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異世界のパチンコ店は一味違うようです  作者: ふぃず
大陸出店編
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第三話 遊技台紹介

 グランドオープンして三カ月、今王都の話題となっている魔導遊技機専門店『ハデス』ここでその設置機種を見てみるとしよう。今回は回胴式魔導遊技機に焦点を当てていく。


 まずは初心者向けの台として多くの客に愛されている『デル☆スラ』である。これは単純に台の左下についているスライムランプが光れば当たりという単純な機種だ。時々断末魔が聞こえたり人形からいろんな物が飛び出したりするがこれ以上の説明はいらないだろう。余談だが、この台が手軽に遊べるせいでカジノにあるスロットマシンの稼働が減っているようだ。


 次に紹介するのは映像が画面に映る中級者向けの台『ダンジョンマスター』だ。二種類のモードを搭載していて通常モードは街の中でクエストをこなし武器や防具を揃える、そして装備が整うと大当たりモード『ダンジョン攻略』に変化。映像の中の冒険者がモンスターを倒したり、宝箱を開けてアイテムや金を手に入れるとコインが報酬として払い出される台である。冒険者のレベルが上がると強い敵を倒せるので報酬が多くなり結果コインが多く払い出される。また、この台には『目押し』と呼ばれるスキルの介入が可能であり、敵を倒しやすくなるという特徴がある。


 さらに初心者から上級者まで問わずに打てるが、完全に運によって激しい差が出るのが『最終戦争(アルマゲドン)』という台もある。(いにしえ)に起こったと言われる天使と悪魔の戦いをモチーフにした台らしい。この台の特徴として、滅多に揃わないが揃うと大量のコインが払いだされるという一か八かな絵柄があるのが生粋のギャンブラーに人気である。


 そして一部に大人気である台『魔導少女サヤ』だ。この魔導少女サヤは王都の夜中に通信用の魔導具を通じて放送されている番組の一つだ。画面の中で魔法をぶっぱなしまくる美少女サヤを見ながら『777』を揃えたり、特殊機能である『サヤ TIME』を堪能する台だ。プレミアム機能『神々の黄昏(ラグナロク)』が存在するのも人気の一部である。


 そんないろいろな台がある中、『魔導少女サヤ』にのめりこんでしまった哀れな人が居た――。




 王都のカジノ区画、門の前で警備をしながら二人の男が雑談している。


「お前と一緒にここの警備に立つのも久しぶりだな」


 男――サムが同僚の男に話しかける。


「そうだな、最近カジノ区画より王城の付近の警備を強化してるらしくてな。そっちの警備にまわされることが多かったわ。何でも近いうちに近隣の国の王子がやってくるらしいぜ?」


 同僚の男、ケンがそう返す。


「そういえばケン、お前あれから結構ハデスに通ってるんだろ。今日仕事帰り一緒に行かないか?」


「おう! 是非ご一緒させてもらうぜ俺もあの日から結構通ってるけど知識の多さじゃかなわないからな。そういえば俺もスキル『目押し:初級』取得したんだぜ」


 自慢げに話すケン、興味を示さなかった彼はもういない。彼はハデスに通いオタクとして生まれ変わったのだから。




 夕刻、仕事が終わると二人は魔導遊技機専門店『ハデス』を訪れていた。二人にとっては仕事場からのこの道はもう通いなれた道だ。


「さて、何打つかな~」


 迷っているのはサムだ。幅広く知識をつけてしまいどれも楽しく打てるからだ。


「俺は打つの決まってるぜ!」


 堂々と主張するのはケン、以前のサムと同じように瞳を輝かせている。


「お、そうなのか。何打つんだ?」


「魔導少女サヤに決まってるじゃないか!」




 ハデスに入店して『魔導少女サヤ』の台に向かうケンの足取りには迷いが無い。明らかにこの台しか打っていないほどハマっている友人にサムは自分の事を棚に上げながら若干引いていた。

『魔導少女サヤ』の導入されている場所につくとそこには深夜放送から入ったであろう人達が鼻息を荒くしながら台を打ち続けていた。中にはもう金貨一枚ほどつぎ込んでいる人もいるが何故か幸せそうな顔をしている、ある意味異様な空間である。正直悪魔でも引くレベルかもしれない。

 サムはさほど気にしていなかったがどうやら一部の人から絶大な人気を得ていたようだ。結構席は埋まっていたが奇跡的に二台隣り合って空いている台があった。サムは台についている当たりのデータや出玉のグラフが見られる魔導具に触れ、今日のデータを見ていく。右の台はグラフが右肩下がりだが左の台はまぁまぁ出ているといったところだ。


