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ブレイン・フィールド  作者: 小鳥遊彰吾
エピソード1
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エピソード1-1

初投稿となります。

手探りでやってますので温かい目で読んでみてくれれば幸いです。

 エピソード 1   自由という不自由を理解してますか?



エリック(♂)


HP:88  AP:52  OF:10  DF:40  SP:10

(HP=体力、AP=特殊技ポイント、OF=攻撃力、DF=防御力、SP=スピード)


特殊技登録      :詠唱、バリアー、目つぶし

必殺技登録      :ヒール

武器         :セイントロッド(OF:+4、SP:-1、AP:+4)

防具         :白衣(DF:+5)

アクセサリー     :守りの護符(DF:+3)、十字架(回復系の効果を高める)


希望シチュエーション :トレジャーハンター(後衛にて回復専門)






 現実、――すべてがそう思えた。

 見上げれば広がる青い空。

 ゆっくりと流れる白い雲。

 頬をなでる爽やかな風。

 あたりにはえる背の高い木は種類こそわからないが見覚えがある気がする。

 舗装されてない山道はハイキングコースのように目的を持ってつくられた道ではない。人の足で踏み固められているだけで伸び放題の雑草、木の根や石などでデコボコしており少々歩きにくいがそれがかえってリアルさをかもしだしている。

 現実、――すべては錯覚であるというのは知っている。そう、よく知っている。


「ガッハァァァァ!」


 いちいち確認するまでもない眼前で起きていることは二一世紀の日本ではあり得ない。

 

 ――血が舞い散る。


 深紅の瞳を持つ体毛が深い紺色の狼――ヘルハウンドが目の前の黒い空手着を着た仲間の左腕に噛みついている。


「なぁろ!」


 彼は手を振り空いている右手で原を何度も殴り、必死で降りほどく。


「ダイチ、下がれ!」


 ヘルハウンドは一瞬離れはするもののさほどダメージがないらしく闘志は衰えていない。むしろ中途半端な攻撃は怒りを植え付けただけのようだ。体勢を立て直し、再び飛びつこうとしたところを日本刀を持った男が間に割り込む。


「すまん、ソーマ」


 ダイチと呼ばれた小柄だが野性味あふれる少年は、なめし革で作られたジャケットを着たソーマに一言礼を言い、ヘルハウンドから間合いをとる。


「エリック! とりあえずダイチに回復を!」


 ヘルハウンドを牽制しつつ後方の仲間に指示を出す。


(了解)


 自分で決めたとはいえイマイチ『エリック』と呼ばれることに戸惑いを感じるが、それで口に出して返事をしなかったわけではない。

 ソーマに言われるまでもなく白衣を着た少年は回復の準備をしていた。この場で回復させる手段は二つ。アイテムを使って回復させるか、もしくは回復用の魔法を使うか。前者を使う場合、自分の存在を自ら否定することになるのでエリックは迷わずに後者を選んでいた。その場合呪文を詠唱する必要がある。詠唱を途中で中断するとまたはじめからやり直さなければならないので返事ができなかった。その代わりに両手で大きく丸をつくって了承の合図を送る。


「頼む!」

(ウェェ!)


 近寄ってきたダイチの言葉に頷きはするものの内心で呻く。見せられた傷口はヘルハウンドの鋭い牙のせいで少々エグく感じたのだ。


(いっくらリアルが売りだっていってもなぁ)


 正直もう少し配慮がほしいと思う。血を見ることに慣れていない人間のほうが今の世の中は圧倒的に多いだろう。ただ痛みにたいしては十分に配慮をしている。その証拠にダイチはそのケガの割にそれほど痛そうな顔をしていない。通常なら絶叫し、のたうち回っていても何ら不思議ではないというのにだ。


「ヒール」


詠唱が終了すると同時に手にした十字架を模したロッドの上部を傷口に向け、呪文を唱える。淡い光が生まれ傷口がゆっくりとふさがっていく。不自然な様だが見ていて気持ちのいいものではない。


「……お、効く効く」


 ダイチは左手を数回握り、感覚を確かめる。


「見た目ほどじゃなかったみたいだね、一回でよさそうだね」


 傷口は完全にふさがり、血も止まっている。ただし呪文では食いちぎられた袖までは修復できない。血の滲んだ歯形がくっきりとついている。もっともすでに膝や上着の裾などが破れているので本人も気にした様子もない。それもそのはずダイチの衣装のテーマは「ワイルドな空手家」。何をいまさらである。


