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プロローグ

異世界ものを書くのは初めてですが、読者の八割方がたのしめるような作品に仕上げていこうと思います。拙作ではありますが、どうか温かい目で見てやってください

 全人類に告ぐ。

 

 魔法は使いたくないだろうか? いや使いたいはずだ。

 一度は夢見る職業ナンバーワンの魔法使い。

 しかし、年を重ねるごとにその夢は幻想だったと気付き、諦め、最初から追ってなかった、考えてみれば馬鹿馬鹿しい、なんて理由をこじつけてしまう。 

 空に浮かぶ雲に乗りたい! なんて思っていても、少し賢くなれば科学的に無理だと証明され、サンタさんはいる! なんて思っても、少し大人になれば親から正体を発表される。魔法使いになりたい! なんて思ってもアニメは絵本の中での話、と聞かされる。……え? 本当に?



 ――ママ! 僕ね、大きくなったら魔法使いになるんだ!!

 ――あら、なんでそう思ったの?

 ――それはね! 魔法で困っている人を助けるんだ!

 ――本当はこんなこと言っちゃダメなんだけどね……”魔法”なんてのは、この世に存在しないのよ?

 ――え? でも絵本にはあるのに?

 


 子供ながらにして疑問を抱いた。 

 この質問に母は困ったような、嬉しいような顔をしていた。

 結局、母は答えを教えてくれず、この疑問は俺が中学生になるまで封をしたままだった。

 初めからないものを、何故、人は描いて物語として綴るのだろう。そして、本当はないハズなのに、こんなにもリアリティ溢れるんだろう。

 ――ここで、ロマンチストで粘着系な人間ならこう思う。


 本当はこの世界のどこかに、魔法が存在するんではないだろうか?


 どこか西洋で”魔女狩り”という慣わしみたいなものがあった。

 いきなり宙を浮き出したり、物を手を触れずに動かしたり、とまさに魔法のようなことをする人間を、禁忌な存在だと言い張り、大衆の面前で公開処刑をするという理不尽極まりないものだ。

 

 この情報を得たのは中学生の頃だった。 

 その時、少し頭が発達した俺は、

 

 「殺さずに研究や実験に協力してもらえば、さらに科学は進歩していただろうに……」


 ともったいなく思った。

 いや、今でも思っている。普通にもったいなくね? 馬鹿だろソイツら。


 しかし、「魔法を使える人が存在した」という正確なデータ、文献が残ってないので、本当に魔女もしくは魔法使いがいたかは迷宮入りだ。


 高校生になって改めて考え直すと、俺は一つの仮定を生み出すことができた。

 タイトル『魔法というものの危険性』

 

 なぜ公開処刑なんて人権もへったくれもないことをする必要があったのか?

 それは、魔法という別次元の力が強大すぎて、一般に流布することを恐れた。そして、魔女狩りを行うことによって、魔法が使える人(俺の中では有魔力者と呼んでいる)に自分の存在を戒めさせ、「処刑をするぞ」と脅迫し、魔法を自発的に使わないようにさせた。

 

 そうすることによって、有魔力者が有魔力者であることを隠すように生活し始める。

 自ずと、魔法という存在感が薄れていき、子孫は自分が魔法を使えることを知らされずに生きていくようになる。

 少し後付けがましいが説得力は、我ながらあると思う。

 

 前フリが長くなったが、ここからが本論。

 有魔力者の子孫が、魔法を使えることを知らされていなくても、突然自分の本来の力に目覚めてしまう可能性がある。


 仲間が窮地に立たされたとき、どうしても必要な物があるとき、本能的に第六感――すなわちシックスセンスが研ぎ澄まされ、魔法を発動してしまう。

 そんなケースも無くはなくない? だって、元々魔法使いなんだから。


 そんなわけで、世間一般では忌まれている”魔法”が使える事を隠しながら、実はコソっと使っていたりする人もいるかもしれない。

 その子孫が次々と受け継がれて、俺の生きている代まで残っているかもしれない。


 どうだろう?

 ここまで理論立てれば「魔法って本当に……」と思ってくれるだろうか?

 あくまで、俺は同意を求めていない。求めているのは魔法の存在の証明、だ。

 そのために俺は、ひたすら学力をつけた。


 中学校は市立に通ったが、高校からは受験難関校と呼ばれる県立学校に学力推薦で行き、修羅っていた三年間を経て、大学は国内最高峰レベルの物理学が学べる大学でキャンパスライフを過ごした。言っちゃ悪いが、エリート街道まっしぐらだったわけだ。前まではね。

 

 大学卒業後は、内定もらっていた大手企業を全部断った。もちろん、大学からクレームの嵐が起きたけど。

 そして、”魔法”という存在を究明するために、今は二十四時間体制の自宅警備員を勤めている。いらん意地を張ったが、ニートってやつだ。プー太郎とも言う。


 世間の評価が温かかった分、堕落によるシワ寄せはマジでパない。

 「あら〜いつも勉強頑張っているわね〜お利口さんだわ〜」とほざいていた近所のバアさんも、今じゃ「働かざるもの食うべからず、人はそれを寄生虫と呼ぶ」なんて言い出した。

 

 家族からも非難され、今では馬鹿だが野球を一所懸命頑張って、甲子園を目指している弟の方がちやほらされている。

 昔はクイズ番組が放送される度に俺を呼びつけて、難関問題とかを答えさせることに悦を感じていたのに……。


 過去の記憶(トラウマ)は放っといて。

 今は四六時中、ネットサーフィンをして、魔法に関する知識や情報を集めている。

 最近では、アニメの主人公が使う魔法の必殺技名を覚えるのに熱中しているが。

 