「並んで打つならこの二台なんだが、正直右の台は今日全然出てないぜ? 俺は左の台なら打ってもいいが……」


「ん、全然出てないってこと? じゃあ俺の為にサヤちゃんが待っててくれたってことだね!」


 一体どういう理論で見ればそうなるのか……。サムはオタクに生まれ変わってしまった同僚を冷めた目で見ながら左の台に座る。


「いや~、サヤちゃんは最高だよ。この散歩演出とか特に! ほらサヤちゃんの親友にリードつけられている奴!」


「お、おう……」


 正直ドン引きだ。どうしてこんなになるまで放っておいてしまったのか……。そんな考えを頭の隅に追いやりサムは目の前の台に集中する。『魔導少女サヤ』、台としては面白いんだがいつからかこの世界に入ってきてしまった『萌え』という文化を全面的に押し出している点が気になる。一人で打つのは少し恥ずかしいためサムはまだほとんど打っていなかった。


 (この機会に楽しむとするか……)


 そう思いながら遊技を開始するのだった。




 ――よし、また当たった。今度は『サヤTIME』に入ったぞ、『サヤTIME』は踊り狂うサヤが常に画面に表示されているのをどうにかしてほしいが……でも、出始めるとやっぱり楽しいなこの台。プレミアム機能『神々の黄昏(ラグナロク)』もやりたいけど開店して数カ月誰もやってるの見たことないし本当についているのか。そんな事を考えながら数時間サムは『魔導少女サヤ』を楽しんだ。

 しかし、今ふと気になったことがある席に着いたとき聞こえていた『サヤちゃんが~サヤちゃんが可愛くて』とうっとおしいほど言っていた同僚の声が今は全く聞こえないのだ。そして右の席をおもむろに見てみると……。そこには台にもたれかかり真っ白に燃え尽きているケンの姿があった。台の上についている魔導具でデータを見ると右肩下がりだったグラフがさらに急降下している。


「ケーーーン!!」


 サムの叫びが騒がしいハデスの店内に聞こえた。筐体の中のサヤちゃんだけが優しい笑顔でケンを見ている気がした。




 ケンが燃え尽きてから一カ月、サムは一人でハデスに遊びに来ていた。サムはハデスの中でも回胴式魔導遊技機(スロット)を好んで打つ客だ。入店すると店の中を一通り見て回り、空いている台の中で自分が打ちたい台を打つというのがサムのお決まりのパターンだ。もちろん台のデータを見るのは欠かさない、あのデータを表示させているのは何かがあるそう思っている。ハデスにある回胴式魔導遊技機(スロット)の中には初心者向けの台、中級者向けの台等様々な台が設置されているが上級者向けの台はほとんど座られていない。その中でも誰も触らない台が存在する。


 その台の名は――超高速回胴式魔導遊技機(ハイスピードスロット)『ハリケーン』だ。


『ハリケーン』――最低でも目押しスキル上級が必須な台であり、オープンから四カ月経過した今でも打つ者がいない。何も知らない人が打っては店に苦情を入れるという台であった。その台の仕様は他の台と違いリールの回転が超高速である。さらには全てのリールに書いてある絵柄がほぼ似たような絵柄で構成されている。その回転スピードはすさまじく、ドラゴンの攻撃すら一撃も当たらず躱せる一流の暗殺者(アサシン)でも目押しスキルが無いと全く見えないほどである。他の台はアシスト機能が付いており、多少ずれたところで押しても勝手に揃ってくれるがこの台にはそれすら無い。動体視力に自信がある獣人がこの台を打ち何も見えず、数時間やったあとブチ切れて台を殴ったのはハデスの有名な話である。――まぁその獣人は台を叩き壊す様な力で殴り、それをオリハルコンの筐体に叩きつけたものだから腕が骨折したらしいが……。正直誰が何を考えてこんなのを作ったんだという機種だ。

 そして今日初めてサムは目撃する――『ハリケーン』でメダルを出している人を――。




 グランドオープンで目押しスキルを唯一獲得した人、岡崎清龍は毎日の様にハデスを訪れていた。打つのはもちろん『ダンジョンマスター』だ。オープンから二カ月間、清龍はこの台とスキルさえあれば負けることはないと考えていた。


「何故だッ! 何故勝てないッ!!」


 台の当たらなさ、メダルの増えなさに清龍は一度店の外へ出てぼやく。ここ二週間前まで打てば勝ち、魔導具に表示されているデータグラフは右肩上がり。そんな日が続いていたが、ここ二週間グラフは徐々に右下に下がるジグザグな線を描いている。こう連日続くと最初に勝てたのがまやかしだった様に思えてくる。