「サンキュー! 俺は行くから巻き添え食わないように離れてろよ」


 言われるまでもなくエリックはそのつもりだった。最前線に立つことなど自分にできっこないとよく知っている。


「わかってる、でもオオカミの方はリーダーに任しといたほうがいいんじゃない? ああいう小型モンスターに素手は不利っしょ」

「ああ、オズの方に行く」


 向けた視線の先には両手で無ければ扱うことのできないくらいの大剣を持った黒髪の青年と人の大きさをした二足歩行するトカゲが戦っている。オズと呼ばれた男は中肉中背ではあるが剣を持つ腕から推測するに非常に筋肉質である。金属製の鎧を身にまとい大剣を軽々と振るっている。攻撃力も防御力も兼ね備えたまさに前線向きの戦士だが彼を持ってしても攻めあぐねている。

 オズが戦っているのはリザードマンと呼ばれる緑色の鱗を持つモンスター。その鱗は非常に堅く、半端な攻撃は通用しない。一進一退の攻防が今なお繰り広げられている。


「ったく、リザードマンだけでも手一杯だってのによぉ」


 ヘルハウンドはこの山の頂上を目指し登山中に遭遇した2匹のリザードマントの交戦中に突然に現れたいわば伏兵だ。1匹倒した現れたのが不幸中の幸いだが、だからといって楽勝ということはない。苦戦中なのだ。

 現状としては白衣を着た医者風の少年エリックはHPに何の問題はない。ただ見るからに非力な外見が象徴するように戦う能力がまったくないので戦力としては頭数に入っていない。それでも回復の能力を買われていまこの場にいる。

 ダイチは着ている空手着こそボロボロだがエリックの治癒により戦闘に何ら支障はない。問題があるとすれば彼は武器を持っていない。リアルで空手を習っている彼はなまじ武器を使うよりも慣れた無手のほうが戦いやすいと考えたからだ。確かに武器を使用することは攻撃力が上がる。が命中しなければ無意味。そして武器を命中させるためにはそれなりに訓練を必要とする。戦うということを多少なりとも知っている身としては下手に慣れないことをするよりも今できることを発展させることを選択した。攻撃力は少ないし、間合いが狭いといった欠点もあるが、素手にはスピードのパラメーターにボーナスポイントが加算という利点もある。


「リーダー! 回復いる?」

 

エリックはヘルハウンドと向き合っているソーマに声をかける。リザードマンとの交戦中におったダメージを回復しようとしていた矢先の伏兵の出現。しかもその伏兵が素早いので気を抜いたら一気に攻められる可能性もある。HPはあるに越したことはない。そう思い聞いてみたのだが、この中では一番戦闘の場数があるソーマはこの状況に慌てない。自分の残りHPと眼前の敵の力量、オズとダイチと状況を考える。


「いや、いい! こっちは俺にまかせてトカゲのほうから片付けてくれ!」


 手に持った日本刀で牽制しているヘルハウンドからは目を離さずに言う。堂々と言う物言いと顔の中央にある一文字の大きな傷が戦闘中にはやけに頼もしい。彼なりの考え――エリックに回復に来ると逆にねらい打ちになる、ダイチに牽制させるにはヘルハウンドは少々分が悪い、自分も確かに残りHPは心許ないがそれでもダイチとオズでリザードマンを倒す間くらいは持ちこたえられる――があっての発言だが、たとえ何の根拠が無くとも頷いてしまいそうになるだろう。それくらい自信に満ちていた。


「よっしゃ、ってことでメニューオープン」


 顔も体格も装備も違う彼らだが共通したものがある。左手に腕時計のようにつけられた青色の水晶である。基本的にそれには自分の現在のHPとAPが表示されているが使い道はそれだけではない。音声入力によりホログラフのような画面が宙に投影される。そこには自分の細かいステータス――戦闘能力や装備品、所持アイテム、現在の勝率等細かいデーターの項目がある。ダイチはそんな画面を確認せずにすかさず言葉を続ける。


「メモ、オープン!」


 すると画面にはいくつかの文字の羅列が映し出される。その一つに目をつけ、その文字を読み始める。


「オズ! ダイチが魔法を使う」


 詠唱中のダイチに変わり仲間に注意を促す。戦闘中のコミュニケーションは非常に重要だ。バラバラに行動していたのではコンビネーションどころの話ではない。

 この世界では特殊技の欄に『詠唱』という技能を登録しておけば誰にでも魔法が使える。ただし条件としてその魔法を発動させるには呪文を詠唱する必要があり、一文字でも違うと魔法は発動しない。丸暗記すれば何ら問題もないのだが暗記が苦手な人や、数多くの魔法を使う人のための措置としてメニュー欄にメモをすることができる。ダイチは文字を目で追いながら慎重に読み続ける。メモを戦闘中に読むというのは初~中級者によく見られる光景だ。

 ダイチの口が止まる。エリックが見ると彼は軽く頷き前傾姿勢をとる。


「オズ!」


 呼びかけを受け、察したオズは剣を上段に大きく構え一気に振り落とす。が、さすがに隙が大きかったせいであっさりと横にかわす――オズの狙い通りに。


――ドカッ!


