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Be called Fire boy  作者: タブル
序章
2/65

#2 友達の道 その1

 まったく、なんだってんだ。

 

 俺はふと、窓から外を見た。朝日が眩しい。

 快晴。

 深夜の雨が嘘だったかのようだ。

 

 そして右を見ると、

「貴方、何あたしを見てるのよ? なにかあるの? まあ、無いわよね。あたしが朝食をとってるっていうのに貴方程度の人間があたしにね。……何かを言ったら?」

「別に何も言うことはねーよ」

 

 自称超能力者こと美鈴は、昨晩俺と共によく分からんものと闘った。

 今、考えると俺らしくなかった気がする。

 見ず知らずの女の子を信じ、殺されそうになりながら闘うなんて。

 

 そして、朝、こいつはまんまと俺の家に転がりこんだ。

 

 ……一時間前。

 ベランダで美鈴と話した後、俺は仕方なく親に話をつけに行くことにした。無論、駄目元だ。

 今まで普通の男子高校生だった俺が急に可愛らしい女の子を連れてきて、『この人を家に置いてほしい』なんて言えるわけねぇ。

 そう当たり前のことを思いながら俺は親にそっと尋ねてみることを決めた。

「何とかならなかったらどうなるか、分かってるんでしょうね?」

「まずお前に自分の立場が分かってほしいよ! ……まったく。この部屋でおとなしく待ってろ」

「しょうがないわねー」

 そう言って美鈴は当たり前のように俺のベッドで俺の漫画を読み始めた。

 ……さて、俺もいざ親の待つ台所へ!

 

 

 しかし、なんと言ったもんかねぇ……

「あの母上、ちょっとご相談が……」

 思い切って声をかけてみる。

「あら、真人帰ってたのね。遅いから心配したわ。それでどうしたの? 改まって。お小遣いならこの間あげたからだめよ?」

「いや、そうじゃないんだけど……、その、例えばだけどさ、もう一人この───」

 バタッ……、ガチャン。スタタタタ……

 そんな音におれは何も気にしていなかった。どうせ我が妹だろう。

 そう思っていた。信じていたといってもいい。

 …………。

「───それでさ」

「あら、どなた?」

 お母さんがそう言ったのと同時に俺は嫌な予感がして振り返った。

「あっ、いたいた真人! そういえば昨日の夜も何も食べてなくてお腹空いたんだけど、この家には何もないの? ……あ。……えーと……真人……くんのお母さん……ですか?」

 終わった……。美鈴のバッカヤロォォォォォォォ!

 

 それからは俺もよくわからない。

「しかたない……」

 そう美鈴が言ったかと思うと、突然大きな金属がぶつかるような、耳鳴りのような音が聞こえてきた。

 ───キィィイイイイィィィン……

 音が止んだあと、数秒の沈黙があった。

「……よし!」

「何が『よし!』なんだよ!状況は最悪じゃ……」

「言ってなかったっけ? あたしは心専門の超能力者よ。これくらいどうってことないわ」

 美鈴の顔を見た。満面のドヤ顔だ。

 お母さんを見た。

「……あの超可愛らしい女の子は居候。あのちょうかわいらしいこはいそうろう。アノチョウカワイラシイコハ……」

 おかあ……さん……? 

 俺は二度見、いや三度見はした。

 顔は蒼白、体も小刻みに震えている。

「もうこれで安心よ。これで」

「美鈴、母さんに何したんだよ! 安心とは対極の状態じゃねえか!」

「まあ、見てなさい」

 すると、母さん震えも止まり血の気が戻っていく。

 ……元に戻った。

「あら、真人とみーちゃんじゃない。真人、心配そうな顔してどうしたの?」

 ───元には戻ってねえ!

「どうもしてないよ、母さん。それより具合とかどう? 大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。ほんとにどうしたの? 真人」

 なにがおこったんだ?

 何を起こしやがったんだよ……

 俺は美鈴の手を引いて部屋まで戻った。

 

「母さんに何をしたんだよ」

「なんだと思う?」

 こいつ、まだドヤ顔のままだ。

「催眠術とかか?」

「四十点」

 誰も答えの点数なんて聞いてない!

