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Be called Fire boy  作者: タブル
第三章
21/65

#7 回帰点へのサブロマンス 0day―2

「起きて! 真人!」

「うぁ……あ?」

 視界が淀む。

「起きてって」

 隣から伸びた腕が腹を揺さぶっている。

「……あー……」

 ぼやけて重い頭を少し傾け時計を見ると、時刻は三時半を指していた。

 …………午前三時半。

「起きてってば……」

 俺の睡眠を遮る声が弱々しく(しぼ)んでいく。

 横を向くと同時に頭に鈍痛が走る。中途半端な時間に起こされたからか、痛い。

「あぁ……美鈴?」

「はやく……起きなさいよ……」

 真夜中で起こされて頭がなかなか冴えなかったとはいえ、ずっと無視し続けてしまったのも悪い気がしてきた。

 眠気が取れない上に、薄暗く視界が悪いし、頭も痛い。

「美鈴、どうしたんだよ。こんな時間に」

「おっと……」

 目が段々冴えてきて、視界も良くなってきた。

 そして目の前の状況を把握する。

「……なあ、美鈴? 今、俺の頭部を殴ろうとしていたか?」

 振りかざされた腕が見えたのだ。

「あ……はは。あんまり真人が起きないものだから、もう一発必要かなぁ、って思って」

「ははは……」

 寝起きの頭痛は未だに引いていなかった。


 電気をつけ、ベッドに二人で腰掛ける。

「で、どうしたんだよ。こんな時間に。なんでもないなら、このまま寝させてくれ。明日は朝から―――」

 志村達と街に繰り出すことになっているからなるべく寝ておきたい。

「大変なことになったわ」

「……大変なこと?」

「大変なことよ。……ああ、もう。何からどう言えばいいのよ」

「まあ、落ち着いて話せよ。ちゃんと聞いてるから」

 美鈴は慎重に言葉を選びつつ、話し始めた。

「……まず、最初に。さっき、マデュア本部から緊急のメールが来たの。あんまり組織外の人間に話しちゃいけないんだけど」

「なんだよ。勿体ぶって」

「―――この街で四天王の一人が殺された。殺されたのは、真人も会ったことのある、彼よ」

「……まじ……かよ」

 言葉が上手く出ない。

「彼が誰かに殺されるなんて誰も想定していなかった」

 喉が、からからに渇く。呑む込む唾さえ、残っていない俺は、言葉通り、ごくりと息を飲んでいた。

「……いったい誰が」

「犯人は分かっていないの。ただ、まあ、酷い有様だったって」

 酷い有様、か。

 想像したくもないな。

 しかし……

「あいつさ、……マデュアの四天王と言われるほどに強かったんだろ。一体誰が……あいつを倒せる奴なんて、そういないだろ」

「その彼が殺された日、というのも気になって」

「……いつなんだ」

「―――久城の事件の日よ。あの時ね」

「どういうことだよ、それ……」

 四天王の一人が、同じ四天王の一人に捕まって、その間に更に一人の四天王が殺された?

「―――引っかかるわね」

「……誰かの陰謀が動いてるってか。それは強引な物言いかもしれないけどな」

「少なくとも、勢力図が塗り替えられる」

「……ん。ということは、あの日、この街には四天王が三人も集まっていたってことにならないか」

「そうなるわね。あたしはボスの命令で、貴方のそばにいるけど。……久城はいいとして、彼はどうしてこの街に居たんでしょうね」

「美鈴を助けにきたとか」

「あり得ないわ」

 きっぱり言った。

「あくまでマデュアは世界規模の超能力団体よ。能力者は世界の均衡維持のため、平等に世界に分散されているの。だからこんな狭い街に四天王が二人もいるなんて相当珍しいことなのよ」

「俺の時も、美鈴とあいつの二人いたじゃん」

「あれは、それに値するだけの大事件じゃない」

 それもそうか。言われて気づいた。

「それにね……この久城の事件が起きた日にこの街にいるじゃない? 外国にいたとしても不思議じゃないのに。まして、いつまでも日本にいること自体おかしいのに。ピンポイントでこの街にいた。……何かしていたのかしら」