 振り下ろした剣が地面につく前に剣を放す。勢いで前に飛んでいく、が剣にはかまわず、間合いを詰め、キツく握った右手でリザードマンを殴る。

 堅い鱗のせいで素手の攻撃ではほとんどダメージを与えられない、が一瞬よろめかせることは十分できた。


「フリーズスピア!!」


 まっすぐに走ってきたダイチが少し離れた位置から右手を上に構える。すると手の平から槍を模した氷の固まりがうまれる。


「テヤァァァァ!」


 槍投げの要領で力を込めて投げる。そのスピードもさることながら体勢を崩したリザードマンはよけようがなかった。

――キャァァァァ!


 響く絶叫。

 氷の槍は一直線に脇腹に突き刺さった。そこからまるで波紋が広がるように凍結していく。その模様にエリックは「おやっ」と思う。基本的に物理的攻撃主体のダイチのつかう魔法は威力は期待できない。それなのにここまでの威力があるというのはオズがほとんど追い込んでいたのではないかと。HPが少なくなっていれば抵抗力が低くなるのでこの威力も説明できる。

オズが半分凍りかけたリザードマンから離れつつ指さす。


「わかってるって!」


 ダイチは勢いよく走っていく。一応とどめは刺しておかなければならない。オズは自分の意志が伝わったことを確認すると投げた剣を拾い、ソーマの方に、正確に言うならもう1匹のモンスターに向かって走り出す。


「火龍脚!」


 ダイチは跳び蹴りをしながらこの言葉を唱える。するとダイチの足から炎が発生する。

 これは『詠唱』と同じく特殊技能に登録している技である。技名を唱えてアクションをすると通常では起こせない攻撃をすることができる。『火龍脚』の場合、足からうまれた火炎は攻撃力を増すだけでなく、その後対象に燃え移りダメージをしばらく与える。

 氷が砕ける音と談末の悲鳴が同時に耳に入る。するとリザードマンは細かい光の粒子となって弾けて消滅した。――リザードマンを倒した証拠である。



 2対1となるとヘルハウンドは迷うことなくオズを狙ってきた。おそらくは持っている武器と装備から動きが鈍いと判断したのだろう。

 正面から突っ込んできたヘルハウンドに対し下段からすくい上げるように剣を振るう。が、瞬時に方向を変え、いったんタメをつくり大きな口から牙をむき出しにしオズに勢いよくジャンプする。


「危ない!」


 エリックはまるで自分が襲われているかのように避ける仕草を思わずするが、当の本人は違った。


「えっ?」


 オズはなんと自ら進んで左腕をヘルハウンドの口に突っ込んだ。オズは金属製の鎧を着ていると言っても腕には何の装備もされていない。

 飛ぶ鮮血。ヘルハウンドは差し出された腕を食いちぎらんばかりの勢いで噛んでいる。エリックはその光景に先ほどのダイチの傷を思い出す。


「一体何を……」


 不思議に思っていると歯を食いしばったまま悲鳴一つあげないオズはヘルハウンドに噛ませたまま腕を差し出す。その先には、


「突きィィィ!」


 ソーマが刺突を繰り出す。これは特殊技能として登録されている技ではない。だが剣道有段者だ行うそれはハンパであるはずがない。


――キュゥゥゥーン


 オズの行為には計算された理由があった。

 自らが囮になることでモンスターの動きを止め、ソーマの攻撃が当たりやすいようにした。一歩間違えば危険であるし、かなりの痛みをともなう。現にダイチは痛みに苦しんだ。

 だがそのリスクの高さは見返りが大きい。殺傷能力の高い「突き」を有段者の腕でがら空きの脇腹に突き刺す。

 ヘルハウンドが光の粒子となり砕ける。一撃で絶命したのだ。


 その様子に安堵しつつエリックは回復魔法の詠唱を始める。エリックにとってはこれからが本番だ。

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