「じゃあ、マインドコントロール」

「五十点」

「なんだってんだ、じゃあ、あれか?お前のことだから、洗脳とかか?ああ、確かにあの時の母さんの様子はやばかっ」

「んなことするわけないじゃない! やっぱり貴方全人類より群を抜いてバカね!」

「なっ。じゃあ、いったい何したんだよ?」

「ふふっ、それはねー」

 得意げな顔で説明し始めた。専門用語満載の説明だ。見事に説明が意味を成してねえ……

 ……当然、俺が理解できるはずもなく。

 

「お兄ちゃん、みーちゃん、朝ご飯だよー♪」

 我が妹の声が聞こえてくると共に、「ま、そういうことだから」という言葉で話を棚上げにし、美鈴は意気揚々とリビングへと向かう。

 大きなため息とともに俺もついていった。

 

 ───そして今に至る。

 

 

「ごちそうさま。なあ、俺は学校に行くけど美鈴はどうすんだ?」

 一応聞いてみる。

「行くって言ったじゃない! バッカじゃないの?」

 バカって……一言余計だよ。

「まったく、貴方ねえ……。ばれないように突っ込んだつもりでしょうけど、バレバレよ」

 ああ、そうだった。

 美鈴は心が読めるんだ。

「……美鈴、もしかして俺の心の中、ずっっと見てんのか?」

「はあ? なんであたしが貴方に変態を見るような目で見られないといけないわけ! そんなことするわけないし、したくもないわよ。うっ……、貴方が変なこと言うせいで吐き気が」

 お前の中で俺はどんな立ち位置なんだろうな。もう想像が及ばない領域にいる気がする。

「貴方に誤解されないように言っておくけど、超能力っていうのは貴方が想像してるような使い放題なんて都合がいいものじゃないのよ。個人差があるけど限界はあるの。詳しくは一般人には教えられないけどね」

「ふぅん。じゃあ、今日はあと何回心を読めるんだ?」

「さっきので最後。今日は大技使ったし、もう使えないわ」

 よっしゃあ!

「今、心の中で喜んだわね?」

「えっ、なんで分かったんだ! まさかさっきの最後ってのは嘘か!」

「……見れば誰にだって分かるわよ。だって顔に書いてあるもの」

 あ……、しまった。

 俺としたことが……

 

 

 ───身支度中。

「お前、どこの学校に行くんだ?」

 何気無い質問をしてみた。

「何? まだあたしを狙ってるわけ?」

「そんなわけあるか! ていうか、お前を一度も狙った覚えはない!」

「あら、そうだったかしら」

 まったく。何気なく質問なんて美鈴にするもんじゃないな。

「そんで、どこなんだよ」

「まだヒミツ。ふふっ」

 なんでそこで笑う。

 どうせアレだろ、定番転校生パターンだ。そうやって俺を驚かせるつもりだろ…… 

「おにぃちゃーん! いつまでみーちゃんと話してるのー? もう行かないとー、遅刻しちゃうよー」

「ああ、わかった。それじゃあ、俺はもう行くから。またな───」

「またね。健闘を祈ってるわよ。友達無し男くん……」

 

 俺は家を出た。

 

 しかしなぁ、俺の記憶じゃ友達は普通にいるんだが。タカヤンとかひろピーとか祐作とか。

 あいつら全員俺の創り出した、俺の想像の一部だっていうのか? 正直信じられないぜ。

 

 いつもの学校への道を歩く。

 そうそう、いつもここでタカヤンと会う。……んだが、今日はそこにタカヤンがいない。

 ……たまたまいないだけかもな。

 

 この先の角を右に曲がると学校が見えてきて、ひろピーがいる! ……はずなんだが、ひろピーもいない。

 そして祐作さえどこにも……いない。

 

 まじかよ……

 この思い出も、この気持ちも全部自分で作り出したのか?

