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Be called Fire boy  作者: タブル
序章
1/65

#1 あの日の今日に

新作です。

是非最後まで読んでください。

 そんなコトないさ。俺はそう呟いた。そう言うしか出来なかったんだ……

 

 

 

 う、うーん……ぐはぁ! 

 なんだ、この腹への衝撃は……?

 俺はとっさに体を起こそうとするが何故か体が重い。体、といっても胴体だ。なんだ……? 

「おにーちゃん、起ーきーてー! ねぇってばぁ」

「ふあぁ。ああ、お前、俺の上に乗ってると俺が起きれな……」

 ぐふっ! 

 こいつ、俺の上で跳ねやがって。殺す気か……

「起きないと怒っちゃうよー♪」

 なんで楽しそうなんだよ。……こいつは、確信犯だ。

「おにいーちゃーん、いい加減起きないと、」

 身の危険を感じた。

 ───第三波が来る! 

 そう思った俺は慌てて妹を押しのけ立ちあがった。

「お兄ちゃん、もう起きちゃったの? もうちょっと寝てていーのに……」

 どっちだよ! 

 ……ったく。我が妹ながらろくでもない奴だ。

 

 ブツブツ呟きながら俺は朝食のためにリビングへ向かった。

 せっかくの日曜なのに七時前に起こしやがって。俺の妹が起きる理由はテレビにある。今、子ども達の間で話題の『超能力少女ぷりりん☆』に妹も例外なくはまってしまっているのだ。

「ぷりぷり、ぷりりん♪ ぷりりんりん♪」

 小学一年生だからしょうがないのか? 

 

 完全に目も醒めてしまった。テレビを見ながらはしゃいでいる妹を横目に深呼吸。

 ───せっかく早起きしたんだ。ランニングするのもいいかもしれない。そんな朝もいいだろう。

 そう思った俺は、ひとまず顔を洗ってからジャージに着替え、家から飛び出した。

 

 ───その時には既に、長い、長い、永遠のような不幸は始まってしまっていたんだ。

 

 

「───真人!」

 それは家を出てすぐだった。

 まばたき三回。袖で目を擦る。そしてもう一度、目の前を見据える。

 ……やはり、幻聴でも見間違いでもなかった。

 玄関先で絶世の美少女とも形容できるような、同い年くらいの女の子が立っていた。

 黒髪ロング。身長も同じくらい。

 ……誰? 

「聞こえてない。寝ぼけてるの?」

「あっ、ああ。聞こえてる聞こえてる」

 おれは慌てて答える。

「なら、ちゃんと返事くらいしなさいよね。このあたしが貴方に話しかけてあげてるってのに」

「すまん……」

「分かればいいのよ」

「…………っていうか、誰ですか?」

「超能力者とでも言っておこうかしら」

 ……は? 

 なんだ、こいつ。もしかして例の『ぷりりん』の見過ぎか? 

 ───そうか、妹の友達だな? 

「妹ならリビングでぷりりん観てるぞ。呼びにいこうか?」

「あなた、もしかしてバカ? あたしは貴方に用があるの!」

「はい?」

 ますます分からない。

 ……これは悪質なドッキリか? 

「ずっとこのまま繰り返すつもり?」

「だからなんの話だよ」

「……ふっ、どうやらあたしが超能力者って信じてもらえてないようね」

「当たり前だ」

 さっきから言っていることは意味不明だ───

 まったく、なんなんだこいつは。

「今の貴方の心のセリフはこう。『まったく、なんなんだこいつは』でしょ」

 ……! 

 いや、偶然だ。しかし、こいつ……

「はあ、全く、」

「『今日はつくづくついてない』」

「今日はつくづくついてない」

 ……こいつ、先読みしやがった。もしかして、本当に心の中が読めるってのか? 