「さあな」

 靄がかかっていた脳内の思考がやっと上手く動きだす。

 ……沈黙。

 美鈴は別に悲しげな表情を見せることなく話していた。

「……こう言っちゃ失礼というか、悪いっていうのはあたしでも分かってるんだけど。……一番疑わしいのは、凍鬼さんよね。この街にいた四天王に対抗できるデュアールの者って」

「おいおい、疑ってるのか? 凍鬼さんを」

「疑ってるっていうか、そうとしか考えられないのよ。だって、奴よ。簡単に死ぬような人間じゃないのに」

 言って美鈴はもう一度ケータイに目を落とした。

「……そうだな」

 その一瞬、少しだけ、美鈴が切なそうに見えた。

「ま、けどさ。凍鬼は何もしていないかもしれないぜ。なにせ、俺や美鈴を助けてくれたんだし。確かにデュアール側かもしれないけどさ」

「……そうだけど」

 ケータイを閉じる。

 隣でゆっくり息を吐き、じっと潤んだ瞳で俺を見つめた。

「……そうよね。そんなことは、この際関係ないものね」

「だから、あまり深く考え過ぎるなよ」

 できるだけの笑顔を作って、美鈴の瞳を見据える。

「分かってるわ。大丈夫。……真人。今から大切なことを話すから、ちゃんと聞いて」

「急になんだよ」

 いや。急でもないか。

 美鈴は俺が起きる前から、今隣で見せているような、思い詰めた顔をしていたはずだ。

「話してくれ、美鈴」

「そう……ね。……さっきも言ったでしょ? これで勢力図は大きく塗り替えられたわけだけど」

「均衡が崩されたんだな」

「でね、つまり、その……ほら、本当は貴方に言うつもりなかったんだけどね、あたしマデュアの四天王の一人で……。重要な戦力の一つなのよ。今回、彼と久城が欠けることによってマデュアは大きな打撃を受けることになった。だから、流石のあたしも動かないといけない。つまり、異動命令が出たってわけ」

「異動って」

「貴方の監視から別の任務、ということになるわね」

 ……じゃあ。

「美鈴、遠くに行ってしまうのか?」

「大丈夫。そうでもないみたいよ。……ボスからの命令によれば、この近辺での任務になるらしいわ」

「……明日から春休みだ。案外タイミングとしては丁度よかったんじゃないか?」

「ふふ、そうね」

 渇いた笑いが、夜の部屋に響く。

 縁起でもないが、嫌な予感がする。

 嫌な予感……ベタな表現だが、そうとしか言えない。

 しかも。

 ―――嫌な予感ほど、よく当たる。

 考えてもみろ。

 マデュアの四天王が集まったのは、この街。デュアールの幹部という凍鬼さんもこの街にいる。久城が事件を起こしたのも、ここ。

 あらゆる可能性が見え隠れする。

 ……そういえば、初めて綾乃と関わることになったあの日、会合があってて、それに出くわして追われて。あの……あいつに助けてもらったんだっけ。

 ジョン・ドゥ―――言い換えれば、名無しの権兵衛か。俺も後で調べて知ったが、一般に身元不明の人間につけられる名前だ。だから俺も美鈴も、あいつに対して名前を知らない。本人が名乗っていない。

 あの日、あいつに助けられたけど、相討ちだったという。

 ―――相討ち?