 言われて信じないといけないのは自分でも分かってたが、いざ、こうして見てみるまで信じられない。だって俺の頭の中ではいるのが当たり前なんだ。居て当たり前。

 思い出だっていくらかある。その友達という友達が、存在ごと消えたようだ。

 いや、周りから言わせれば元の世界に戻ったんだろうが、俺にとっちゃ世界が変わったも同然なんだよ。まるで現代の街に侍が迷い込んでしまったかのようだ。

 いや、そこまで酷くない。ただ、共通して言えること。

 辛くて寂しい。

 なんか大きな何かを無くしたような。

 

 

 俺は教室に辿り着いた。さすがに二月、クラスのだいたいの奴は俺は知ってる。しかし、友達が見当たらない……。

 そうか、やっぱり最初から……いなかったんだ……

 しかしいつまでもヘコんでてはいけないよな。もともとの形に戻っただけだ!

 ……よし! もう大丈夫だ!

 

 俺はよく教室を見渡した。皆の俺に対する目は、俺を恐れる目(なんで?)、嫌ってる目、無関心な目と、見るからに様々だ。

 この教室内、色んなキャラを詰め込んだような三十七人だからなぁ。

 

 俺の(一応)知り合いからそんな目をされると、きつい。

 俺の記憶ってどの辺まで正しいんだ。

 

 正直なところ、寂しいなんてレベルじゃない。誰も俺と関わろうともしないのだ。

 

 

 トントン……

 肩を叩かれる感触。

「んっ?」

 誰だ? 俺に話しかけてくる奴なんて1人も……

「何、ぼーっとしてるの? ホームルームが始まるわよ。もしかして、具合が悪い?」

「いや大丈夫だ。ありがとな、清宮さん」

 清宮さくら。同じクラスで生徒会長。こいつは別に『友達』というわけではない。ただ清宮さんは誰にでも優しいのだ。

「もし具合が悪いのなら無理せず保健室に行きなさいね」

「ああ」

 無償の万民に対する優しさなのに涙が出るほど嬉しかった。俺は涙を堪えたまま礼を言った。

 やっぱ一人は辛いからな……

 

 あっ。

「おいっ、清宮! ちょっと待ってくれ。聞きたいことがあるんだが……」

 そうだ。俺は彼女に聞くしかない。何故俺に友達がいないのかを。

「なあに? 遠藤くん」

 小声の方がいいだろうか。

「あのさ、変なこと聞くけど俺って何でこんな目で見られてるんだっけ?」

「そんなの自分で考えなさいな。あなた、自分の今までをよーく考えてみなさい。普通の人なら分かるはずよ。……私は応援してるわ。汚名挽回かな? がんばって」

「いや、それが……その、詳しく」

 チャイムが鳴った。ホームルームが始まる。

「ほら、私も席につかないといけないし。それに遠藤君、少しは周りを気にした方が……」

「えっ」

 俺は再び教室を見渡した。

 結構、たくさんの皆さんが俺を見ている……?

「なんで?」

「自分の胸に手を当てて考えたらどう?」

 

 ……ヒソヒソ。

「なんで遠藤と清宮さんが話してるの?」

「清宮さん、遠藤に捕まっちゃったのよ」

「えー、かわいそー」

 ヒソヒソ……。

 

 

「ほらー、ホームルーム始めるぞー」

 先生のこの一言で教室内の空気は元に戻った。

 一体、俺って何をしたんだ? 全く記憶にない。普通に生きてきたはず……

 良くいえば普通に、悪くいえば凡人らしい生活をおくっていたんじゃ……

 

「──────とのことだ。あと一つ皆にお知らせがある。転入生の紹介をする! ほらっ、入って来い」

 ガラッ

 ───まさかッ!

 ……なんてな。

「……初めまして。石田美鈴です」

 知っている。今更何も驚かねえよ。

 そんな俺の表情を見て、元々サプライズ気分だったのか、美鈴はイラっとした表情を見せた。

「石田、自己紹介を」

「もう必要ありません! あたしの席はどこですか?」

 美鈴、怒ってやがる。俺のこの態度のせいか?

