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凡人伝  作者: 峠 展望
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1-2

 脅威は突然やってきた。北の集落からは人が消え、南の森からは木々が消え、東の城からは刃物が飛び交い、西の山からは火の粉が襲った。やがて魔物がどこからともなく現れ、中央の町を食い荒らした。

 凡人たちはただただ英雄を待ち、英雄たちは凡人としてただ運命の時を待っていた。やがて大帝国は堕ち、かつて英雄と呼ばれた者たちがみな凡人となったころ、若き戦士が運命の時を告げに二人の英雄の元にたどり着く。(『セントルド神話 英雄伝第一章』より)



 かつて襲ってきた脅威の親玉は魔王ロネイレという。しかし、英雄伝において魔王や魔王軍という言葉での表現は少なく、基本的に脅威という言葉で表わされている。これは山そのものが化け物であったり、自らが放った矢が突然意識を持ったように襲ってくるなど、英雄伝に登場する脅威はほかの伝承と比べても異常な存在であったがための表記である。

 英雄伝の脅威はあまりにも異常であるため、おとぎ話の世界のものであった魔術の存在が明らかになった現在でも、脅威の存在自体は否定的な学者の方が多い。

 しかし、今目の前に居るホッポルン、いや世界でもトップクラスの権威をもつ学者はあろうことか脅威の存在の肯定どころか再来を宣言してきた。

「まあ、それが普通の反応だろうな」

 はっとして声のした方向をみるとネフ隊長が閉じていた目を開けこちらに視線を向けた。

「だが高名なロジュム先生が根拠もなしに言うと思うかい?」

 ネフ隊長の視線は鋭く、少々混乱した俺にはまともに声を出して答えられる気がせず、できることは軽く首を振るくらいであった。

「実は数ヶ月前からセントルドで妙な生物が現れたという報告があって、それがどうも神話に出てくる化け物と特徴が似ているものだから部下にセントルドの事情を探らせていた。すると二週間前にとんでもない報告が来た」

 ネフ隊長は鋭い視線を向けたまま微動だにせず続ける。

「セントルド北方のウーロ村の村人が跡形もなく消え去った。調査に行ったセントルド兵も帰ってこないそうだ。英雄伝の脅威の一つにそっくりだと思わないかい?」

「まあ私としてもこれが勘違いと思いたいところですが、神話にある術が実在した以上、脅威の存在を全く否定する理由がありません。なればエーテの遺したこの杖の力をいち早く解明して脅威に立ち向かう準備をする必要があるのです」

 ロジュム先生は諭すように続ける。

「まあ信じられるものではないでしょう。とはいえ事情くらいは呑み込めましたか」

「……一応は理解いたしました。とは言っても知恵の樹の調査自体あまり進んでいないのでガイドぐらいしかお役に立てないかと」

 正直言ってまだ納得いかない部分はあったが、俺の手に余る内容であることはあからさまであった。しかし、ロジュム先生は眉間をしかめ、ネフ隊長は再び目を閉じ、代わりに先ほどまで沈黙していたニックさんが顔を上げてこたえる。

「ごめんねラモン君。ガイドとかじゃなくて君一人で知恵の樹に行って調査してもらいたいって話なんだ」

「一人でって護衛も?」

「ごめんね。お偉いさん誰も信じてくれなくてエーテの杖の持ち出しの許可が出なかったんだ。だから極秘でやらないといけないんだけど僕らは名が売れちゃってるからさ・・・・・・」

 申し訳なさそうにするニックさんを見てただ茫然としてしまった。

「こちらも護衛くらいはつけてやりたかった。軍の上層部も大臣どもも頭が固い。信じない上に兵を送って無駄にセントルドを刺激するなと今後の調査すら禁止された。情けないことに私も国内に敵が多い。目をつけられた以上兵を護衛に回すことすらできない」