 なんだよ、相討ちって。

 なんで世界規模の組織の重要な戦力と渡り合うだけの奴が、この街にいるんだよ。

 いや、もっと振り返ってみろ……

 もっと前に大きな事件。

 ―――二月九日。あの繰り返した日。始まりの日。

 なんで、俺で。なんで、この街だったんだ。

 出来事と事件と謎が繋がって、より大きな謎を形成していく。

「あたしの任務はたぶん、この街の中だから、もう会えないなんてことは、きっとないわ。安心してよね」

「きっと……か」

「なに、絶対とでも言って欲しいの? ごめんね、あたし、そこまで貴方を期待させるほど愚かじゃないの」

「ああ」

 ―――分かってる。

 こんな時期に、この街で任務。明らかに不自然。

 危険が伴うかもしれない。事実、知り合いが一人死んでいる。

 それでも。

 俺は美鈴の持たせてくれた淡い期待にしがみつくしかなかった。


「じゃあ、あたし、もう行くわね」

「え」

「何を今更驚くことがあるの」

 俺の部屋の入り口、扉の前に旅行バックが置いてあった。

 美鈴の道具一式をまとめてあるのか。

「準備は?」

「もうできてる。あとは出発するだけ」

「はぁ……まったく。突然過ぎんだよ」

「仕方ないわ」

 美鈴が申し訳ないと、肩を落として見せる。

「忘れ物とかは?」

「あとは貴方に言うだけだったから」

 別れの言葉、か? それこそ縁起でもない。

 一旦、伝えておくだけだ。少し、美鈴が家を空けることを。

「母さんやアイに何か言っておかなくていいのか?」

「いいわ。寝ている間に、ちょっと認識変えておくから。わざわざ言う必要はないわね。……でも、お礼くらいは言っておいた方がいいかしら」

「……帰ってくるんだろ? なら、いいじゃないか。気にせず行って、帰ってこいよ。……帰ってくるんだ。まだ礼なんていらない」

「そうね」

 美鈴が立ち上がり、出口の前に立つ。大きなバックを持ってドアノブに手をかけた。

「美鈴」

「なに」

「美鈴ってさ、能力、微振動とか音波能力とか言われてたけど。本当は、心の中、読めるし操れるだろ」

「……どうしてそう思うの?」

「流石の美鈴の言われていた精密なその能力でも、人の心の中で思っている言葉を言い当てたりできないと思うんだ。……美鈴の心の能力は本物だ。……更に美鈴は他人の記憶の改変ができる。違うか?」

「八十点」

「は……」

「記憶の改変というか、認識の改変って程度よ。まあ、記憶と認識は紙一重の差だから、やりようによってはできなくもないかな。……そう、貴方の想像通りよ。あたしは二つの能力を同時に併せ持ってるわ。あたしはそれを久城にすら秘密にしてた。久城の知る能力と心の能力。心の能力という名前はフェイクで本当は微振動の能力者……それ自体がフェイクだったってこと」

「はは……何が本当か信じられなくなるな」

「ええ」

 笑い合う。心から。

「―――真人と話しておいて良かった。だいぶ気が楽になったわ」

「そりゃよかった」

「あ。綾乃ちゃん達には真人から色々言っておいて」

「分かったよ」

 世話が焼ける。

「それと、真人。貴方も気をつけておきなさいよ」

「俺か?」

「貴方、それなりに有名よ。あの四天王の一人を退けて、あたしと行動を共にし、更には久城のクーデターに首を突っ込んだ。違う?」

「だな」.

「今まではあたしが一緒にいたから、誰も手を出してこなかったけど、そうもいかないかもね。……でも、真人なら大丈夫か。貴方は、もう、能力を使えるから。あれを忘れていなければ、大抵の事態は(しの)げるわ。……十分過ぎるくらいに強かったし」

 あれは俺も驚いた。あの火柱。あの光景。

 全てが脳内に焼き付いている。

「だから大丈夫。あたしは安心して行けるわね。……でも、油断は禁物よ。注意して」

「ああ。分かってるって」

 美鈴の柔らかな眼差しが、扉の向こう、道の先へ向けられた。

 いつもより、その体が小さく見える。しかし、美鈴の決意を固めた目は、踏み出すべき目の前の道を捉えていた。

「じゃあ、またな」

 その華奢な後ろ姿に、囁くように言った。

 コクッと美鈴が頷く。

「じゃあ―――」

 ―――いってきます。

 少しだけ微笑むと、美鈴が扉を開け、この部屋を出ていった。


 静かに夜が更けていく。





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