「そのとおりよ。信じてもらえたかしら?」

「……ま、まあ……。半信半疑くらいにはな」

 信じざる得ないのかもしれないが、なにせ初めての生超能力者だ。信じられないのも無理無いというものだ。

「それじゃ、ちょっと話があるんだけど……」

「なんだ? 話せよ」

「二月のこんな寒い日に外で女の子を立ち話させようっての? あなた本物のバカね」

「うっせえ」

 こいつ、かなり厚着をしてて逆に暑そうなくらいなんだが。

「じゃあ、あがれよ」

「お邪魔しまーす♪」

 部屋まで案内をすると、この自称超能力者は俺が何も言う前に俺のベッドでくつろぎだした。

 なんなんだよ、まったく。

 

 

『ぷりりん♪また来週~』

 どうやらテレビも終わったようだった。

「おにぃーちゃーん! 遊ぼー♪」

 甲高い声がリビングから聞こえてくる。

 俺はいつものように、入ってくる妹のためにドアを……

 ……ん、まてよ……やばいんじゃないか? これ。

 ───ガチャ……

「おにぃ……。えっ、だぁれ?」

「あたしは超能力者よ」

 俺の妹には目もくれず。

 自称超能力者は俺のベッドで横になったまま漫画を片手にそう言った。

「違う! こいつは俺の友達で、その……」

「あたし、貴方と友達なんて関係じゃないわ!」

「おい、語弊がある言い方をするな!」

 ───バタン。

「おかぁぁさぁん! おにぃちゃんがぁ、朝から彼女さんをお家に連れて来てるよぉー」

 ……っ! 

「とりあえず話は外でしよう! 俺の家から出るぞ!」

「まったく、バカなんだから」

「お前のせいだよ!」

 

 俺たちはお母さんに見つからないように、慌てて家から飛び出した。

「はぁ……はぁ、なんだってんだ」

「まったくよ」

 超能力者がふてぶてしく言う。

 いや、お前のせいだから。


「……ん? そういや、お前。名前は?」

「名前って、まさか本気であたしを狙ってるんじゃ……」

「ちげーよ! はぁ、いつまでも『お前』じゃお前もいやだろ?」

「それもそうね。……じゃあ……あたしの名前は石田みすず。字は『美』しいに『鈴』ね。あたしのことは『みーちゃん』って呼んでくれていいわ」

「『みーちゃん』って呼べるほど可愛くねぇよ」

「あら、失礼ね。なら貴方の名前はなんて言うのかしら?」

「俺の名前は遠藤まさと。真実の『真』に『人』って書いて真人……ってお前、最初から俺の名前知ってたよな? 初っ端から呼んで───」

「あ~ら。ま・さ・とって言うの? だっさい名前ねぇ。ありふれてるわ。ダサ男君って呼んでいい?」

「お前、喧嘩売ってんのか?」

「最初に人の愛称をバカにしてきたのは貴方でしょう?  それから、『お前』じゃなくて『みーちゃん』」

「うっ、みー……美鈴でいいか? それだけで綺麗な名前じゃないか」

「うわっ。またあたしを口説こうとして……」

「だから、ちげーよ!」

 やめろ。そんなに身構えないでくれ。

 

 

「───そんで、その超能力者さんが俺に何の用なんだ?」

 とりあえず公園へと歩きながら、話を聞いてやることにした。

「驚かないで聞いてね。いや、むしろすんなり納得して欲しいくらいなんだけど……」

「さっさと話せよ」

「うっ、……。あのね、言いにくいことなんだけど。貴方、一回死んでるの」

「は? 何言ってんだ? 美鈴」

 突然すぎて、か。

 意味不明だ。

「あなたにとって昨日の深夜。覚えてないの? まあ、無理もないか」

「いやいや、ちょっと待て。どういうことだよ! 仮にも俺が昨日死んでいたとして、じゃあ今の俺はなんだ? なぜ今の俺はこうしてここにいる?」

「それが問題なの」

 深刻そうな顔して何を言い出すかと思えば、本当に訳わからん。

 

「……おそらくこの世界には神が存在するの。誰も見たこと無いはずだけど。昨日、貴方は偶然世界の中心にいて、そこで死んだ。いや世界の中心にいたというより、貴方が世界の中心になった、と言った方が正しいかしら。しかし、たぶん貴方は死ぬ間際に明日に何か思い残すことがあった。だからこうして明日の今ここにいる」

「なんだ、じゃあ俺がただラッキーだったっつーことか」

「なにがラッキーよ! 貴方って人はどこまでもバカね。そりゃ貴方にとってだけはラッキーだったかもしれないけど。そう、そのせいで何回も今日を繰り返しているのよ」

「言ってる意味がますます分からん」

「つまりね、昨日の貴方は明日に心残りがあった。しかしそれが今日一日では満たされず何回も何回も今日を繰り返しているのよ。その繰り返される記憶はあたし達超能力者しか保持できないみたい。それでね、私たち超能力者は永遠に明日が来ないんじゃないかと危惧してるってわけ」

「んじゃ、なんだ? 俺が今日一日を満足したら俺は成仏して明日が来るのか?」

「そう。貴方が満足するか、はっきりともう一度死ぬか……」

「何、さらっと恐ろしいこと言ってんだよ!」

 なんで俺、会って間もない女の子から死を勧められてんの? 