「護衛が付けられず極秘である以上、多少たりとも知識があって多少たりとも武術に心得があって無名の君が適任なのですよ」

 ロジュム先生は相変わらず穏やかな口調であるのに妙に強い圧力を感じる。

「リ、リスクが高すぎるのでは? 私なんかが神具を預かるなんて・・・・・・」

「エーテの杖は一見ただの杖。紛失したとしてもその本質がわかる人にしか価値は感じられませんので最終的にはふさわしい人の手に渡ります。破損したなら、それはもう神具としての力がない、あるいは神具ですらないものを祭っていただけの話。それが実験結果です。それに君にはもう断る権利は有りませんよ。秘密を知った以上申し訳ありませんがしばらく監禁させてもらうことになります」

 俺は翌日、ネフ隊長から護身具やら食料やら入ったカバンを受け取り、布を幾重にも巻かれた杖を持ち、セントルドへ向かう船に乗ることになった。


 ホッポルン王国があるホッポルン大陸は世界の北にある大陸で、セントルド大陸はその南で西のウェステリー大陸と東のトウナ大陸に挟まれた位置にある地図上では中央の巨大な大陸だ。知恵の樹はその中央の大陸の更に中央のガラド山の頂上にある。

 知恵の樹までの道のりは快晴続きの平穏なものであった。セントルドは大陸全土を領地としているが実質セントルド城のある都を中心とした西部しか統治できておらず。ホッポルンと戦争が絶えないといっても東部を回っていけば敵国としての危険性は皆無に等しい。

 セントルド北東の港から馬車で二日ほど南下し、馬を借りて一日と半日かけガラド山まで向かう。山の麓に着いたら宿を取り、そこから半日かけて山の頂上へ登っていくというかなりの長旅であったが、脅威の前兆と思われる化け物どころか野盗すら現れることはなかった。

 知恵の樹は世界一の大樹であり古木であるとして神話も数多くある有名な樹で、御神樹としてあがめられる存在でもある。しかし苦労をかけて登ったところでその巨大すぎる大樹はただの巨大な樹の壁にしか見えず、目の前にすると神聖さのかけらもないためか巡礼者もよほど神にすがりたい者くらいだ。名所には必ずと言っていいほど住み着いている野盗ももしかしたらここには住み着いていないのかもしれない。

 神具が絡んだ極秘任務というだけで警戒することもなかったなどと考えつつ巨大な樹の壁を前に荷物を下ろし、周囲を見渡す。ぼろ布を身にまとった少年が祈りをささげているがそれ以外に人は見当たらない。

 少年一人に警戒する必要はないとは思うが念のため少年の死角となる場所まで数十メートル移動してから実験を行うことにする。ロジュム先生から受け取ったメモを開くと、材質の比較などの検証から様々な実験方法まで事細かにぎっしりと文字が埋められていた。しかも実験方法の半分以上が祈る、歌うなどの下らない実験で、中でもエーテの杖で知恵の樹を軽くたたくという子供が考えたような実験は一〇〇通り以上にもわたって記されている。

 神術研究の権威がこれじゃあ神術の証明など夢のまた夢だろうとこれから数日かけて奇行を行わないといけない恨みをロジュム先生にぶつけつつ、エーテの杖を取りだした。


 日が西に傾いてきたころ俺は簡単な検証と祈りを込めて歌うという奇行に近い実験を終わらせ、杖で樹を叩く実験のパターン二〇を行っていた。パターン二〇はホッポルンに伝わるエーテ賛歌を歌いながら叩くという内容で効果があるのか考えることも下らないものであった。

 一心不乱に知恵の樹を叩いていると何者かの声が聞こえてきた気がする。まさか成功か? いや、エーテではない。男の声だ。ならばヘイトンか? などと考えながら杖で叩き続けると突如腕を掴まれた。

