第一話 ビギナーズラック
カジノ区画に入るための門の前で警備をしている男が同僚の男に向かってぼやいていた。
「あ~あ、早く終業の時間こねーかなぁ。俺も早く行ってみてぇよ、凄い面白いって話だぜ?」
その言葉に対し、同僚は返す。
「もう直ぐ交代の時間だろ、それまで待てよ。――でもそんなに面白いのか? その、何だ魔導遊技機専門店『ハデス』だっけ?」
その言葉はヤブヘビであった。そう、何かに夢中になっている人には夢中になっている物の話題を出してはいけない。話が止まらなくなる――これは万国共通の暗黙の了解だ。
「いや、お前も一回やってみろよ! 面白さが分かるからさ。カジノには無いあの音と光のコラボレーション! そして筐体の下からメダルが溢れてきた時の興奮! めっちゃ面白いんだぜ! カジノにあるポーカーやルーレットなんて魔導遊技機の面白さを知ったらやらなくなるさ」
「ふ~ん、そんなに面白いのか。でもカジノにも同じようなのあっただろ回胴機、あれとは違うのか?」
確かにカジノには似たような回胴機と呼ばれるスロットマシンが存在する。だが、あれとは似て非なるものなのだ。
「あれはだな、レバーを倒して何かが勝手に揃うのを見ているだけだ。でも魔導遊技機は違うぜ音や光の演出、そして回胴式魔導遊技機は目押しという技術が必要になっているんだよ。スキルを使える奴と使えない奴じゃ差が出るわけだ」
その言葉に対し同僚の男は訝しむ。
「それじゃスキルの練度によって差が出るじゃないか! 詐欺だろ」
「いやいや、詐欺じゃないんだよこれが。なんたって魔導遊技機は『ギャンブル』じゃなく『遊技』だからな! 俺も早くスキルの練度あげたいぜ」
少ししか納得してはいないが同僚の男は反論を辞めた。百聞は一見にしかず――だな。帰り少し寄ってみるか――。
こうしてまた一人、魔導遊技機専門店『ハデス』を訪れる。
夕刻――大陸南の要塞都市、王都エルランジのカジノ区画にある魔導遊技機専門店『ハデス』に門番の男サムとその同僚であるケンは訪れていた。ケンは仕事の後少し寄ってみようかなと思っていたが、サムに誘われたので初心者一人で入るのは不安という思いもあり一緒についてきたのだ。
カジノ区画の中一際大きく作られた魔導遊技機専門店『ハデス』。周りの土地は馬車を停めるスペースなのか広く拓かれている。馬車の他にはグリフォンやドラゴン等が佇んでいるがきちんと躾けておいてほしいものである。それとハデスに併設されるように道具屋が設置されているのがなんとも不思議なことだ。
建物の中には賑やかな音が鳴り響いている。既に多くの客が既に遊技しており、メダルや玉を積んでいる人もいた。レバーを叩いている人、水晶玉に手を翳している人その二種類の人がここで遊んでいる人である。複数のゲームがあるカジノとはまた違った雰囲気だ。異様と言ってもいいかもしれない。
サムの後をずっとくっついて歩いていたケンであったが歩き回るのにも飽きたのか話しかける。
「なぁ、サム俺は初めてなんだが初心者でも出来る機種はどれなんだ? 出来れば水晶玉に手を翳している奴じゃなくレバーを叩くやつをやりたいんだが」
「う~ん、俺は余り打たないけど初心者にわかりやすいのはカジノのスロットマシンと似ている『デル☆スラ』がお勧めかな。筐体――このゲーム台の左下にあるスライムランプが光ったら『777』と揃えればいいんだ、簡単だろう? 光るとき、いろいろなアクションがあるしシンプルだから流行っているな。俺も最初に打ったときスライムの叫び声と共に光った時は吃驚したぜ」
そう語るサムの顔はいつもより輝いて見えた。よっぽど魔導遊技機が好きなんだろうとケンは思う。
「で――座ったわけだが、どうやれば遊べるんだ?」
「まずはゲーム台の右に設置されているメダル貸出機に銀貨を一枚入れるんだ。そのメダルを三枚入れると遊べるぞ」
なるほど、とケンは思い懐から財布を取り出し銀貨を一枚入れる。そして出てくるメダル――五十枚。ん? 三枚で遊べて五十枚……。
「おい、サム。遊ぶのにこの額は高くないか? 俺たちの給料は月に金貨一枚と銀貨五十枚だぞ」
ちなみに金貨一枚は銀貨百枚と同じで銀貨一枚が銅貨百枚価値だ。その辺の店で飯を食べるのが昼だと大体銅貨三十枚。うん、高い。
「いや、カジノはもっと高いしこんなもんじゃないか?」
サムに話を聞くとカジノだと最低金貨一枚からしか遊べない物もあるらしい。そう聞くとカジノ区画にある店としてはちょっと安く遊べるのかなと思う。考えていても遊べないのでとりあえず出てきたメダルを全部筐体にいれた。
「メダルを入れたんだがその後はどうすればいいんだ? レバーを叩けばいいのか?」
「だな。今回は俺も隣でやるわ」