「何って、当たり前じゃない。そうなんだから。今まで生かされてることに感謝したらどう?」

「くそう、じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ?」

「それはこっちが聞きたいわ。どうしたら貴方は消えてくれるの?」

「う……。本気で消えてくれって言われたのは初めてだよ……」

 ……

「ちなみに今日が百五十一回目……」

「なにが?」

「今日がやってきた回数よ。いつまで二月九日を過ごせばいいわけ? ねぇ」

「はぁ……」

 もうため息しかでない。

「ま、今日は今までの今日と違ってあたしがいるから今日は今日で終わりよ! 昨日の今日と違って、今日からの明日は今日とは違う明日が来るのよ!」

「あー、もう混乱してきた……」

 混乱してる最中、どうやら公園に着いたようだ。

 子供達が元気に遊んでいる。

 彼らに『僕は死人。彼女は超能力者なんだよ』なんて言ったら何と思われるだろうか。

 

 俺はただこの不思議な物言いの美鈴に乗せられてやることにした。

 自分で自分が不甲斐ない。

 

 

 

「それはそうと、貴方やりたいこととかないの? 鉄棒で逆上がりができるようになりたいとか、友達が三人以上欲しいとか」

「美鈴、俺のことをなんだと思ってるんだよ」

「友達のいない馬鹿以外何があるっていうの?」

 そういうことを言うと思ったぜ。

「願い……か。願い、願い。あぁ、なんとなく腹減ったかもな」

「そうなの? それならそうと早く言いなさいよ! 貴方、意外と早く死んでくれそうね♪」

 なんてこと言いやがる。

「貴方の好きな食べ物は何よ?」

「俺の好物は、……たこ焼き」

「そんなのでいいの? 人生最後の食事になるかもしれないのよ?」

「いいんだよ。それならそれでも」

「ふぅん」

 そうやって俺たちは公園からたこ焼きを買いに行くことにした。

 

 

 ───数十分後。晴天、とまではいかないがよく晴れた青空だった。風は冷たいが日は照って暖かい。

「たこ焼きってお祭り以外にも、意外と手に入るのね。知らなかったわ」

 もぐもぐ……

「今はコンビニでも売ってるもんな。まあ、二月にも関わらずお前『それで、お祭りはどこでやってるの?』って。あれは笑えたぜ」

 もぐもぐ……

「あっ、あれは! あんなに小さい店にあんなに何でも売ってあるとは思わなかったし。常識的に考えなさいよ」

「それはこっちのセリフだ」

 もぐもぐ……

「あっ、もう貴方のたこ焼きあと一コじゃない! よかった……。さっさと食べて世界を救って。奢ってあげた甲斐があったわ」

 もぐもぐ……

「ああ、奢ってもらって、なんか悪いな。慌てて家を出たもんだから」

 そう、慌てて家を出たもんだから当然財布なぞ持っておらず、散々馬鹿にしながら美鈴が金を出してくれたのだ。

 美鈴曰く、

『世界を三百円程度で救えるなら安いものよ』

 とのこと。

 なんとも、まあ、世界も安くなったもんだ。

 

 もぐもぐ……。

「あぁー、美味かった。やっぱたこ焼き最高だったな、美鈴!」

 ───ドゴッ!