 蛇足だが、長時間のディスプレイの目視により、俺の視力は小数点第一位を切ってしまった。

 これも魔法で治せるはずだからノーマンタイだが。


 

 

 「おぉ! 今日はカレーか〜」

 「そうなの。和樹かずきの好物でも作ろうと思って」


 厨房で俺の分の夕食を配膳してくれているのは、家族の中で唯一の俺の理解者。実母の近藤こんどう 麻沙美まさみだ。もう四十代に入ったであろうのに、肌のツヤは衰えず、高い位置で結んだポニーテイルが似合う自慢の母親だ。世界恐慌で大暴落した株主なみの俺の堕落を、必死に止めようとしてくれた良い母さんだ。

 ……結果的に裏切ったけど。


 「あれ? 今日、親父と空太はいないの?」

 

 テーブルには、俺と母さんの分しか皿が並べられていない。

 いつもはみんな揃っているのに。


 「あっ、そうだった! お父さんは久々の残業で空太は来週に控えた大会に向けて合宿なの」

 「ふーん」


 変な心配をしてしまったよ。ただ都合が合わなかっただけっぽいな。ならいいや!

 それにしても、みんな頑張ってんな〜。俺だけか、こんな生活を送ってんのは。

 俺は、さすがに呆れているかもしれない母さんに尋ねた。


 「ねえ母さん。俺も就職して、一般的な生活を送った方が良かったかな?」

 

 俺の問いに対して、母さんは笑った。

 嘲笑うわけではなく、微笑んのだ。我が息子に対して。


 「和樹の思う一般的な生活って、たとえば?」

 「えっ……、それは……」


 質問を質問で返され、俺はすぐに受け返しができなかった。

 だいぶ錆びてきた脳をフル回転させて、俺は答える。


 「えっと……大手企業じゃなくてもいいし、適当な会社に勤めて給料貰って自立する生活かな」


 ふり絞って出した答えに母さんは「ふ〜ん」とウンチクを披露されたような声を上げた。

 じゃあさ……と母さんは切り出し、


 「もし会社に勤めることができたとします。でも、その会社で和樹の好きな仕事ができるのかな? 和樹は頭が良くて、何でも要領よくこなすから。社会的に役に立つ仕事をする会社に配属されるかもしれない。いや、むしろそっちの方が多いと思う。その仕事は社会で必要かもしれないけど、和樹にとって必要? 私は和樹がしたいことが仕事になればいいと思っているわ」


 夕食のカレーを食べながら、俺は泣きそうになった。

 母さんはまだ、俺のこと信じてくれていたし、信頼までしてくれていた。

 魔法について学びたい、なんて途方も暮れない事を口走って内定を蹴った俺を未だに……。

 

 母さんのこの言葉は、二人きりで食卓を囲んだからこそ、聞けた言葉だったかもしれない。

 いつもなら、空太が茶化す。

 二人共、忙しくてありがとう。そしてグッジョブ。

 俺は細身な体にはキツイが、久しぶりにカレーをおかわりした。母さんの手料理をまだ食べたい、という脳内信号が満腹中枢の刺激を抑えていた。


 「あら! 今日はよく食べるのね。もしかしてヤル気スイッチでも入った?」

 

 テレビで流れていた教育会社のCMの言葉を引用して、お母さんは言った。

 ちなみにそのスイッチなら、入っている。ここまで期待されたなら、やらねば!


 「うん! 俺、自分の好きなこと頑張るよ!! ……だからもうちょっと応援してください」


 目を据えて俺は母さんに言った。それに応えるように母さんは頷いた。

 頑張るよ! 俺。

 意を決して二階の自分の部屋に上がる時、突然母が話しかけた。


 「ねえ和樹。夢を追うこと、絶対に諦めない?」

 「うん。遅いかもしれないけど」

 

 しっかりと頷いてみせると、母は自分の首元に身飾っていたネックレスを外しはじめた、

 いつも身に付けているもので、様々な石や宝石を束ねていて凄く綺麗だ。母さんはお気に入りだと言っていた。そんな物を、俺に?


 「これ、付けなさい。きっとあなたの夢を叶えさせてくれるわ」


 渡された首飾りは、見た目以上に重量感があり、高級品の香りを醸していた。

 確実にウン十万はするだろう。


 「いいの?」

 「ええ、あなたが本気で願えば、叶えることができるわ。そんな不思議な力があるのよ、この首飾りにはね」


 早速俺は首にかけた。

 確かにパワーストーンのように何かが感じられる気がする。


 「……うん。俺、頑張る」

 「頑張りなさい」


 俺は二階にドタバタと駆け上がった。

 その時、母さんが呟いた言葉を聞くことができなかった。


 ――お父さんには悪いことをしちゃったわね。でも、何とかなるかしら。……魔法を学びたいなんて、やっぱり血は繋がっていたのね。ちゃんと。 


 

 明日は足を使って、魔法についての職を探そう。もしかしたら、それについて研究している機関があるかもしれない。そこでなら、今まで溜め込んだ知識を活かせるかもしれない。

 そして、


 ――魔法の世界に行けますように。


 ガキのころからの夢を、今なら恥ずかして誰にも言えない夢を、俺は強く強く誓った。

 母さんから貰った首飾りを首元で握り締めて……。



 

 そして朝。

 目覚めると、俺は魔法の世界にいた。



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