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異世界のパチンコ店は一味違うようです  作者: ふぃず
大陸出店編
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第二話 グランドオープン

ちょっと長くなってしまいました。

ストックが尽きるまでは毎日更新予定です

 王都エルランジのカジノ区画、その一角に一際大きい建物が建設されようとしていた。この世界初の魔導遊技機と呼ばれる筐体を用いたお店だ。

 カジノ区画にありながらカジノの中には建設されていない――。なぜならこの中で遊べるのはギャンブルでは無い、遊技(ゲーム)なのだ。


 建設中の建物の中オーナーと一人の男が話し合っていた。


「で、質問はあるかな?」


「大体は分かった。しっかしなぁ俺見たいな冒険者をここの店長に雇いたいなんて物好きだねぇ」


 目の前の冒険者はオーナーに向かい言う。


「カジノみたいな場所は揉め事も多いからね、君ぐらいの冒険者じゃないと勤まらないだろう」


 仮面を被った謎の男――この店のオーナーは冒険者の男に対してそう返した。


「君がやってくれるなら給料ははずもうじゃないか! 一月金貨十枚出そう」


 目の前のオーナーが言う言葉に冒険者の男は目を丸くする。金貨十枚――破格の賃金だ。給料の目安だと城の門番で金貨一枚と銀貨五十枚程度、近衛騎士や宮廷魔術師でも金貨五枚はいかないだろう。


「正気か?」


 男が聞き返したのも無理はないだろう、正直信じられないような給料だ。


「私は金も名声ももう飽きた。異世界より召喚されてもうだいぶ時がたつ。私の世界にも似たような店があってね、暇を見つけては通っていたものさ。そういう店をこちらで作りたく、またその店長に見合う人材は君しかいなかった。それだけさ」


 オーナーはそれだけ話すと口を閉ざす。仮面越しで表情は窺えないが自分に期待してくれていることは男もわかった。


「よし、俺で良ければ引き受けようじゃないか!」


 こうして冒険者の男――アルゼリオ=サミックは王都エルランジに出来る世界初の魔導遊技機専門店『ハデス』の店長を任されることになった。




 建設中の魔導遊技機専門店『ハデス』の事務所の中、二人の女性――東大陸の出身であり大陸の中でも若く優秀な魔法使い北泉瑞穂(きたいずみみずほ)副店長と元暗殺者(アサシン)のエマ=クラート主任は店長から研修を受けていた。店舗の管理職として先に仕組みを理解してもらい、後に入ってくる大勢の社員に説明等を手伝ってもらうためだ。


 何故魔法使いや元暗殺者がこの店に勤めることになったのか。それはやはり店長と同じく給料が良いということもあったのだが……この店はいろいろな人や獣人、または魔人も訪れるかもしれないとのことで腕の立つ者を雇うことにしている。ギルドの方にも社員募集を受付して貰ってはいるが最低条件が冒険者だとBランク。これはパーティなら下級竜を倒せる実力を有していることの証明である。そんなハデスだからこそ管理職は特別にも腕の立つ者を引き入れたのだ。