「ってぇな! 急に何しやがる!」

 顎に頭突きはないだろっ……

「なんで貴方、消えないのよ!」

 そういうことか。

「知るかよ! んなもん」

「貴方、私の奢りのたこ焼きを食べて満足しないとか……万死に値するわ」

「へいへい」

 いい加減こいつの扱いにも慣れてきたものだ。

 最初はかなり戸惑ったが。

 

 俺達はまた公園に帰って来た。もう昼過ぎだ。

 太陽が雲に隠れて昼なのに肌寒い。

 ええっと何だ? 制限時間はあと十時間くらいか。

「貴方、何が望みなの?」

「わかんねぇよ」

「さっきから貴方の心の中をさぐってるのに、ロクな欲求が見つからないわ」

「人の心の中を勝手に見てんじゃねぇよ」

 新手のプライバシー侵害だ。

「もしかして貴方の中にそんなやましい下心でも……あ、あったけど……。あら不思議。あたしに対しては全然無いのね。なんで?」

「お前な……、自分の言動と行動をよく振り返ってみろ」

「まったく分からなーい」

 てめえな……

「良かった。貴方の思い残しがあの手の欲求じゃなくて」

「それは……ほんと、そうだな」

 俺もホッとした。

 一応、そういう懸念もなかったわけではなかった。

 

「じゃあ、質問の内容を変えるわ。昨日、貴方は明日何をやろうとしていたの? 何をしたかったの?」

「特に何も」

「それじゃ困るのよ」

「俺も今困ってる! 昨日は高二の冬に勉強しなくてどうするのって言われてヘトヘトになるまで一日中友達に勉強させられて、何も考えずベッドに戻ってそのまま寝ちまったんだから。記憶も曖昧だし……」

「その時、貴方は急に心臓麻痺で死んだの。その後の記憶は無くて当然ね」

「まじかよ……」

「じゃあ、貴方は勉強がしたいの?」

「したくはねーよ」

「そう、残念」

「残念だったな」

 俺も美鈴も腕を組んで考える。

 こっちは頭を抱えてもいいくらいだ。

 それなのに───って、あれ……美鈴、なに不思議そうな顔してんだ? 

「……ところで、その……友達、とやら。あたしが組織から貰ったデータには載ってないのだけど。貴方、本当に友達がいるの?」

「また俺を馬鹿にしてんな?」

 こっちは真剣に考えてるってのに。

「いえ、そうじゃなくて。それって夢とかじゃなくて、現実? 本物? 貴方が一方的に友達と思ってるだけとか」

「なんで俺がそんな残念ヤローな設定なんだよ!」

「変ね。上層部には情報に司る超能力者が情報を発信していて、そのデータは絶対なのに」

「猿も木から落ちるってやつか?」

「猿は貴方よ」

「だれが猿だ!」

「……ツッコミも猿並みね」

「なんか言ったか?」

「別に何も」

 

 

 それから小一時間は経過した。

 だんだん雲が増えてきて、どんよりとした空模様だ。

 

 打開策が何も思いつかない。

 このまま放っとけば美鈴はまた時折見せる悲しそうな、困ってる顔をしたまま明日を迎えるのだろうか。

 俺は全てを忘れ、平然とした顔をして。

「じゃあさ、お前が知ってる、その……上層部とやらからの情報を教えてくれないか。俺は立派な当事者だろ?」

「そうね。……だけど大した情報は無いわよ。一、原因は遠藤真人。二、真人は死ぬ寸前世界の中心にいた。三、真人が死ぬか一日に満たされないと明日は来ない。四、真人の死因は心臓麻痺。状況等は不明。五、真人が心を許す人間は家族・親戚のみ」

 一通りすべて聞いた。

 そして俺は思った。

 五つ目の内容が───違う。

 俺は普通の高校二年生で普通に学校に通い、普通に生きてるし、人並みに友達もいる。

「まあ、ただの間違いかもしれないわね」

「だな」

「さて、どうしたもの……ね」

 美鈴は軽く疲れた顔を見せて座りこんだ。

 

 なにか、何か無いのか? ……くそっ! 

 なにか満足できるもの、楽しめるもの、俺が好きなもの……

「じゃあさ、ゲーセン行こうぜ! ゲーセン!」

「なんでそうなるのよ。まあ、貴方が楽しめるのなら行ってあげてもいいけど。この辺にあったかしら」

 

 

 まもなく俺たちは近場のゲーセンに向かって歩いた。

 俺の町の都会度合いは中の上といったくらい。ゲーセンくらいはある。

「ゲーセンってうるさいのね。さっさと消えて欲しいくらいだわ」

「お前の消えろも聞き飽きたよ。ドラムの達人やろうぜ! どうだ?」

「別にいいけど、貴方にリズム感覚はあるのかしら。あまり一緒にいるあたしに恥をかかせないでね」

「任せろっ!」

 ドドンッ! ドドドド……

「意外と上手いじゃない。あたしも負けないわよ!」

 ドドンッ! 

