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Be called Fire boy  作者: タブル
第二章
17/65

#6 臨機応変デフォルターⅣ

「いないわね」

 しばらく部屋を歩き回ったが、それらしい人影は見当たらなかった。

「久城の野郎、逃げたのか?」

「まさか。時間稼ぎでしょ。何処かに隠れているはず。見つけて久城を捕まえないと。……その久城の仲間っていうのが来る前に」

「どうして」

「真人、どこまで馬鹿なの? 久城の仲間ってだけで、きっと相当苦労する事態になる。だって見なさい、外。警察がビルを囲んでいる。その中どうやってここまで来るのかしらね。集団でやって来るか、警察を()ぎ倒して来るか。どちらにせよ厄介よ」

「つまり、今は有利だけど久城の仲間がやって来たら不利になる」

「そう。その通り」

 それまでに(かた)を付けないといけないな。


「一階にはいないっぽいわね」

「上か……」

 ビルは十階建てほど。物凄く高いわけではないが、小さくもない。

 久城を捜すには苦労するだろう。

「見つけて、美鈴が久城に催眠を掛けるんだな」

「ええ、そのつもり。だけど上手くいくかしら」

「どういうことだよ」

「奴の投げたチャフ、すごく小さかったじゃない。あいつがあと何個持ってるか分からない」

「……美鈴対策として大量に持っていることもあり得るな」

 もし、そうだとしたら。

「じゃあ、さっきと同じことを繰り返すだけってことにも」

「ええ。なりかねない」

 さっきと同じことを何度も繰り返しているうちに時間が経ってしまう。そのうち久城の援軍も来てしまうだろう。

「まずいな」

「だから確実に久城を仕留めないといけない」

「だが、どうやって―――」

 それは不可能なんじゃ……

「ねえ、真人。知ってる?」

「ん?」

「このビルの地下って広いのよ」



「 そういえば真人」

「なんだ」

「あの久城の攻撃。全て避けれたとは思えないんだけど、どうやって対抗してたのよ」

「えっと……」

 ポケットにしまいこんでいた式神の紙を出して見せた。

「これを貰ったんだ」

「これって……あの、リンさんの記憶にあった道具じゃない!」

 美鈴が目を丸くしていた。

 驚くのも無理はない。俺も最初にリョウさんが出した時は驚いた。

 それより。

「……式神のこと、まだ憶えていたのか」

「ええ、なんとなくぼんやりと。なんか忘れちゃいけない気がして」

「ああ。俺もだ」

 薄い記憶。

 忘れちゃいけない。

 そんな気がする。それは彼女の大切な気持ちであって、大切な思いだから。結局俺達は幽霊と会っただけ。もうそこには既に存在してなんかいなかった。肉体すら無い。だからそこには何もない。何も無かった。誰もいない。誰とも会っていない。

 だけどさ。

 だけど。俺達は確かに何かあったんだ。たぶん幽霊に会ったんだ。その幽霊が俺達に遺したもの。

 形の無い彼女が残してくれた、形の無いもの。

 それがこの記憶だとしたら、いつか忘れゆくとしても。全て忘れ去ってしまう日が来るとしても。それまでは忘れちゃいけないはずだ。

「なにぼーっとしてんのよ」

「あ、ああ。ちょっとな」

「しっかりしてよ、もう」

「悪い……」

 それは言わずとも美鈴にも分かっていることだと思う。

「さて、どうするか」

「うーん。そうねぇ、時間も無いし…………」


「……よし!」

 パンッと手で顔を叩く。

 気持ちが大事だ。心意気に勢いを。さもなければ俺は怖気(おじけ)付いてしまう。

「え?」

「美鈴はどこかに隠れてろ」

 設備の管理も放置された廃ビル。(すみ)には蜘蛛が巣を張っている。法改正前に設計されたままの状態のはずなので耐震構造は脆い。埃を被り、物は薄汚れ、全体的に灰色。

 その中を、俺は踏み出し、駆け出す。

「ちょっと、真人⁈」

「おとなしく隠れてろよ」

「真人―――」

 次の言葉は重い壁の向こうとなり、聞こえなくなった。

 一度、振り返る。重厚な、その扉を前に。

 壁は音さえも通していない。

 そっと鍵をかけ、もう一度走り出した。



 一つ思い出したことがある。

 超能力者は一般的な物を知らないことが多い。


 三階。

 ここまで誰とも会わなかった。さっき助けた人達が協力して逃げたのだろう。久城の奴も逃げる人間をわざわざ攻撃したりしないはずだ。

 殺したところで奴にとっても利益は無い。

 三階は広々とした部屋一つだけだった。物が一つも無い。この部屋の荷物だけは運び出されていたようだ。

「おい、久城。いるんだろ? 出て来いよ」

 窓際は明るいが、部屋全体を見ると薄暗い。その部屋の隅々まで聞こえるように声を出す。

「お前が隠れてるのは分かってんだ。お前は光の角度を変える能力……だっけか? だったら光の反射角を変えることは容易。そこから考えたんだ。人の目って光を捉えることで、物を認識できてる。だから自分に当たっている光を上手く変化させることで、特定の人間から姿を隠すことも出来る。違うか?」

