後ろに回り込もうとしている。エアデールも一瞬の硬直の後、素早く間合いを詰めようと走り出す。

 隠れる場所でもあればといいのだがここは彼らの用意した戦場。廃墟の吹き抜けになった広いロビーには隠れる場所はない。かなり癪にさわるが1人をいたぶるには最適な場所とコンビネーションだ。


(……作戦変更)


 シグマを先に倒そうと決める。魔法防御があるといっても命中はしやすいだろうし、もうじきその効果も切れるはずだ。両方が視界にはいるように移動しようとする。


「レザースラスト」


 ニーナを目がけてではなく進行方向に突きを放つ。ニーナに間合いをとられるわけにはいかないとの牽制。わかってはいるが止まらざるを得なかった。


「っと!」


 エアデールは一気に間合いを詰め突く。

 ニーナはロッドで受け流す。まさか彼女にそんな器用なことができると思わなかったのかエアデールは戸惑いを見せる。

 その一瞬のスキにシグマを確認。彼はすでに自分の後ろに回り込んでいる。スピードのあるエアデールが牽制、シグマがパワーで止め。非常に理にかなっているが思惑にはまる義理はない。


「てい!」


 ニーナはエアデールに突進する。

 アウトレンジからの攻撃を主体とするニーナがまさか接近してくるとは想像もしていなかったのか動きが固まる。

 それが狙い。

 突進すると見せかけ虚を突き、左脇をすり抜けていく。2メートルほどの間合いをとった時点で振り返る。まだ振り向いていないエアデールの背中と向かってきているシグマがほぼ一直線並んでいる。


(まだまだね)


 スピードはかなり速いが反射神経と状況判断はニーナから見れば甘く映る。どんなに速くても使えこなせなければ宝の持ち腐れだ。そもそもいくらパラメーターにスピードを割り振っても人間なかなか自分の認識を上回るスピードでは動けない。特に『ブレイン・フィールド』のように自分の身体を動かすように操作するのであれば、リアルの自分以上の速度で動くには慣れが必要となる。その上でのそれに合わせての反射神経と状況判断。地道なトレーニングはニーナがゲーム開始当初から今に至るまで密かに続けている。


 エアデールが遅れて振り向こうとした瞬間に間合いを詰めながら強くイメージする。

 自分の身体がエアデールの足下をスライディングしてすり抜け起きあがると同時にとシグマと向かい合っている自分の姿を。


「―――――!」


 刹那、ニーナはそのイメージ通りに身体が動く。 

 スライディングで寝ころんだ体勢のまま腹筋を使い身を起こす。

 するとエアデールの後方にきていたシグマと目があい、ニーナは唇の端を上げる。

 ほとんどのプレイヤーは気がついていないがこういうことがこのゲームではできる。

 それはさておきニーナはチャンスを逃すほど甘くない。


「マインドブラスト」


 詠唱なしでも使用できるように必殺技登録しておいた魔法を使う。

 ニーナの胸の前に蒼い光の点が生まれたかと思うと一気の暴発・膨張してシグマを包む。至近距離でしか使えない魔法だが破壊力は高い。まともに当たれば即死クラスの魔法だ。まだ「マジックシールド」の効果が残っているとしても必殺技登録で威力は50%増。


「エッ? ウウァァァ!」


 突然現れた光に驚き、かわそうとするまもなく痛みが襲ったのだろう。大きな悲鳴が辺りをこだまする。


「……ま、まさか」


 離れた位置にいるユウの驚きの声が聞こえる。ニーナの目論見通り一撃でシグマを葬ることができた。

 だが勝利の余韻に浸る時間はない。体勢を立て直したいがすぐには動けない。

 エアデールがすぐ後ろにいるというのに。


「これで終わりだ!」


 眼前で仲間を失ったことに、正確には自分の不手際で失ったことに怒り、その矛先は当然のごとくニーナに向ける。レイピアを大きく振りかぶる。


「シールド!」


 光の盾が発生し物理的攻撃を一度だけ防ぐ特殊技能を発動させるべく口にするがすぐには発生しない。

 理由は彼女自身もわかっている。

 必殺技を使った後に起きる反動、つまりは硬直。特殊技能を使った時もあるが必殺技はその威力の関係からそれよりも長い。時間にして2秒弱。戦闘時において致命的になりかねないくらいの時間。

 レイピアという武器には特性があり急所――心臓や頭など―― を貫くとクリティカルとして大ダメージの可能性があり、HPが低いニーナは即死の確率が高い。


「死ねぇ!」


 鋭い先端がニーナの心臓目がけて一直線に突き進む。

 危険を冒しての1人葬ったのだ。この展開は予想はしていた。いま口こそ動くものの身体が動かない状況下では硬直終了後に発生するシールドが間に合うことを祈りつつ、身を捻るアクションをすること。

 だが無慈悲にもどちらも間に合いそうもなく、凶刃は止まらない。


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