第六話 攻略雑誌とプロ
カジノ区画の入り口付近、サムやケンが警備してある門の直ぐ脇に一軒の事務所が建設された。映像配信用の魔導具やハデスにある機種の筐体が少しあるその事務所は仮面をつけた男と他二人で使用されている。二人の名は岡崎清龍と最近事務所に新しく入ってきた女性社員アリス=ナミエール。岡崎清龍が仮面を付けた男、ハデスのオーナーの下で働きだしてから二カ月が経過していた。清龍は手元に出来上がった雑誌を見て頷く。うん、満足な出来だ。この雑誌がこれからの回胴式魔導遊技機で遊んでいる人の参考になれば――。笑顔で大量生産された雑誌を見渡していた。
「満足な出来になったかい?」
仮面の男は清龍に尋ねる。それに対する清龍の返答はもう決まっていた。
「もちろんですよ。オーナーがいろいろ手配してくれなかったらこんな雑誌は作れなかったし、俺もいろいろ中身の仕様を知れて楽しかったですしね。これで回胴式魔導遊技機をやっている人も、もっと楽しく遊技が出来ると思います」
楽しそうに返答した清龍に対し、オーナーも一つ頷くとアリスに向かい話しかける。
「忙しいところにいきなり連れてきて悪かったねアリス、君の能力にも期待している。これからもよろしく頼むよ」
オーナーのその言葉に対し、アリスは困惑した表情を浮かべながら言う。
「やめてくださいよ、私がこの仕事やってみたくて応募したんですから。それに私はまだやったことないですけど回胴式魔導遊技機や自動球魔道遊器楽しそうじゃないですか。今度やってみたいです!」
ギルドに出した雑誌の編集者募集の記事を見て応募してきた活発な若い女性、アリスはまだやったことがない遊技機で遊ぶことに目を輝かせていた。
「では清龍君に連れて行ってもらえばいい。彼は私を除けば遊技機に一番詳しいだろうからね。それと清龍君、この雑誌はもう販売させてもらうがかまわないね?」
「もちろん良いですよ、アリスには俺がいろいろ教えます。それと販売に関してなんですが……良いんですか? あの値段で」
清龍は雑誌の販売価格に疑問がある。明らかに自分やアリスの給料、雑誌の印刷費用を考えると赤字であった。
「まぁ創刊号ということもあるしな。それに私はこの仕事自体が趣味みたいなものだからね。赤字でもかまわない」
「オーナーが言うなら良いんですけどね。じゃあアリス今からハデスに行くか! 俺も久々に打ちたいしな」
「えぇ! 今からですか……アリスいっきまーす!」
そんな会話を終えると清龍はアリスを連れ事務所を後にする。その日、この世界初の回胴式魔導遊技機攻略雑誌が発売されるのだった。
ある日。サムはハデスで今日の出玉を銀塊に変え、偏屈な婆さんがやっている道具屋への道を歩いていた。
今日も自分が投資した額と同じぐらいの枚数のメダルしか出なかったサムは何かきっかけを探していた。極めると言った目押しスキルもまだ初級からあがる気配を見せない。以前話した名も知らぬ若い男、彼の話が本当なら恐らく『ハリケーン』を打つのが目押しスキルのレベルを上げるのに一番早いのだろうが……あの台を目押しスキルが上がるまで打ち続けたらサムの財力じゃ食費さえなくなりかねない。
同僚のケンが食費すら『魔導少女サヤ』に全額入れて金が無くなり、その話を耳にした警備隊長からひどく怒られたのを今でも良く覚えていた。それからケンは半年の間ハデスに通うことを禁止されている。後一カ月で通えるんだ、とケンが目を輝かせているのだがまた同じことになりそうで少し不安である。
そして道具屋に着いたサムはいつもの様に銀塊を婆さんに渡し、代わりに銀貨を受け取る。受け取った銀貨を懐に入れたサムは道具屋内がいつもと違うことに気付く。銀塊、金塊を買い取るだけで何も商品が置いてなかった道具屋内に商品が積み上げられていた。気になったサムは商品を手に取る、その商品は『魔導遊技機大全』と書かれた雑誌であった。試し読み用なのか一冊だけ読めるようになっている雑誌がある。開いてみると様々な事が書いてあった。
魔導遊技機専門店『ハデス』回胴式魔導遊技機完全解析!
『デル☆スラ』十二時間遊技! これが勝てるデータグラフだ!
『ダンジョンマスター』徹底攻略! 異世界の勇者が出る法則!
ライター『龍』が語る『ハリケーン』の魅力と目押しスキルについて!
究極の台『最終戦争』! 神話揃いで五千枚確定か!?
深夜放送でお馴染み『魔導少女サヤ』の面白さとプレミアム機能『神々の黄昏』に迫る!
