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ブレイン・フィールド  作者: 小鳥遊彰吾
エピソード4
13/20

エピソード4-1

 エピソード 4   道は困難と理解してなおあきらめきれませんか?



ニーナ(♀)

HP:80  AP:55  OF:13 DF22 SP:30

(HP=体力、AP=特殊技ポイント、OF=攻撃力、DF=防御力、SP=スピード)

特殊技登録      :詠唱、シールド、ピンポイント

必殺技登録      :マインド・ブラスト

武器           :ホーリーロッド(OF:+7、SP:±0、AP:+15)

防具           :天使の衣 (DF:+20、SP:+7 注:空を飛べる翼付)

アクセサリー      :シャーマンサークル(AP消費を半分にする)

               韋駄天リング(SP+15)

希望シチュエーション :最強!

称号           :エンジェル、四天王【空】





 上がる白煙に視界を失う。爆音が鳴りやんでも巻き起こった煙や土埃は簡単には消えない。

 魔法「ダイナ・ブラスト」――術者を中心として周囲を広範囲に爆発させる。

 通常APを50も消費するだけあり、その威力は絶大。

 抵抗力が弱いと一撃で致命傷となる。欠点として敵味方の区別無く平等にダメージを与えるためパーティーを組んでいると使い勝手が悪い。今はソロでプレイをしているために何の気兼ねもなく使える。今回のように1人で数十人以上を相手にする場合にはこれ以上に効果的な魔法はないともいえる。

 長い金髪を何度も撫でる。自前ではないがキレイな色の髪は気に入っているので埃で汚れなければいいなと思う。


「く、クソ! 生き残ったの俺だけか!」


 男の声に少女は振り向く。

 次第に煙がはれてきて人の姿を確認できる。槍を杖のようについた男は周りを確認し毒づく。

 白い帝国騎士用の鎧は爆発の影響でヒビが入っているし、長身痩躯の肉体に泥がついていない場所のほうが少ない。


(……気に入らない)


 それでもなお闘志をみなぎらせている瞳を見て少女はイラつく。


「……まだやる気? あたしは逃げ出す相手には寛大よ。あなたを指揮してた無能な上官は死んだんだから逃げたら? それが賢明な判断でしょ?」


 いま2人のいる場所は帝国と共和国の国境周辺の緩衝地帯。木や岩などの遮蔽物のない見晴らしがいいことだけが取り柄の不毛な荒れ地。

 ここは争って得るほどの価値のある土地ではない。がここではしばしば戦闘が起きる。理由は実際の戦争とは逆の考え。ゲーム側が帝国と共和国の軍が激突する場所の1つとして設定された場所なのだ。争う理由ではなく戦争のイベントの場として存在する。

 

 少女は特に目的もなくこの場にいた。強いて理由を挙げるなら次はどこで戦うかを考えていたのだ。

 そんなおり、帝国軍が現れ少女に一方的に仕掛けてきて――返り討ちにした、ただそれだけのこと。

 被害者面をしてもいい立場だがこんなことは慣れっこであるので何の感情もない。生き残った人間に私怨もない。


「――逃げない!」


 男は少女の意見を聞きいれなかった。槍を構える。


「あたしが誰か知らないわけじゃないでしょ? 生き残ったけど相手にされずにどこかに行ったってウソついたって誰も疑わない。わざわざ死亡欄に数字増やすこと無いでしょ?」


 帝国には敵前逃亡を厳しく処罰する法がある。それを恐れてのことかと思い打開案を提供する。が男は首を振る。


「あんたが誰かはすぐわかる。『エンジェル』は称号を持っているプレイヤーの中じゃ一番特徴があるからな」


 と少女を――正確にはその背についたモノを指さす。そこには純白の大きな翼がある。遠目でも目を引くそれは確かに自分を宣伝して歩いているようなモノだ。翼があまりにも目立つのでなかなか瞬時には気がつかないが彼女自身の美貌も称号に恥じることはない。


「確かに死亡欄に数字が記入されるのはイヤだけど……決めたんだ。逃げないって」


 ニーナは戦うことが嫌いではない。しかし圧倒的な力を見せつけたというのに向かってくる相手は嫌い。自分が弱く見られているように感じるからだ。


「そう。じゃぁさっさと玉砕して」


 それが戦闘開始の合図となった。


「ウェーブ!」


 男は叫び声とともに槍を地面に叩きつける。すると地を這う衝撃波がニーナにまっすぐに向かう。後方からは硬直が解けた直後に男は衝撃波を追うように駆け出している。


「翼よ」


 瞬時に男の狙いを悟る。ニーナは典型的な魔法使い。接近戦に持ち込み、呪文を詠唱する間を与えず倒す。セオリーだけに対処法は用意している、その中には彼女しか使えない方法もある。


 ニーナは自分が宙を舞うイメージを思い浮かべる。


 するとそのイメージ道理に背中の翼が大きく開き、はためく。

 重力が軽いことも無関係ではないだろうが、ふわっと浮き上がり、槍が届かない痛感で止まる。


 これがニーナの最大の特徴。

 称号を手に入れた時に聞かれた要望に「空を飛べるアイテムを」という注文。ゲーム側が用意した防具『天使の衣』はAPを消費することでイメージ通りに空を飛べる翼が備わっている。基本的に1秒宙を舞うことでAPを1消費する。ニーナの場合AP消費量を半分にするアクセサリー『シャーマンサークル』があるので2秒で1消費。彼女の最大APは装備品を含めて70。故に最大140秒舞うことができる。