 …………。

「見つからないうちにお前が攻撃してこない理由もいくつか分かってる。まず美鈴に攻撃はできない。あいつはマデュアに対する人質だから」

 …………。

「俺に攻撃してこないのは、迂闊に攻撃できないから。美鈴に攻撃できないお前は俺を攻めるしかない。だが、今までの攻撃は通用しなかった。今度も効かないかもしれない。一度、四天王の一人を退けた俺だ。隙を見せると反撃されかねないから、迂闊に攻撃できない。しかし放っておくわけにもいかず、姿を消して俺について来ている。そうだろ?」

 …………。

「……何故、気付いた?」

 部屋の角、特に闇の深い場所から聞こえた。

「俺ならそうするからだ」

「なるほどな」

「姿を消していても美鈴には見つかる。それを防ぐために、いや念のためか。美鈴に何か仕込んでるだろ。波長錯乱装置のようなやつ」

「何故?」

「さっきから美鈴は、俺の心を読めていない。……時間を稼ぐため、お前が隠れられる条件は揃った。だからここまで推理できたんだ」

「……遠藤……」

「流石は美鈴の上官だ。美鈴の能力のことを熟知してる」

 グニャリと視界の一部が歪み、霧が晴れていくように、人の姿が現れた。

「まあな」

「……かくいう俺もお前と相性が悪い。俺は火を起こす。火は光を発するから、お前を有利にしてしまう。……だから、久城。一緒に地下まで来い。そこで決着だ。来ないつもりなら、今からこのビルごと焼き払ってやる」

「はは、怖いな、遠藤は」

「俺は本気だ」

 久城に腕を向けて見せる。

 ……ハッタリだ。

「いいだろう。遠藤。ははっ、俺のことなど放っておけば自分の身くらい助かるものを……。その勇気は認めてやる。だがな、お前に俺は倒せない。たとえみーちゃんと二人掛かりでもだ。……どうせみーちゃんも黙らせないといけないしな。二人まとめて相手をしてやろう」

「……ついて来い」



 一階で美鈴と合流して大体の説明をし、地下への階段を降りた。

 久城もついて来ている。

「おい、遠藤」

「なんだ?」

「場所なんてどこでもいいだろ。時間がかかる分には構わねえが、どちらにせよお前が殺されるってのは変わらないんだぜ?」

「そうはさせない。何があっても警察を引き渡してやるさ、絶対に」

「ほう」


 地下。

 内装から室内的なイメージをしていたが、地下は広い駐車場といった感じだった。

「ここ、使われなくなってから、車両用の出入口が封鎖されたのよね」

 だから今はただの広い空間となっているのか。

「そういや、美鈴。お前なんでこんなにこの廃ビルについて知ってんだよ」

「それは―――」

「みーちゃんの能力増強に使ってたからな。このビルは」

「はあ⁈ マジかよ」

「何を隠そうこの街はみーちゃんの故郷でもある」

「マジで⁈」

 そんな、まさか。

 今まで聞いたことも無かったし、想像すらしなかった。

 この街。俺の街が美鈴の故郷でもある?

 そんなこと一言も美鈴は言わなかった。

「本当なのか、美鈴?」

「……どうでもいいでしょ、そんなくだらないこと」

「どうでもよくなんか―――」

「いいの」

 一瞬、美鈴が俺を睨んだ気がした。



 勝負はすぐに決してしまう。

 炎が久城を焼けば、俺の勝利。はずせば炎が光を生み、俺が殺されて終わり。

 恐らく、もう式神は使えない。使えても一回分あるかどうかだ。久城が姿を隠しているうちに攻撃を幾度かしてきていたのか、式神が殆ど焦げてしまっていた。


 勝負は一度きり。

 間違いは許されない。


 負ければ死ぬかもしれない。

 美鈴も取り引きの道具にされる。


 膝が少し震えている。足がすくむ。

 俺は恐怖を感じている。


 逃げることはできない。

 ただ立ち向かうだけ。


 勝てるのか?

 俺に……護れるだろうか。



 キラリと久城の手元が光った。

「うおっ」

 飛ぶように後方に動き、身を屈めた。

 立っていた場所。既に黒い焦げが目立ち、灰色の煙が登っていた。

「ちっ、外したか……」

 久城の声が聞こえた。

 ―――失敗した。

 上で久城は光の能力を使った時、太陽光しか使っていなかった。屈折角を調節したレンズは一点に光を集めると高熱を持つ。久城の強さもそれに大きく依存していると高を括っていた。

 だが、奴は。

 今、この地下で能力を使った。威力も衰えちゃいない。

 奴は一定の光量があればそれでいいのか。

「くっ」

 姿勢を取り直し、周りを見渡す。攻撃された刹那見えた直線。天井のいくつかの蛍光灯からまっすぐ伸びていた。

「くそっ」

 走り出す。

 また蛍光灯が強く光った。同時に横っ跳び。


 走ってなんとか地下のブレーカーまで到着。

 振り返る。足に力を込め、大きく右に跳んだ。光線が俺のいた場所をなぞる。

「くそっ」

 悪態をついてる暇もない。

 近くに落ちていたブロックを拾う。

 ブレーカーのフタを開け、全てをオフにして。

「くっそぉぉおおお!」

 そのブロックを思いっきり叩きつけた。反動で自分がよろける。

 光が入らない地下は真っ暗闇になった。


 これで、奴から攻撃はできないはずだ。

 暗闇。条件はこれで元に戻った。

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