「あんた何してるの?」

 振り向くと知恵の樹に祈りをささげていたぼろ布の少年が初めて酒を飲んだかのような表情でこちらを見ている。

「・・・・・・・・・・・・」

 見つかってしまった焦りと見られてしまった恥ずかしさが同時に襲いかかり口を動かしているのになぜか声が出てこない。

「これ、ヘイトンさんの知恵の樹だってわかってるよね?」

 少年は訝しげな顔を近づけて言葉をたたみかける。

「祈りを・・・・・・捧げて・・・・・・・・・・・・ました」

「叩いて祈り捧げる人がいる? ていうか歌ってたのもエーテの歌だったし」

「・・・・・・・・・・・・」

「何してたかは一旦置いておいてもヘイトンさんの知恵の樹叩いたらだめですよ。罰あたりだよ」

「・・・・・・はい」

 少年はそう言うと呆れた顔でため息をつく。

「それで本当に何してたの?」

「いや、それは・・・・・・言えない」

「言えないじゃなくて言ってほしいんだけど」

 執拗なまでの少年の尋問に俺は少し正気に戻ってきた気がする。

「坊主には関係のないことだよ」

「いや、気になるから聞いているんだけど」

「大人には大人の事情があるんだよ。大体坊主こそこんな時間にこんなところで一人で何をしているんだよ」

「こっちにも事情があるんだよ。変な音がすると思ってきてみたらこんな・・・・・・!」

 少年はそう言いかけて言葉を止めた。そして急に険しい顔になり目を少年の後方に移した。視線を追うと数十メートル先の草地に切り株があるだけで何も変わったところがない。

 しかし、何か違和感を感じる。こんなところに切り株があっただろうか。というよりこの山は一応聖地として扱われているはずだ。そうであるはずなのに切り株は奇麗な断面でおよそ腐敗や落雷で折れたものとは思えない。辺りを見渡す。人のいた気配はまるでしない。

「嘘だろ?」

 悪寒が走り、切り株を改めて見る。すると明らかに植えられているものではなく、切断面より上に伸びた根からは赤黒い何かが付着していた。少年を見る。何かがいることに気づいているようだが目をあちこちに向けている。

「後ろに下がってろ」

 深呼吸をしてから少年に小声で伝え、同時に少年の肩を掴んで強引に後方に飛ばし、近くに置いてあった護身用の槍に手を伸ばす。案の定切り株は根を不規則に動かしてこちらへ勢いよく向かってきた。

 切り株の化け物は一メートルもない小ぶりなサイズだが先のとがった根は二メートルは軽く超え、その内の五、六本をこちらに向けている。槍術は心得ていても何本も同時に使われれば俺にはさばき切ることができないし、ましてや兵士や武術家ではなくあくまで巡礼者が護身用に持ってきているとするためにと短槍を選んでおりリーチの差でも明らかに不利だ。

 エーテの杖を見る。力が目覚めてない今、神術に頼ることもできないただの木の棒だ。なにか力はないのか。せめて魔術の力さえあれば。

 そう思考して、ハッと視線を切り株に戻すと十メートルも離れていない位置にまできていた。俺はすかさず短槍を切り株に向かって投げつけた。槍は少し得意なだけあって切り株の元へ正確に飛んでいく。すると切り株は根の動きを止め少し後方へ戻る。

 短槍は切り株の数十センチ手前に突き刺さってしまう。さすがにこれで倒せるとは思っていない。俺はすかさず指先に意識を集中し宙に円を描く。そして四本の指先で矢印のような記号を円の中に描くと指先から光が生まれ赤い炎が浮かび上がった。