 研修を初めて二時間後、大体の説明を終えたアルゼリオ店長が一息つくと二人の女性に話しかける。


「他の社員にこれから行ってもらう研修の説明や業務の大まかな流れを説明したが質問等あるか?」


「はい! この魔導遊技機に関してなんですが、この材質がちょっと気になるんですが……なんですか? このオリハルコンって」


 黒く長い髪を後ろで纏めた女性、北泉瑞穂が元気よく問いかける。どうやら典型的魔法使いらしくいろいろ気になるようだ。


「オリハルコンというのは魔法抵抗や物理耐性が強い材質だよ。別名『幻の金属』とも呼ばれているね」


 昔冒険者向けの教本に書いてあった事を思い返しながらアルゼリオはそう返した。


「そんなことはわかっています! なんでこんな貴重な金属がこの筐体に使われていて、しかもその筐体が千台以上も設置される予定なのかってことです!」


 アルゼリオの説明を馬鹿にされたように感じたのか瑞穂は怒りながら言った。


「そこは……詮索するな……」


 遠い目をしながら返事をしたアルゼリオを見て、店長と同じようにオーナーに連れて来られたエマは店長も苦労してるんだなと思ったのだった。




 瞬く間に月日が過ぎ、魔導遊技機専門店『ハデス』の建物が完成。グランドオープンの日を迎えた。

 カジノやギルドを中心に様々な所で宣伝をしていたこともありカジノ区画の人混みは凄いことになっている。朝早くから店員も客の整列やトラブルの対応に走り回っていた。

『ハデス』の営業時間は朝九時から夜の十一時までと決められている、だが我先に話題の店で遊ぼうと朝早くから、昨日、早い客だと一週間前からテントを張っている人もいた。


 そして――いよいよ開店である。


「いらっしゃいませ!! 魔導遊技機専門店『ハデス』へようこそ!!」


 店員が大きな声を出し、客を出迎えている。


「魔導遊技機の遊び方についてですか? まもなく台の遊び方についての説明が始まりますので遊びたい台の席についてお待ちください」


「まだ台で遊ばないでくださいね~。全員が席に着きましたら店長より説明がありますので」


 全員が魔導遊技機で遊ぶのは初めての為、遊び方が分からない。そのため、店長の開店の挨拶が終わった後、筐体の上についている大当たり回数や出玉のグラフが表示されているモニターを切り替えて機種の遊び方を映像で流せるようにしてあるのだ。勿論これも貴重な魔導具ではあるが全台に設置されていた。


 客が全員席に着いた所で店長の話が始まる。


「皆様、今日は『ハデス』にご来店いただきまことにありがとうございます。私が店長のアルゼリオと申します」


 名前を聞いた瞬間、客の中にどよめきが起こる。どうやら冒険者として活動していたアルゼリオを知っている人が中に結構いたようだ。


「魔導遊技機で遊ぶのは初めてのことだと思いますので、遊び方をこの後筐体の上についてあるモニターで流します。それを見てもわからないようでしたらお近くの店員をおよびください。また、当店からの規約――お願いがございますのでこちらで一回読み上げさせていただきます。モニターにも表示されていますので必ず守るようにお願いいたします」


 そう、どんな場所にも約束事があるのだ。『ハデス』の場合規約は以下の通りだ。


 一つ、店内での魔法の使用は禁止

 二つ、台への攻撃または台に直接作用するスキルの使用禁止

 三つ、従魔は店内で出さないでください

 四つ、予想外のトラブル、天災での保障は致しかねます

 五つ、泥酔客はお断りさせていただきます

 六つ、お客様は、種族、貧富に関わらず平等です

 七つ、店内のお客様同士による抗争はご遠慮ください


「また、これを破るお客様につきましては店員一同実力行使に出る場合がありますのでよろしくお願い致します。では、お時間となりましたので皆様お楽しみください。『ハデス』グランドオープンです!」




「店員さーん! 映像見てもわからないや、説明して~!」

「当たったけど難しくて揃えられないぞこれ!」

「このメダル貸出機金貨は入らないのか! 両替してくれ!」

「おい! 今スライムの断末魔が聞こえなかったか!?」

「店員さーん! 俺と付き合ってくれ!」


 矢継ぎに客から来る質問に店員達は大慌てだ。


「はい! ただいま伺います~」

「こちらで揃えさせていただきますね!」

「両替はカウンターの方で承ります~」

「スライムの断末魔は『デル☆スラ』の大当たり演出の一つです! おめでとうございます~! 気になった方は是非遊んでみてください~」

「私の好みはイケメンで~す!」


 店員たちも研修の結果か迅速に対応している。店員や客を見回りしていたアルゼリオも満足していた、約一名はっちゃけてる店員もいるが及第点だろう。一頻り見て回った後ホールをエマ主任に任せるとアルゼリオは事務所へ戻っていった。これから起こると思われる問題に待機するためである。