 頭を冷やし店に戻った清龍は店内を見回ることにした。そして清龍はあることに気付く。


 (出ている台は当たり前だがデータグラフが右肩上がりだ。それも大体がジグザグに上がって行っている。――まさか出来レースに近い物があるのか? その日によって勝てる機種、負ける機種が決まっているとか……)


 そんな考えをしながらウロウロしているとハデスには珍しく誰も座っていない筐体が並んでいる空間があることに気付いた。

 台には上級者向けと書かれているその台は『ハリケーン』というらしい。台の上についている魔導具を使い、説明を見ていると高速でリールが回転しますので動体視力の良い方でないとお勧め出来ませんと書いてある。そしてこの台の注意書きがもう一つ、この台では店員に揃えてくださいと頼むことが出来ないと書いてあった。

 その説明を見て清龍は考える。『目押し』スキルが無いと遊べない機種なのでは? と。そして試しに打ってみることにした。

 その台は『ハリケーン』の名前に相応しいほど超高速でリールが回転し見えずらくなっている。銀貨一枚が一六回転で終わってしまうほど清龍の初戦はあっけないものだった。だが、その十六回転で清龍は気づく。


 (先ほど一五枚の小役を示唆するような演出が出ていた……だが増えなかったということは俺がそれを取りこぼしたということ。つまり完璧に押せればこの台は勝てるのでは?)


 そして連日この台に張り付き『ハリケーン』の攻略を開始したのだ。連日この台を目を血走らせながら打つ清龍をハデスの常連たちは気味が悪いと遠巻きに見ているのだった。




 今サムの目の前では信じられないような事が起こっていた。誰も寄り付かないはずの『ハリケーン』でメダルを大量に出し、箱を積み上げている男がいたからだ。

 超高速で回るリールを『目押し:初級』しか持たないサムは捕らえることが出来ない。画面上に一五枚の払い出しを告げる演出が現れているが、揃えることは出来ないだろう。しかし、目の前にいる男は違った。よどみない動きでボタンを押し、リールを止め、次々に小役を獲得している。


 (一体彼は何者なんだ……)


 サムの頭の中はその一言で占められていた。『目押し:初級』がまったく通用しない台に座りメダルを出している男にサムは興味を持ち話しかけてみることにした。


「なぁ、兄さん。よくこんな台でメダルを大量に出せるな……。俺は目押しスキルを持っているがまったく見えないし、この台でメダル出してる人初めて見たぞ」


『ハリケーン』でメダルを大量に出している男――岡崎清龍はいきなり話しかけられたことに集中力を切らし、小役をこぼしてしまう。そして話しかけてきた男の方へ視線を動かす。うっとおしいと思いつつもこの台に興味を持つ人が現れたことに清龍は少し嬉しさを感じていた。


「最初は俺も出せなかったさ、そしてこうも思ったよ。何を考えて作ったんだよこれ、こんなクソ台は打てないってね。しかし、こうも思ったのさこの台にはアシスト機能が搭載されていない。でも逆に考えたら絵柄を外すアシストも無い。つまりは狙ったら『777』が必ず揃う様になってるんじゃないか? ってね」


 清龍はここ一カ月常連に気味悪がられるほどこの台を打ち込んできた、そして目押しスキルを鍛えまくったのだ。その結果『目押し:上級』を取得している。


「そして俺は目押しスキルを鍛えまくった。上級を取得したときわずかに絵柄が見えるようになり試してみた所、俺の理論は間違いだったと気付き『777』は揃えられなかったが、表示されている小役は揃えられるようになり勝てるようになったんだ」


 そう、『ハリケーン』のコイン持ちはスキル無しの人が打つのと目押しスキルを持った人が打つので倍近く変わるのだ。銀貨一枚で一六回転しか回らない所、清龍は平均三十回転回せている。その言葉を聞きサムは目を輝かせた。


「つまり目押しスキルが上がれば上がるほどこの台は確実に出るってことか!!」


 サムはここに自分も目押しスキルを極め『ハリケーン』で彼見たくメダルを出そうと心に決めた。


「兄さんありがとよ! 俺も目押しスキル極めるわ!」


 そう言い残して清龍の元から離れていく。


「お、おい! いくら目押しスキルをあげても必ず勝てるわけじゃねーんだぞ!」


 サムはその言葉を聞かずに去って行ったのであった。


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