 なんだ。意外と楽しそうだ。連れてきてよかったぜ。

 美鈴は何かを忘れるようにドラムを叩いていた。気持ちをぶつけるように……

 考えこむから良くないんだ。……そうだよな……

 俺はそう自分に言い聞かせた。

 美鈴の表情も変わってよかった。

 ───しかし、こいつ、リズム感覚ゼロだなぁ。

 ……てか、まずルール知ってんのか? こいつ。

 

 

 

 すっかり暗くなり時計の短針はもう八時を指していた。

 朝は雨なんて降るとは思われなかった空も、曇天のまま雨を落とさず保っていた。

 

 俺も考えると帰らないと怒られる身なので、区切りのいいところで帰ることにした。

 帰り道でも美鈴はついてくる。

 まあ、当然か。暗い夜道を女の子一人で歩かせるわけにもいかないしな。

「あー楽しかった! 久々にスッキリしたわ」

「俺もだ。今日はありがとな」

「……ふふふ。───ってなんであたしの方が楽しんでるのよ!」

 ガッ! 

 また頬に頭突き。

 頬はねぇだろ。頬は。

 

「貴方、あと四時間よ。どうするのよ?」

「どうもこうも……ここまでして消えないんじゃ無理なんじゃねーの? また明日チャレンジするとか……」

 ブチッ。そんなキレるような音がした……気がした。

 俺もこの発言は薄々禁句だった気がしてきた。つい漏れてしまったんだ。

「もー! 貴方、ほんっっとにバカ! 少しはその小さい脳みそ使ってみたらどう? バカなんだから使わないの? じゃあ、このまま放っておきたいわけ? 貴方、世界が救われるもう一つの手段を忘れたの? 百五十回も放っといて解決しないんじゃ組織も強行手段に出るに決まってるじゃない! あたしの組織は貴方のように低脳じゃないけど、頭は硬いの! お願いだから、無事に消えて」

 美鈴が本気で怒ったようだった。

「確か今日で百五十一回目だったよな。その強行手段ってお前のことと違うのか?」

 ………………? 

 

「……こんなことは話すつもりなかったんだけど時間も無いし、はぁ、どうせ同じことよね。……ごめんなさい。……言いづらいんだけど、そう、本当は百五十一回目はね……ええと、貴方の抹殺計画だった」

「えっ……」

「組織の殺人エージェントによる……ね。けど、そんなのあんまりじゃない? だから、だからあたしが名乗りでた。『あたしが殺す』、そう言ってね。……けど」

「……けど?」

「……けど、出来なかった。……だって……」

 だって、なんだ? 

 俺は言葉が出なかった。なんだってんだ……

 なんでそんな悲しそうな顔をするんだ。さっきまでゲーセンで笑ってたじゃねえか。

 その時折見せる悲しそうな顔の裏にそんな事情があったなんて……

 バカだ……俺。

 なんで俺、女の子を半泣きにさせてんだよ。

「あたしが失敗した、または裏切った時のために八時半に組織のエージェントが……貴方を殺しに来るわ」

「まじ……かよ……」

「あと五分後ね。恐らく場所も把握されている。もうお終い、最初から無理だったのね……」

 ……ん。

「美鈴、そんなこと俺に話して大丈夫なのか? どうせ殺されるにしても、そんなこと本人に教えていいわけないだろ?」

「……ぐっ。妙な所で感がいいのね。そうよ、禁則事項。あたしも危ないかもしれない。けど、貴方を下手に救おうとしてあたしは失敗した、あたしにも責任くらいあるわよ。真人、このまま何も知らず殺されるなんて可哀想じゃない?」

 美鈴……。

 

 

 八時半ジャスト。後ろの陰から誰か歩いて来る。住宅街のとある道。いつもは誰が歩いてても不思議じゃないんだが……。

 今日は不気味だ。いつ何が出てもおかしくない。そんな危険性を孕んでいるように見えた。

「ハロ~、少年少女達。天国へ連れてってあげに来たよ」

 俺たちは恐る恐る振り向いた。

 痩せ型で金髪、鷹のような鋭い目、魚の様な顔だが頬に刺青、耳にピアス。

 見た目だけでおっかない。なにより雰囲気というか貫禄がある。

 そう、今まで幾多の人間を殺してきたような。

 そんな人間が後ろに立っていた。

「問題のボーイに、裏切りガールなのかな?」

「だったらどうだっていいだろ」

 闘うしかない! 