 レバーを叩いてリールをボタンで止める回胴式魔導遊技機(スロット)で遊んでいた頭の切れる魔法使いの客は考える。

 これは確率によって大当たりが決まっているのではないだろうか。この台を鑑定して解析すればいろいろと情報が出てきそうだな、と。

 そして規約の説明をされたのにもかかわらず暴挙に及んだ。


 ――『鑑定』スキルを使用したのだ。


 鑑定結果――オリハルコン製回胴式魔導遊技機、不明、不明、不明。


 (なんだこの鑑定結果は!! しかもオリハルコン製だと――)


 そう思うより早く台からけたたましく音が鳴り響く。


『ピーピーピー、スキル『鑑定』ノ使用ヲ確認。台ガ鑑定サレテイマス。ピーピーピー、台ガ鑑定サレテイマス』


 いったい何がどうなって――。

 突然のことに思考が纏まらずパニックに陥っていると魔法使いの背後から腕が伸び頭をがっしりと掴まれた。


「お客さん、さっき俺全体に向けて言いましたよね? 台に直接作用するスキルの使用禁止だって、ちょっと事務所まで来てもらいますよ」


 アルゼリオは魔法使いの頭を持ち引きずるように事務所へ連れて行ったのだった。




 普段カジノ区画の警備をしているサムは非番でハデスへ遊びに来ていた。カジノには昔からお金が貯まるたびに通っていたがレートが高くてなかなか手が出ない。その時、噂でここにカジノに似てレートも低いお店が出来ると聞き開店の前の日仕事が終わると直ぐに寝袋を持ち込み並んだのだ。

 そして、台の遊び方を見て『デル☆スラ』を打っていた。カジノのスロットマシンはレバーを叩くと勝手に止まりそれを見ているだけだがこれは違う。自分の押した場所、成立していた小役により止まる場所が変わり面白い。さらに演出だ。これはシンプルに台の左下にあるスライムランプが光ったら『777』をそろえられる機種だが、いろいろと当たり方が隠されているらしい――と、その時だった。


 ――ピギャアアアアアアアアアアアアア!!


 いきなりスライムの断末魔が目の前から響き渡る。周りで同じ台を打っていた客たちも突然の出来事にこちらを見ながら驚いている。無理もない、ここで一番驚いたのはサムなのだから。

 他の客が、スライムの断末魔が聞こえたんだけど! と話している声が聞こえてくる。それに対し店員のお姉さんが大当たりの演出の一つですと返答しているのを聞き、ようやくまともに思考が動き始める。


 ――なるほど、こういうのもあるのか。


 自分で納得をするとサムは再び打ち始める。凝っていて面白いな。サムが思ったのはそんな感想だった。その後サムは断末魔に続き筐体についているでかいスライムの人形の口から舌が飛び出してきて叫び声をあげることになる――。




 東大陸の出身であるAランクの冒険者、岡崎清龍(おかざきせいりゅう)は無類のギャンブルや遊び好きだ。例に漏れず新しい遊びである回胴式魔導遊技機(スロット)を試しにハデスへ訪れていた。

 この世界の冒険者のランクは初心者であるFから始まり一流の証であるA、そして勇者や英雄と言われるS、そして今までに三人しかいないと言われている伝説のSSランクがある。冒険者のランクは昇格試験や偉業を成し遂げることにより認定される。そしてハデスで信じられない人を目撃してしまう。


 (さっき挨拶したハデスの店長アルゼリオ――なんでSSランクの冒険者、英雄アルゼリオがこの店の店長をやってるんだ!?)


 アルゼリオを見た瞬間、清龍は動揺と共にこの店に今日来て良かったと考えていた。アルゼリオ――それは清龍のあこがれの冒険者だった。


 そして、アルゼリオが去ると気を取り直して筐体に向かい説明を聞く。清龍が座ったのは中級者向けの『ダンジョンマスター』という台だ。

 説明を聞くとこの台は『デル☆スラ』みたいに当たると数百枚のメダルがドカッと出る台ではなく、当たった瞬間一人ダンジョン攻略の挑戦者キャラクターが選ばれてそのキャラクターがダンジョンを攻略していきその過程でどんどんメダルが増える仕組みらしい。


 清龍はしばらくこの台で楽しんでいた。通常モードや当たっている時のダンジョン攻略モードを繰り返す。そして清龍は気付く。映像の中の冒険者が敵を倒したり宝箱を入手するとランクが上がりコインが増えるのは説明で聞いたが、リールのある部分を狙いその部分が止まると映像の中の冒険者が攻撃しランクが上がりやすいということに。


 (これは、ここを狙うのが良いということか?)