「窓際の一番後ろだが」

「嫌です」

「はあ?」

「なんで知らない高校で初日からそんな仕打ちを受けなきゃいけないんですか? 教室の隅に追いやられるなんてあたしは嫌です」

 先生が困惑してる……

 なに初日の始めから先生困らせてんだよ。

 はぁ、こいつ以上のツワモノはこのクラスにはいないだろうな。ほら、皆も唖然としてるじゃねえか。

 あっ、そうじゃない奴も少なからずいるみたいだ。こいつら美鈴並のツワモノかもな……

 

「はぁ、困ったなぁ。誰か席を代わってやってもいいという奴はいるか?」

 ガタン、ガタガタッ───

「はい!」

 おいおい、これって……

 俺の近隣の奴ら全員が手を挙げていた。

 どんだけ嫌われてんだよ、俺。

 

「じゃあ、あたしはそこでいいです」

 そういって美鈴は俺の右隣を指差した。

 始めからそういう魂胆だったな!

 

 ガタッ。

「よろしくね。えっと……遠藤くんだっけ?」

「その白々しいのはやめろ。この席も美鈴の思惑通りなんだろ?」

「思惑なんて、響きが悪いわ。貴方が思いつかないような崇高な計画なのよ!」

「だいぶ無理矢理だったじゃねえかよ!」

「あら、ひどいこと言うのね。ええと……友達無し男くんだっけ?」

 まだ怒ってる……

「……その言葉、朝飯後と違って今の俺にはスゴく痛ぇよ!」

「だから朝言ってあげたじゃない。『健闘を祈ってるわ』って」

 あの一言にはそんな意味があったのか……

「それで、友達は出来たかしら?」

「全然だめだ……。何故なのか、もう訳わかんねぇ」

 

 授業が始まった。

 割と普通に美鈴は授業を受けてる。てか、既にこのクラスに馴染んでいる⁈ どういうことだ? いや、そうか。このクラスはツワモノが多いのだ。だからツワモノの美鈴も浮いたりはしなかった。

 しかし、こうして見ると真面目に落ち着いて授業を受けてる美鈴って、普通に可愛い女の子なんだよな……

 なんでこんな性格になってしまったのか。美鈴が超能力者だからか?

 そういや『学校に行く羽目になった』なんて言ってたよな?

 ってことは普段は何をしてるんだ?

 もしかして、例のエージェントみたいな仕事ばかり押し付けられて……。いやいや。そんなことしてたら、こんな感情性豊かなわけない。

 だけど、こいつ普段は学校行ってないんだろ?

 じゃ、じゃあ、マトモな教育を受けてないって訳で……。

 つまり、こいつ、真面目に授業受けてるように見えるが実際は何も分かってないのか⁉

 

 そー……っと。

 俺は彼女のノートを覗いた。

「何、覗き見? いやらしいことするのね、貴方」

「隣の奴のノートを見ようとしただけで『いやらしい』って発言をするお前の方がよっぽどいやらしいよ」

「真人がいやらしいって話は置いといて、何? こんなあくびが出そうな簡単過ぎる授業が分からないの? 流石はあたしの見込んだバカね」

「俺はいやらしくもなければバカでもない!」

 ───こいつ、授業を理解してやがる。ノートを見ても明白だ。

 というか、美鈴の言った通り簡単過ぎるって感じだな。

「お前、授業が分かるのか?」

「当然よ。あたしを誰だと思ってるのよ!」

「美鈴さんと承知しておりますが……。普段学校行ってないんだろ。なんで分かんだよ?」

 美鈴は大きくため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだ。

「組織の教育施設よ。超能力使える子供が一般の学校になんて行ったら危ないでしょうが」

「まあな。それじゃあ毎日の新聞の一面を『子供の喧嘩により学校倒壊』なんて記事が独占してしまいかねないからな」

「そう、だから教育施設に通うの」

 しかし、そりゃ大層なこった。

 

「ほらー、そこ。何を喋ってる!」

 先生だ。

「すみませーん。だって遠藤君があたしにいやらしいことするのでー」

 美鈴さん⁈

 俺は見ただけだよな? いやらしくはない目でノートを見ただけだよな⁈

「ちょっ、みす───」

「はぁ……遠藤。あとで職員室に来なさい」

「はい……」

 思わず立ち上がっていた俺はおとなしく座った。

 ここでムキにならないのが真のおとなしく『大人』らしい行動だろう。それこそ、美鈴に対する僕の取るべき行動だ!