――もっとも空をずっと飛ぶだけで勝負に勝てるはずはない。


「クソッ!」


 男は立ち止まり舌打ちをする。直接攻撃の届かない空に陣取るのは優位である。つまりは兼ね合いだ。

 ニーナは呪文を唱えながら男を飛び越えるようにバックをとる。


「ファイヤーボム」


 逆さまに見える男の背中にロッドを向け魔法を唱える。先端の水晶から生み出された数個の炎の弾が一斉に飛んでいく。一撃必殺の魔法ではないが先ほどのダメージが残っているのならば致命傷になるとふんだ。


「炎舞陣!」


 振り向きもせずに叫んだと思うと男と中心とした円状の薄い炎の壁が現れる。ファイヤーボムを相殺することはできなかったが威力が確実に弱まってぶつかる。


(へぇ、いいセンスしてる)


 回転し着地しながら男の評価を上げる。おそらくは『ダイナ・ブラスト』も同じ方法で軽減したのだと。でもそれだけのこと。


 ――シュッ


 炎の壁が消えた瞬間、よろめいた体勢を無理矢理立て直し、振り向きざまに勢いよく槍を振り回す。


(甘い!)


 その程度のスピードではニーナは慌てることもない。


「……どう? まだやる?」


 今度は空を飛んだわけではない。滑るように槍をかわし脇をすり抜け再び背後に。手にしたロッドで背中を軽く叩く。ダメージを与えることではなく強さを示す。


「ああ、やる。強いヤツと戦うのは自分を鍛えるには一番だってあんたのお仲間の『ジェネラル』が言ってた。……俺もそう思う」


 ランディにそれなりに認められたプレイヤーかと男を見る。


「目的がある。……強くなりたい!」

「そう、……残念ね」


 男を殺すことがではない、自分の忠告よりもランディの忠告を聞くことに対してだ。


(強さを求めるならどうしてより強い人間の言うことが聞けないの? 今あたしは最強に最も近い存在でしょう)


 男は身体を回転させ槍をぶつけようとする。その行動を読んでいたニーナは早口で呪文の詠唱をしつつ再び宙に舞う。


「テイッ! ――?」


 男はまた背後をとられると思い急回転する。

 がニーナの姿は見えない。

 慌てて探そうとした時には遅かった。彼はニーナのスピードについていけてないせいもあるが、それ以上に知らなかったのだ。頭上が死角ということに。


「ジオ・スパーク!」


 ニーナは真下にいる男にホーリーロッドを向ける。先端から発生した紫の稲妻は一条の閃光となって男の脳天に命中、そこから稲妻が荊のように走り全身を拘束し、ダメージを与え続ける。

 この魔法はニーナの持つ雷系の魔法では威力こそ並であるが使い勝手がよいので重宝している。


「ガァァァァァ!」


 5秒間ダメージを与え続ける魔法だが受けている当人にはもっと長く感じるだろう。


「あなた、センスはいいけどマダマダよ。強さを求めることは悪くないけど……上を見すぎよ。あたしだって……」


 初めから強かったわけじゃない。そう言おうとして止める。名も知らぬ相手に言うべきことでもないし、すでに死んだのだから。光の粒子となって消えていく男を見てニーナはボソッと呟いた。


「つまんない」


 男のいう誓いが何かは知らない。――そのことを否定する気はサラサラ無い。自分も「最強」という目標をかかげてここまできたのだから。

 腹立たしいのはただ1点。

誰もニーナが最強だとは思っていないということ、それどころか軽く見ている傾向があるということ。

 理由はいくつか考えられる。

 主戦攻撃が魔法であるということはAPが無くなれば弱い。空を飛ぶということがイロモノっぽいなど考えられるが大元はそんなことではない。

 誰しもが認めている最強の称号「サン・オブ・バトルマスター」をもつプレイヤーがいるということだ。


「……マスターか」


 ニーナは彼のことをそう呼ぶ。登録名は知っているが隠しておきたいという彼の考えを尊重しているからだ。


「あのバカ、何してんだろ?」


 その場に座り込む。彼がいたころには目の前に目標がいたので張りあいがあったがいまは何となく気が乗らない。

 ニーナがこの「ブレイン・フィールド」をプレイする理由、それは一番になりたいのだ。男女平等といわれつつも現実世界は女性に不利になっている。肉体では確実に劣るし、頭脳は関係ないといっても昔からつくられている権力機構というものは男性の作り上げたモノでそこの女性が入り込むというのは至難の業である。誰もが認める一番になるというのは非常に困難だ。

 だがこの「ブレイン・フィールド」には男女の差は関係ない。それがひたすら気に入った。自分のような女性でも一番になれるということが、誰しも認める存在になれるということが。彼女は最強を目指しガムシャラに走り続け、高く大きな壁にぶつかった。

 ――サン・オブ・バトルマスターだ。

 一緒にパーティーを組んでいたときからそうだったのだか、彼が行方不明になった今でさえオマケ扱いされているのがトコトン気に入らない。


「あいつとはテストプレイの時からのつき合いだけどさ」


 ニーナが身体と世界になれ始めている時に出会い、気があったので一緒に行動していた。ほどなく彼は称号を手に入れ、負けるモノかとがんばったおかげで彼女の急速に強くなり称号を手に入れた。


「感謝すべきなのはわかってるけど、……納得いかない!」


 サン・オブ・バトルマスターの戦いの逸話のほとんどにニーナはいた。

 よく考えると1人で千人の敵を倒したという戦闘以外にはいた気がする。だというのにニーナは重要視されていない。下手するといないことになってさえいる。

 頬をふくらまし憮然とした表情のニーナ。理由がまったくわからないわけではない。

 サン・オブ・バトルマスターのすることはハデなのだ戦闘方法ではなく過程が。


「あのときもそうだっけ」


 結果的に自分が称号を得ることになった戦闘「真戦組」のことを思い出す。――飛べなかったあのころのことを。

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