 そう思って声は出たが足がすくんでピクリともしない。

 やばい、やばい、やばい、やばいやばいやばいやばいやばい。

「あらあら、生まれたての草食動物みたいにしちゃって。ベリーキュートだよ、ええと……遠藤くん?」

 畜生、畜生ぉ! 

 どうすれば、どうすれば……

「やめて! 真人には手を出さないで!」

 美鈴……

「ノー、ノー。ダメだよ、みーちゃん。そんなこと言っちゃあ。元々短くなった命が更に短くなるよ」

「殺したら永遠に明日が来ないかもしれないわよ!」

「そんなの殺してみないとwe can't knowなんだ。みーちゃん」

 美鈴……

「逃げて! 真人ぉぉ!」

 ドゴッ! 

 鈍くて大きな音と共に美鈴が壁に叩きつけられた。

「みーちゃんには失望したなー」

「逃げ……て」

 俺は思わず走り出した。情けない俺は美鈴のそばに行くこともできず、ビクビク逃げ出した。

 あいつが言う『草食動物』のように。

 

 なぁ、美鈴。笑うなら笑ってくれ。俺は昨日まで何も知らない一般人だったんだ。

 超能力だって? 信じられない。そんなものあるわけないじゃないか。そう思っていた。

 なのになんだ、この状況は。

 何故俺が殺し屋に狙われる? 何故俺は必死に逃げている? 

 何故女の子が蹴られている。

 何故その子は半泣きで蹴られている。

 何故その子は蹴られながらも必死に俺を見ている。

 そして……。そして何故俺はそんな中、逃げているんだ? 

 

 

 

「ハァハァ」

「なんで……帰ってきたのよ……」

「オー……問題ボーイ戻ってきたのかい? 俺も四人の上級超能力者の一人。ボーイの位置くらい帰って来ずとも感覚で分かるのに~」

「うっせえよ!」

「あぁん? 口のきき方に気を付けな。俺はいつでもボーイを殺せるんだよ〜」

「これ以上……俺の友達に手を出したら許さねぇぞ!」

「ふっ……、ふふ。やはり……、ボーイから殺すことにするよ」

「真人!」

 俺は咄嗟に花火を取りだした。

 

 

 ゲーセンに行った時、美鈴は一台もゲーム機器を知らなかった。

 あまりに美鈴は知らな過ぎた。

 結局かの有名な、誰でもできるドラムの達人を一から教えたのだ。

 コンビニにたこ焼きを買いに行った時もそうだ。アレはなんだ、コレはなんだと当たり前のモノを指さしては俺に問いただした。もう店内では恥ずかしくて大変で。

 超能力者は極度の世間知らずだったのだ。

 だから俺は一旦家まで走り、物置の中から使えそうなモノを引っぱりだしてきた。

 

 

「どうだ、俺は炎の超能力者だ」

 我ながら残念過ぎるハッタリである。

 だが、やはり効果は抜群だった。

「ゥワァオ……組織はボーイを一般人と言ってたはずだが? コレは相性が悪い。慎重にいかないと。……おっと、熱いねぇ」

 一瞬触れて、すぐに飛び退く。

 意外とこいつバカなんじゃ……

「オー、ボーイが炎なら俺はWOODなんだよ! 身体の一部を木製に変えたり、木を生やしたり。はぁ、逆境ねぇ」

 言って男はため息をついた。

 ───奴にはそんな能力が……

 ハッタリも長くは持たない。こうなったら……

 今度はロケット花火とネズミ花火に火をつけ、ロケット花火を奴に飛ばした。

「貴様ァ……」

 俺は走った。奴が追いかけてくる。

 今は何時だ? ───十時。あと二時間、二時間の内に奴をなんとかしないと、記憶無し男の俺が殺される! 