 俺は右を見た。

「ふふふっ♪」

 なんか楽しそう⁉

 美鈴、今、学校を精一杯楽しんでるだろ。俺を犠牲にして!

 

 そうして、一日が過ぎていった。

 

 

 放課後。

 職員室で転校生に対する授業中のセクハラ行為の有無について先生に弁解した後、部活に所属してない俺は友達もいないので帰るところだった。

「ねぇ、真人。なんで帰ろうとしているの?」

 なんでって。

「別に残る理由もねえだろ。なんだ、お前は残るのか?」

「あたしはいいんだけど。貴方って友達が欲しいとか思わないわけ?」

 そりゃあ、欲しいに決まってる。けど……

「今はいい」

「なんでよ! 貴方、今は今しかないのよ! しかも今は放課後、友達を作るのに適したゴールデンタイムじゃない!」

「ゴールデンタイムは七時から十時の間だ!」

「どうだっていいじゃない! ……で、作るの? 作らないの?」

 そう言われても、なあ。

「お前に俺の友達を作れるのか?」

「あたしの能力を使えば一撃必殺よ!」

 殺してどうする。

「けど、どうせ貴方のことだからそんなの本当の友達じゃないって言うんでしょ?」

 無論、美鈴の言う通りだ。

「だったら貴方が自分で頑張るしかないじゃない」

「そうだな。しかし、友達ってのは自然とできるもので、意識的に作るのは難しくないか?」

 そうだ。今日は高校二年目二月十日。人間関係なんてとっくに固まっている。

 ……難しい。

「難しいわね。特に貴方は」

「特に俺はって……、もしかして美鈴……俺が嫌われてる理由知ってんのか!」

「超能力者に知らないことは何一つ無いわ」

 いや、お前ら超能力者は知らないことだらけだ!

「……一体、何故なんだ?」

「貴方、都合がいいように記憶が改変され過ぎなのよ。本当は話せば長くなるのだけど、大きな事件だけ言うと」

 美鈴はゆっくり話し始めた。

「貴方は高校一年の初登校日、遅刻して来たの。理由は登校中の鼻血。しかも、小さな段差につまづいて坂を転がったための鼻血よ。新品の制服はボロボロ……。 しかもティッシュを家に忘れて来た。だから学校に遅れた。初教室で他人から見れば血まみれの貴方が学校に着く。貴方は血まみれの割に、怪我はしていない。他人(ひと)でも殺してきたような格好の貴方は当然注目を浴びるわ。教室は静まり返ってね。ふふっ……しかも不幸なことに……」

 これ以上、なにが……

「そこで貴方のケータイに着信が入ったの。先生はまだいなかったし、家からの電話だったから出てみると電話越しに妹が泣いていた。おもちゃが壊れた話だったらしいんだけど、貴方にはなんて言ってるか分からなかった。そして妹も少し冷静になって伝えようとして、言ったの。『しくしく……。ジョンソンの……うでがぁ……足も折れてぇ……』。そこで電話が切れた。貴方、詳しく聞こうとして電話に色々言ったけど、繋がっていなくて。しかも、それに貴方は、『俺は何もしていない』とか『そいつの足を折ったのも俺じゃない!』とか言ってたらしいし、貴方、悪人面だし。クラスの全員とは言わないけど、一部の人たちはなんと思ったでしょうね……」

 さあな。

「そして偏見の目が向けられ、~子さんが階段から落ちた。それは遠藤の仕業では? ~美さんがヤクザに絡まれた。それは遠藤の手先では? ……といった具合に話がだんだん大きくなっていってね。そうして貴方は一人ぼっちになったってわけ。組織の情報だから間違いないわ」

 ───悲惨過ぎるだろ、俺!

