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異世界のパチンコ店は一味違うようです  作者: ふぃず
大陸出店編
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第四話 オーナーの暗躍

 魔導遊技機専門店『ハデス』に勤めている店員、ウィルは仕事帰りの夜道を急いでいた。ウィルは生粋の『魔導少女サヤ』ファンであり、仕事のある日はハデスが閉店した後アルゼリオ店長に頼み込んで『魔導少女サヤ』を誰も居なくなった店で打つのが日課だ。毎回楽しそうに打つのでアルゼリオも微笑ましく見守っている。まぁ、アルゼリオが事務所に戻ってホールで一人になった瞬間『サヤちゃん萌えー!』と発狂しているのだが……。いつもの様に打っていたウィルだったが、今日は結構当たったのでいろいろ演出をじっくり見てしまい時間が遅くなったていた。


 (やばい――深夜に放送している『魔導少女サヤ』がはじまっちまう)


 そんな思いでいつもより急いで歩を進めていたウィルだったが目の前に黒装束の怪しげな男三人組が立ち塞がる。その中でもひときわ体格の良い男が一歩前に出て告げた。


「おい! お前ハデスの店員だな。お前の店にある台は仕組まれている! 出る台を教えろ! いや――金を出せ!!」


 大柄な男は恫喝するがウィルは気にも留めていない。『魔導少女サヤ』の放送時間は目前なのだ。放送に遅れない為に走って去ろうとしたウィルだったが男たちは周りを囲み逃がさない。男たちの手には剣や槍、杖が握られている。


「おいおい逃げるなよ。それともこの剣を見てびびっちまったのかぁ? 店員さんよ」


 なんでカジノ区画にこんな馬鹿が出るのかとウィルは内心呆れていた。カジノ区画は莫大な金や貴重な品物、お忍びで来る貴族や王族等それらを警護する目的でそこら中に屈強な騎士や警備兵がいるのだ。いくらウィルがそれらに該当しない人物だとしても騒ぎを起こせば直ぐ警備の者が駆けつけてくるだろう。だが騒ぎを起こせばウィルも事情聴取に時間を取られ、間違いなく放送には間に合わなくなる。

 ウィルは心底邪魔だなという目で男たちを見る。剣や杖などに対する恐れは微塵もなかった。なぜならウィル自身冒険者ランクBという実力者で、ゴロツキや盗賊ぐらいなら雑魚扱いできるほどの実力を持っている。さらにハデスの従業員には店長からドラゴンの攻撃すらかすり傷しか負わないというアーティファクトに等しい防御の魔導具を与えられている。この魔導具を渡された時は数分魂が抜けるほどの衝撃だった。


「おい貴様! 聞いているのか!」


 目の前にいる男の声ではなれかけていた思考を戻したウィルは店員の規則を思い出す。


 店員規則第三条――店に損害を与える輩は滅尽滅相、各自の判断で始末してよい。


 ウィルは目の前の大柄な男に一瞬で肉薄し顎に掌底を叩きこむ。男の脳が揺さぶられ仰向けにその場にゆっくりと崩れ落ちる。後方にいた杖の男がそれを見て魔法の詠唱を開始する――だが、それを見てウィルは大柄な男が落とした剣を拾い杖の男に投げつける。剣は杖の男の肩に刺さり鮮血が地面を染めた。


「てめぇやりやがったな!!」


 声と共に槍を持った男がウィルを槍で突く。だが魔導具により守られているウィルはそれを物ともせず自ら当たりに行った。槍がウィルに当たりガチッっという鈍い音が響く、ウィルはかすり傷さえ負っていない。そのことに驚愕した槍の男が目を見開き何かを言おうとした瞬間ウィルの拳が顔面に叩きこまれた。


 襲ってきた男三人を瞬殺し、ウィルは『魔導少女サヤ』の有名なセリフを言う。


「あなたってほんと馬鹿……」


 うん、決まった。満足げに頷くとウィルは自宅へ向かって走り出したのだった。後に残されたのは気絶した男二人と肩から血を流しうめく一人の男だった。




 魔導遊技機専門店『ハデス』のオープンから既に半年が経過していた。ハデスの店の奥、仮面をつけて外さない謎のオーナーと元SS級冒険者アルゼリオ店長は二人で会議をしていた。


「オーナー、これが半年分のデータです」


 オーナーは書類を受け取り一つ頷くとアルゼリオへ問いかける。


「なかなかの客付きだな、街での評判もいいのだろう?」


「オーナーの計画書通りかなり出してますから。しかし、良いんですか? すごい赤字なのですが……」


 アルゼリオが不安になるのも当然だ。グランドオープンから一週間は特に、そこから三カ月ぐらいまではかなり出している。それ以降も少し還元率を減らしたとはいえ店は赤字続きだ。


「君が不安になるのも当然だが……。いいのだよこれで、最初は話題や常連客を作るために還元するものだしな。それに赤字経営でも私は一向に問題はない。給料が払えなくなることも無いから安心したまえ」