 そう、清龍が気付いたのは説明の部分であえて省かれた部分――そう目押しである。そしてある程度の時間打っていると自分のスキルに新しく『目押し:初級』が追加され発動していることに気付いた。

 清龍は新たにスキルを取得した事と、それと共にスキルが発動していることに焦る。それは先ほど魔法使い風の男が台に向かって『鑑定』のスキルを使い、アルゼリオ店長に連れて行かれたからだ。

 だが、冷静に考えてみると何かがおかしい。スキルが発動しているのにも関わらず何故か自分の台からは警告音もしないし、店長も現れない。規約を改めて見ると『台に直接作用するスキルの使用禁止』と書かれていた。『目押し』は許容範囲らしい。つまり自己作用のスキルは良いということだろう。それにこのスキル、明らかに取得したのがこの台のせいだし回胴式魔導遊技機(スロット)以外には役に立ちそうもない。

 周りの同じ機種を打つ台を見渡す。見る限りでは自分の他にスキルを取得した客はいないようだ。清龍は内心ほくそ笑みながら『ダンジョンマスター』を打ち続けるのであった。


 数時間後――ハデスの外に清龍は居た。


 (銀貨三枚使って、金貨一枚か。周りの客はあいつ運良すぎだろ! とか言ってたけどこれは実力だな)


 ――しかし、これは美味しい仕事だな。怪我の危険もないししばらくここで過ごしてみるか。


 こうして異世界初のスロプロが誕生したのである。彼はその後冒険者を引退し、ある仮面を被った人物に依頼され本を作り回胴式魔導遊技機(スロット)の研究をしていく――カリスマライター『龍』と呼ばれるようになるのであった。




 清龍が店を去るのと同時刻、ハデスも閉店の時間を迎えようとしていた。店内ではメダルを魔導具により魔法紙に記してもらう客であふれている。


「店員さんこれもってどこへ行けばいいんだ?」


「奥のカウンターで景品と交換できますのでどうぞ~」


 そう言ってくる客に対し、店員は返答する。カウンターの方でも客が混み合っている。


「う~ん、この武器ほしいんだがメダルがたらねぇなぁ」

「おいおい! 店長のサインがあるぜ」

「こっちには貴重な魔導具もあるぞ!」

「でも俺はこのぐらいのメダルじゃ交換できないしなぁ……」


 カウンター付近、いろいろな景品がおいてあるそこではそんな客の声であふれていた。


「銀塊や金塊との交換も受け付けておりますよ~」


 店員がそう呼びかけている。しかし、そんな物を貰ったって……そう考えている客がほとんどだ。


「そんなの貰ってどうするんだ? 俺は加工できないしさぁ」


 そんな客のぼやきに店員は返答する。


「これは独り言なんですが、ハデスの近くに銀塊や金塊を欲しがっている変わりものの道具屋があったような~。後、銀塊や金塊はそのまま持ってきていただければメダルと交換もできますよ。うちで渡す特別な奴じゃなきゃダメですけどね」


 それを聞き銀塊や金塊と交換する人も増えてきた。大体の人がそっちに交換するようである。

 外へ出ると併設されてある道具屋に向かって長蛇の列が出来ている。道具屋には偏屈の婆さんが居てどうやらここでメダルと交換した特殊な銀塊や金塊だけ買い取っているようだ。




 客も居なくなり店員も大体帰った事務所で店長であるアルゼリオはようやく一息ついた。やたら魔法やスキルを試す奴が多く事務所でお話しという名の制裁を加えていたからである。


「これじゃ月に金貨十枚貰っても割にあわねぇぞ……」


 静まり返った事務所でアルゼリオの呟きだけが聞こえていた。


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