そういうとサムは隣の席に座り慣れた手つきでメダルを入れていく。なるほど、縁に押し当ててメダルを入れることでスムーズにメダルを入れられるのか。ケンは見よう見まねで遊技していく。
メダルを入れ、ボタンを押し、レバーを叩き、回胴の前についているボタンでリールを止める。するとどうだろう狙ってもいないのに勝手に絵柄がそろうことがある。そしてその都度メダルが数枚戻ってきたり、もう一回回せるのだ。
「時々絵柄がそろうことがあるんだがこれはなんだ、当たりなのか? この黄色いスライムが揃うと数枚メダルがでたり、青いスライムが揃うともう一度回せたりするぞ」
「違う違う、それは小役と言ってだな。まぁ長く遊べるように少しメダルが戻ってくるって覚えておけばいい『デル☆スラ』以外だといろいろ小役によっていろんな演出が起きたりするけどな。例えば……あそこだ」
サムが指で示した方に視線を向けると一人の若者が狂喜乱舞している。
「あれは『ダンジョンマスター』って台でな、『デル☆スラ』みたいに大当たりを引くと一気に枚数がでる台じゃないんだが……」
『ダンジョンマスター』サムの話を聞くとその台は当たると一人ダンジョン攻略の挑戦者キャラクターが選ばれそのキャラクターがダンジョンを攻略していきその過程でどんどんメダルが増える仕組みらしい。そして途中小役によって様々な演出が出てくるのだが……どうやら確率の低い小役を引いたらしくキャラクターが異世界の勇者に変わったらしい。でる確率が低い代わりにその恩恵は凄くメダルが大量に獲得できることがあるとか。
「まぁそういう機種もあるってわけだ。これには関係ないけどな」
この店で遊べる台は大まかに分けて二種類だったがその中でもいろいろな機種があるらしくそれが人気の秘訣らしかった。そんなことを考えているとケンの台から絶叫が響き渡る。
――ピギャアアアアアアアアアアアアア!!
ケンはビクッと体を震わせた、スライムの断末魔が台から聞こえてきたのだ。そして台の左下のスライムランプが赤く光っている。
「お、当たったじゃん! おめでとう」
サムから声がかかるが未だ絶叫の声に吃驚した思考が戻っていなかった。ケンは落ち着くと『777』を狙いに行く、一度は失敗してしまったが二度目はきちんと揃えられメダルがかなりの枚数出てきた。
「結構出るんだな」
銀貨七枚をメダル貸出機にいれるのと同等のメダルが出てくる。
「まぁな、それぐらいないと次当たるまで遊べないだろ?」
その後、酒場が賑わい始める時間まで二人は打ち続けたのだった。
「さて、そろそろ良い時間だし帰ろうぜ」
ケンはサムに話しかける。
「え~……お前はたくさん出たから良いかもしれないけどさぁ。まぁ仕方ないか」
ケンの後ろにはメダルの入った箱が積まれている、対するサムは最初銀貨を十枚ぐらい入れたが台についている下皿部分半分もメダルを持っていなかった。
そしてサムが通路に置かれている魔導具の前に行くと店員を呼び寄せてメダルの枚数を計算してもらう。それを真似てケンもメダルの枚数を計算してもらった。
――サム二百五十枚、ケン二千枚。
そう記された魔法紙を貰うと二人は店の奥へ向かった。店の奥は雑貨屋みたいな雰囲気になっており、様々な魔導具や武器防具、素材になるアイテム、日用品や嗜好品が置いてあった。サムはそこを通り過ぎ店員のいるカウンターに行き、魔法紙を店員に渡す。すると銀塊を渡された。ケンもそれに習い魔法紙を店員に渡し銀塊と交換する。サムより多くの銀塊が手元に渡された。
「それでこれをどうするんだ? これを持っていると今度来たときにメダルと交換してもらえるのか?」
そうケンが言うと、まぁ着いてこいよと店から出ていくサム。そして向かった先は併設された道具屋であった。
「この道具屋が何故か銀塊を買ってくれるんだわ」
そういうと道具屋の婆さんに銀塊を渡し銀貨数枚を受け取るサム、同じく銀塊を渡すと返ってきたのは銀貨四十枚という大金だった。
「――こんなに!?」
月の給料の三分の一の額を受け取ったケンは驚く。
「凄いよな。まぁ銀塊をメダルに変えてもらうことも出来るんだがさ、鑑定スキル持ちの店員があくのを待たなきゃならないしな。何故か外には買ってくれる道具屋があるしそっちで貨幣にした方が良いだろ?」
その言葉にケンは頷く。
「今日はいろいろ教えてもらったし飲み代ぐらい奢るよ」
「マジで!?」
「今度は違う台が打ってみたいな、あのダンジョン攻略していくやつとか」
「じゃあまた俺が教えてやるよ」
そう言うと二人は飲み屋街の方へ歩き出す。魔導遊技機専門店ハデス――ちょっと面白いな。そう思いながら――。
思いつきで書いてしまった……大丈夫かなこれ……