「おい、化け物。お前にこれを投げつけたらどうなるかわかるよな」

 俺はエーテの杖を構えたまま切り株に向かって大声で威圧する。すると切り株は言葉がわかったのか単純に火を恐れたのか早足で木々の中に逃げて行った。


 切り株がもう戻ってこないことを視認すると膝の力が抜け、その場に腰を下ろす。手元には先ほどまで赤く燃え盛っていた炎はなく、汗が滴っていた。

「あんた何者? さっきのは一体?」

 振り向くと先ほどまでの険しい顔とは変わってどこか少年らしい呆けた顔の少年がこちらを凝視していた。

「最近出始めたんだ、ああいう化け物。俺も見るのは初めてだったけどね」

「それもそうだけどさっき手から火を出したあんたも何者なの?」

 少年の質問の意図が一瞬わかりかねたがみすぼらしい洋装を見て合点がいった。

「火炎術・・・・・・いや、魔術を知らないのかい?」

「魔術っておとぎ話のものじゃないの?」

「一〇年前に再発見されたんだよ。それよりあんなの何度も相手したくないしさっさと山を降りるよ」

 そう言って重い腰を上げて荷物をまとめ始める。化け物に襲われた以上一旦体制を整える必要が出たが、同時にこの実験は早めに成功させないといけなくなった。はたしてどうしたものか。ひとまず武器はすぐに取り出せる用意が必要だろう。などと考えていると少年の視線が気になった。

「あんたってもしかして化け物対策で知恵の樹調べに来たの?」

 驚いて顔を上げると少年は真剣な眼差しをこちらに向けている。

「なぜそう思ったんだい?」

「巡礼者にしては行動がおかしいし、化け物対策ならここに来た理由も納得いくからね。兄さん魔術師みたいだし」

 子供にしては大した観察力だとは思うがたしかにあの奇行の理由としては一番納得のいく答えだろう。何をしていたのかもできれば隠しておきたいが、エーテの杖のことと身分さえばれなければよしとして少年に合わせることにしよう。

「よくわかったな。今はそんなに化け物が多くないけどこれからの対策を取れればと思って独自の調査に来たんだ。まあでもこの件は坊主と兄さんとの秘密にしてくれ。国軍でも研究者でもない旅の魔術師だから実はどこからも許可を取らずにやっているんだよ」

 すると少年はやや考え込んだ後たちまち笑顔に変わる。

「なら安心した。ヘイトンさんの知恵の樹の調査したいなら兄さん家に泊まりなよ。家ならここから数十分で着くよ」

「それはありがたい提案だけど良いのかい?」

「一応助けてもらったみたいだし、そのお礼だよ」

 化け物がまだ他にも居るかもわからない山道を半日も下ることを考えたらこの提案はぜひとも乗りたい話だ。しかし、任務の極秘性と重要性を考えるとはたして見知らぬ少年の言葉を簡単に信じていいものなのか。少し少年のことを探ってみるべきだろう。

「坊主。泊めてもらえるのはうれしいけどご両親は大丈夫なのか」

 しかし、少年は答えず後方をうかがっている。

「坊主、聞いているのか? おーい」

 少年はこちらを振り返りもしない。少し苛立った俺は少年の肩をつかむ。

「兄さん、それどころじゃないよ。・・・・・・あそこだ」

 少年の指した方向に視線を送ると切り株が二つ藪の奥に並んでいるのが見えた。やはりこの地には似合わない不自然な切り株だ。俺は少年に下がるよう合図し前に歩みいれた。

「おい、切り株の化け物。そんなに燃やされたいのか」

 片手に短槍を構え、切り株に脅しをかけると、どこからかバイオリンの音を外したような小気味悪い音が聞こえてくる。よく聞くと声のようだ。

「オウ、コブンガセワニナッタミタイダナ」

 そう聞こえたと思うと切り株は藪から出てきた。片方は先ほどの切り株のようで一メートルもない一見するとただの切り株だが、もう片方はそれよりも大きく不気味なことに口のような割れ目がある。どうやらこの声はこの切り株が発したものだろう。