書いてある目次を見てサムは目を見開き固唾を呑む。――何だこの雑誌は……サムが知りたいことが全て書いてあるかの様な目次である。ペラペラとページを捲ると『ハリケーン』の欄が目に付く、そこにはこの雑誌の編集者の一人であり『ハリケーン』を唯一ハデスで打っている男――回胴式魔導遊技機のプロ、岡崎清龍の話しが載っていた。その記事を見たサムは思う。
(俺が話しかけたあの若い兄ちゃんはプロだったのか――)
気が付けば雑誌を食い入る様に読んでいた。視線を感じそちらを向くとギョロリとした目で道具屋の婆さんがこちらを睨んでいる。
「ばっちゃん、この雑誌はいくらだ?」
これだけの情報が載っている本だ、安くても銀貨十枚――下手したら三十枚ぐらいするかもしれない。ただでさえこういった本は貴重である。なぜなら、本は大体魔導書ぐらいしかない。娯楽の話しが載っている本なんてサムは聞いたことが無かった。
「――銀貨二枚だよ」
しゃがれた声で婆さんが返す。その値段に驚いたサムは雑誌を一冊手に取り婆さんに銀貨を二枚渡しす。
「一冊貰うぜばっちゃん!」
こうして雑誌を手に入れたサムは自宅へと急いで帰宅する。読みたいと思う気持ちがはやりその足を急がせた。家に着き雑誌を内容にいちいち驚きながら二時間かけて隅々まで読んだサムは満足していた。
――これで回胴式魔導遊技機で勝てる!!
そんな思いを胸に決意する。明日もハデスへ行こう――と。
南大陸の魔族を平定する現魔王――ロゴスは魔王城に設置されている諜報部の部屋に訪れていた。先代魔王が仮面の男に倒されてからはや十年、人々の世界を覗くと活気に満ち溢れている。魔王ロゴスは歴代魔王の中でも強い力を持ち、強大な魔力を保有するが人間たちに攻撃する気はあまりなかった。なぜなら人間たちの作り出す娯楽や文明が好きだったのだ。そしてロゴスには最近気になるものが出来た、諜報部は人間の国で流れている通信映像を傍受しているのだがその中である番組が始まったのだ。回胴式魔導遊技機のプロ、ライター『龍』が送る回胴式魔導遊技機番組『龍とアリスの連れスロ!』である。
この番組は元Aランクの冒険者で現在岡崎清龍と、女魔法使いアリスがハデスに行き回胴式魔導遊技機で遊ぶ番組だ。人間の国でも有名になりつつあり、様々な人が視聴している。中でもこの番組収録の日はハデスが満席になるぐらいらしい。岡崎清龍は回胴式魔導遊技機を詳しくなりたい人に人気があり、アリスはどんな方向からも人気が出ていた。魔王の側近である吸血鬼アクドは、アリスのファンらしく『アリスいっきま~す!』と声が聞こえるたび。『あぁ! アリスちゃんの血が吸いたい!!』と身悶えている。こんな変態を側近にした先代魔王である父をロゴスは若干恨んでいた。
今では楽しく見ているが最初の放送の時は大変だった。第一回目の放送は『ダンジョンマスター』だった。元冒険者である岡崎清龍が打ちながら解説していた。
『演出が良く出来てますね~この台は、自分も冒険者だったのでこんな感じのダンジョンもあったなぁと懐かしくかんじます』
映った筐体の映像を見てロゴスは感嘆していた。
(これは――確か人間たちの王都付近にあるパルサ洞窟だな)
こんな映像を再現できるものなのか、それとも実際に今誰かが潜っているのか、とロゴスは放送を見ていた。だが、ロゴスが大人しかったのもそこまでだった。いきなり同胞が画面の中にいる冒険者に斬り伏せられ悲鳴が聞こえたのだ。
「おいアクド!! 同胞が人間たちにやられている、救出に向かうぞ!」
人間たちの行いに対し、ロゴスは激怒していた。
「お待ちくださいロゴス様、今あの清龍とか名乗る元冒険者が解説しておりましたが、ただの映像です。実際に今斬り伏せられている同胞はいません!」
その言葉にロゴスは落ち着きを取り戻したが、中々怒りは収まらなかった。だが、清龍の解説と現れる魔物に冒険者がやられている映像が出るのを見てロゴスの怒りは収まり、逆に興味へと変わっていった。番組でやっている場所――魔導遊技機専門店『ハデス』あそこに行って自分も遊んでみたい。そう思うようになったのだ――。
そして魔王ロゴスはハデスへお忍びで遊びに行くようになる。それと同時期にハデスに要望が入った。『ダンジョンマスター』は人間が魔物を倒すので面白くない、魔物が人間を倒していく台も作るべき、との内容だった。その話がオーナーの耳に入り新しい台が開発される。『インペリアルブレイカー』、魔物が人間の国に攻め入るという魔族に好評な台が出来るのだった――。
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拙い文章ですが引き続き楽しんでいただけたら幸いです。