 もう嫌だ……

 

 傾いていく陽の光が教室を照らす。良い子はもう帰る時間だ。

「それで、俺はどうやったら友達ができるんだ?」

「そうねえ、あの子なんでどう?」

 そういって美鈴は俺らと逆側の教室の隅を指差した。一人で本を読んでいる。

 あの子は確か……

「西川、綾乃?」

「そう、あやのちゃん。よく知ってるじゃない。えとね、あの子の貴方を見る目は警戒する目とは違った気がするわ。どう? いや、聞くまでもないわね。行きなさい!」

 正直、気が進まない。俺がこんな嫌われ方をしている以上、話しかけることはあの子にとって迷惑以外何者でもない。

「はーやーくー、行ーきーなーさーいー!」

「ちょっと待て! 他にも手は……」

「ない‼」

 ……くそ、仕方ないか。

 もうどうにでもなれ、だ!

「お前はここで待ってろ。絶対だぞ!」

「……分かったわよ」

 やたら素直だな。まあ、前科があるからか。今日の朝のことで忘れてなかったようだ。

 ───仕方ない。

 俺はもう一度その言葉を呟いて、早足で彼女へ向かった。

 

「おっ、おい。西川……」

 少し声がうわずった。

「なんですか?」

 確かに警戒の目じゃない。

 これは……かなり心の距離がある目だ!

 こりゃ美鈴の人選ミスだろ。

 彼女はとても綺麗な人だった。ショートヘアで身長は俺より少し低いくらいか。スタイルもよく顔も可愛い。

 こうも全て揃っててこの時間この場所にいるってなると性格が心配される。

「お前、いつもこの時間、ここで本を読んでいるのか?」

「いつもじゃないです。今日は迎えが遅いから」

「ふぅん。部活とかやってないんだな」

「あれは時間の無駄というものです」

「そうなんだ……。はは」

「ところで、何の用です?」

「いや、特に何も……ない……かな」

「女の子に話しかける趣味をお持ちなら、やめることをお勧めします」

 そんな趣味ねえよ!

「ははは……、面白いことを言うんだなぁ。西川って」

「あなたの方が面白い、いえ、興味深いですよ」

「へぇ、どういうとこが?」

 なんとなく、俺は聞き返した。

「……二月十日以降の未来を消しかけたこととかですね」

 ダンッ!

 机を叩いた音が教室に響いた。叩いたのは美鈴だ。

「帰るわよ!真人!」

 頭の整理が出来ず唖然としている俺はそのまま美鈴に手を引かれ、教室を出た。

 どうして……あいつが、知っている?

 記憶がある?

 

 

 俺たちは走って家に帰った。

「おかえりぃ、お兄ちゃんたちー♪」

 その声を聞き終わる間もなく、俺たちは俺の部屋に入り美鈴は鍵をかけた。

「おい、美鈴。いくつか聞きたいことがあるんだが」

「なに?」

「ちゃんと皆は元にもどったんだよな?」

「そうよ。繰り返した記憶もない」

「じゃあ、なんであいつに記憶があるんだよ」

「分からない」

 不思議そうに首を傾ける美鈴。

 これは所謂不測の事態、なのだろう。

「組織にメールしてみて、それから……」

「その前に本人に聞いた方が早いだろ」

「世界の修正ミスなのか、また彼女は組織に属さない超能力者なのか、それとも」

「だから聞きゃ分かるだろ!」

 俺はどうしても本人に聞きたかった。

 彼女より美鈴の組織の方がずっと恐かったからだ。もはやアレはトラウマだし。

 

 俺たちはもう一度学校へと向かった。

 駄目元だ。しかし他にアテがない。

 もう薄暗く、空に星が輝き始めている。

 校庭に忍び込み、教室棟を見た。ウチのクラス。中はもう真っ暗だ。

 窓際一番前……俺はよく目を凝らす。

 ……ん?

 何か動いてる。何な……誰かがいる!

 

 

 今度は俺が美鈴の手を引き、その夜の校舎へと走りだした。

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