「殺生は嫌いなんでな。言葉がわかるなら燃やされない内にどっかに失せろ」

 言葉を話せることに驚きは隠せないがやることは同じだ。もう一度警告した後再び俺は火炎術の紋を描く。

 しかし、口のある切り株はケタケタと笑い声のような音を立てて逃げ出す気配がない。

「ヤレルモノナラヤッテミロ」

「先ほども言ったが殺生はしない主義だ。そちらが危害を加えないなら手は出さん」

「オレハコロシスキダゼ。コイヨ」

「来るなら子分の身も保証できないぞ」

「イイカラコイヨ。ソレトモデキナイノカ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「ドウシタ? デキナイノカ? デキナインダロウ」

 俺は紋を描いていた腕を下ろし、槍を構える。

「ヤッパリデキナインダナ」

 大きな切り株はそう言うと子分をこちらに差し向けてくる。子分の切り株は再び不規則に根を動かしこちらに勢いよく向かってくる。俺は腰に差していたエーテの杖を引き抜き後ろ投げ捨てる。

「坊主、これを持って逃げろ。俺には止められるかわからん」

「兄さん知恵の樹は火で燃えたりしないよ」

 少年は俺を強い魔術師と信じ切っているのだろうその声には焦りがない。しかし、俺にできるのは火を発生させるだけで飛ばしたり操ることもできない見せかけだけの魔術だ。

「俺が魔術師だってのは嘘だ。ただのハッタリしかできない。槍は得意だから何とか食い止める。この杖は世界の希望になるかもしれないものだ。だからそれを守り抜いてくれ」

 そう叫んで切り株に向かって駆け出す。切り株との距離は数十メートル。大きな切り株は動く気配がなく少年に向かっていくことはないようである。

切り株との距離は残り十メートル。なれない魔術が原因か足がふらつく。それでももうこの距離かと思うと逃げ道を探すのは無駄かもしれない。槍を強く握りしめる。

 切り株との距離は二メートル。切り株は根を四本こちらに向けて伸ばしてきた。進行方向を右にずらす。

 切り株との距離は一.五メートル。根は目の前にきているが一歩踏み込めばこちらも間合いに入る。目の前の根を一本捌く。

 切り株との距離は一メートル。二本目の根を結うようにして切り株に突きつけるがわずかに届きそうもない。後方にあった左足をけり上げる。

 切り株との距離は数十センチ。槍の刃先が切り株に届く。しかし、左目に迫りくる三本目の根が映る。

 終わった。良くて相打ちだろう。やはり凡人は凡人であったのだろうか。左腹部に痛みが走る。槍の刃先が切り株から離れる。どうやら傷一つ与えられないようだ。体が地面に放り出される。あのエリートたちはこうなることを見越して末端の人間を送ったのだろう。英雄なら死に際でも少年の心配をするはずなのに浮かび上がるのが恨み事とはやはり俺は凡人なのだろう。近くで草を踏む音がする。きれいに死ねないなら凡人らしく恨み事一つ言って切り株に唾でもはきつけて死んでやる。

「ごめん、兄さん大丈夫か!?」

 顔を上げるとそこには切り株ではなく少年がいた。

「あれ? 坊主逃げたんじゃ・・・・・・それより化け物は?」

「怪我はないみただね。ちょっと待ってて」

 少年はそう言うと藪の方向へ駆けだした。化け物ほどではないがかなりの速度だ。先ほど自分がいた場所をみると根がすべて切断された切り株が真っ二つになっている。少年に目を戻すと切り株の目の前に迫っていた。

「キサマチョウシニノルナ!」

 切り株は金切り声をあげると少年を囲い込むように先のとがった何本もの根を差し向ける。少年は右方にとび跳ねたかと思えば切り株の真横にその姿はあり、その軌跡は切り株の根にはっきりと記されている。切り株は少年のいる右方に向きを変えようとする。しかし少年の右手は真横に線を描いており、切り株の本体と根が切り離される。そしてその右腕は休む間もなく真上に構え垂直に下ろされる。切り株はすでにただの木材へと姿を変えていた。


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