 オーナーが大丈夫というのだから良いのだろう、そうアルゼリオは納得することにした。


「しっかし、俺にはこの何ですか機械割? 客単価? ってのがよく理解できませんがね」


「まぁその辺は後で勉強してもらうさ。とりあえず君には私の考えた設定を決められた台数ランダムで配置してくれればいいのだよ」


 勉強という単語を聞き、アルゼリオは若干顔をしかめた。脳筋というわけではないがどちらかと言えば頭脳派よりも肉体派なので勉強は得意ではないのだ。北泉瑞穂副店長にでも押し付けようと考えていた。


「ところで、客の中に『目押し』スキルを取得した者はいるかな?」


 オーナーの質問に対し、持ってきた書類に目を通しながらアルゼリオは答える。


「結構いますよ。全体の三割ぐらいですかね? 一人『ハリケーン』って台に張り付いている若い男が上級取得してそうですね。しかし、あの台をまともに遊技出来る奴が出るとは思いませんでしたよ。俺も相当動体視力は良いですが全く見えませんからね」


 アルゼリオは『ハリケーン』でメダルを出している一時期気味悪がられ周りが避けていた若い男――岡崎清龍に一目置いていた。あの台のリールの回転速度は魔王が放ってくる魔法の速さより早いのだ。

 その話を聞きオーナーは仮面の奥でほくそ笑む。視線は店内に設置されている監視用の水晶に向いている。そこには岡崎清龍が映っていた――。




 閉店時間が間近に迫ったハデスの店内で岡崎清龍は『ハリケーン』で出したメダルを店員に持っていき魔法紙に記入してもらっていた。今日の出玉は三千枚、もっといけそうな感じがするのだが中々に難しい。普通に押しているだけでは判別できない小役の存在も気になっていた。これじゃまだまだ完全攻略したとは言えない――そう清龍は考えていたのである。最初は金が稼げるからと打っていた回胴式魔導遊技機(スロット)だったが自分で理論を組み立て理解をしていくうちにすっかりこの面白さに虜になっていた。

 今日も道具屋に寄って帰るか、二カ月前『ハリケーン』の話を少しした彼はそろそろ目押し中級を取得しただろうか……。そんな事を考えていると清龍の前に闇の中から仮面をつけた男が現れた。

 仮面の男の出現に清龍は警戒態勢をとる。清龍はここ半年ハデスに通っているとはいえランクAの一流の冒険者である。それなのに気配を感じさせず現れたこの男――いったい何者なのか――。警戒しながら思考を巡らせていると目の前の男が清龍に向かい話しかける。


「君は回胴式魔導遊技機(スロット)が好きだから打っているのかい? それとも金が稼げるから打っているのかい?」


 仮面の男から放たれた言葉は謎だった。こんな現れ方をして聞いてきたのは世間話の様な質問だ。だがその質問は何故か清龍の心に響いた、清龍もずっと考えてきた事だったのかもしれない。


「俺は――最初は金儲けできるって考えで打ち始めたさ、冒険者ってのは楽に金が稼げる方に流れるもんだしな。だけど、今じゃ回胴式魔導遊技機(スロット)の面白さに嵌って最近では勝てなくても打っているただの回胴式魔導遊技機(スロット)オタクさ」


 口に出してみてすっきりとする。あぁ――俺は回胴式魔導遊技機(スロット)好きなんだなぁと感じた。目の前にいる仮面の男は清龍の言葉に満足したのか一つ頷いた。


「なら私の下で働いてみないかね――岡崎清龍君」


 自分の名前が知られていることに驚く清龍。怪しげな奴の下で働いたら何をされるか――。


「君が私の下で働いてくれるなら情報を提供しよう。例えば――君が熱心に毎日打ち込んでいる『ハリケーン』その中押し手順とかね」


「――中押し……だと……!?」


 急に出てきた新しい単語に清龍は目を見開くと同時にある考えにたどり着く。


 (そうか! 俺の打ち方で判別出来ない小役があるのはそのせいで……)


 だが、この男なんでそんなことを知っている――。清龍は毎日『ハリケーン』に座って打っているが他に打っている客を見たことが無い。


「一つ聞きたい、あんたは一体何者なんだ?」


 普通には答えてくれないだろう。そんな思いを抱きつつ清龍は問いかける。


「私はただの回胴式魔導遊技機(スロット)好きさ、だが君はこの答えじゃ納得できないのだろうね……ふむ、ならばこう答えよう。ハデスに設置されている機種全てに詳しい者だ、とね」


 そして気付く。この人物はハデスに設置されている筐体――その開発者の一人なのでは、と。気付いてからの清龍の判断は早かった。


「俺で良いのなら働かせてくれ」


 こうして清龍は仮面の男、ハデスのオーナーの下で働くことになった。


評価、ブックマークありがとうございます!非常に嬉しいです。

拙い文章ですが今後も見て頂ければと思います。


次は自動球魔道遊器パチンコの話です。

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