 ……いや。俺は殺されてもいい。しかし美鈴がっ! 

 なんとかしないと……

 とりあえずこうやって逃げ続け、美鈴から離すしか……───

 

 俺は走った。隠れた。花火を投げた。

 さっきとは違う。今は逃げることで戦ってるんだ。

 走って走って走って、そして逃げ回った。

 

 

 ───そうしてどうにも出来ず、無情にも花火は底を尽きた。

 ザーー…………───

 ───とうとう怪しかった天気も雨が降り出した。

 

 

 

 

 ───俺はからくも美鈴の所までもどった。

 今は何時だ? 

 十一時五十七分。ははっ、なんてこった……

「あたしなんて……放っといて。……猿に気遣われるほど……惨めなことはないわ……」

「よく言うぜ」

 

 ピチャ……、ピチャ……

「ボーイ、もう終わりだよ。ここで殺されて終わりさ」

「させないわ……。貴方の心の中……今……、とても慌ててる。なにかを恐れてるんじゃなくて?」

 美鈴が立ち上がる。

「ははっ、怖いなぁ、みーちゃんは。流石は心専門の超能力者だ。みーちゃんがいなくなると思うと残念だよ」

「冗談じゃねぇ。俺の友達に手ぇ出すな!」

「終わりまであと十秒ね。九、八、七……」

「オー……。もうそんな時間かい? みーちゃん」

 どこからか、低い音が聞こえてくる。

 急に奴の手が茶色く大きくなって──────

「ボーイ、いい加減死にな……」

 その瞬間、美鈴が俺の足を引っ張った。

 俺は転び、間一髪奴の攻撃をかわしたようだった。

 ドゴゴゴゴゴッ……

 奴の手が木から人の手へと戻っていく。

「二、一、……きた!」

 カウントダウン。

 美鈴が、その終わりの刻と叫んだ。


「……おい、金髪ヤロー 俺が相手だ!」

 俺も敵に向かい叫ぶ。

「えっ……」

 超能力者の二人がおもむろにケータイを取りだした。

 二月十日。

「そうか、そういうことか。じゃ、俺の回復魔法みーちゃんにかけといてやるよ。じゃあな、問題ボーイ&みーちゃん」

「おい、どこへ行く! ちょっ───」

 美鈴が腕をつかんで俺を止める。

 そしてそのままエージェントは闇に消えていった。

 

「どうしたんだよ?」

「あっ、組織からメールが……。あ、そうそう、もう十二時過ぎたわよ」

「それがなんだって……。あっ! どういうことだよ、それ!」

 また意味が分からない。

「組織の、……というより、さっきの彼のね、報告によると、貴方の願いは『友達を作ること』だった。それが石田美鈴の功績により達成。明日を迎えられた。……んだって」

 ……は……。

「待てよ、それだけかよ。俺の願いって、そんな」

「貴方には最初から友達なんていなかったの。ひとりぼっちだったのよ。そしてそのまま死んだ。だからこうなったのね」

「いや、俺には友達が……」

「そんな人間は存在しないわ。少なくとも貴方が生き返る瞬間、一度死んだ貴方を生きた貴方にする。世界が改変されるのよ。その時、貴方の希望通り友達が作られたのでしょうね。記憶の中にだけだけど」

 そんな……

「そんなことって……」

 俺は茫然とした。

「あとお知らせが一つあるわ」

 これ以上なんだよ。

「改変された世界は元に戻らないみたい。つまり貴方は貴方のままよ。報告にはそう書いてあるわ。良かったわね」

 言葉がでない。ただ喜んでいいのは確かだ。

「何か言ったらどう?」

「すまなかった。それと……ありがとう」

「あたしもごめんなさい。お猿さんにたくさん迷惑かけたわね」

「そんなことないさ」

 そう呟くことしかできなかった。

 なんだ、これ……。

 

 雨が止んだ。月は隠れたままだ。この天気、きっと晴れていたら虹がかかったことだろう。

 ……いや、夜に虹はかかんねえな。はは……

 体中怪我だらけだ……、いてぇ。

 女の子におぶられて、かっこわりぃな……

 でもきっと、夜でも、こんな状況でも、虹がかかったら綺麗なんだろうなぁ。

 

 

 いつの間にか俺は自分の布団の中で寝ていた。

 どうやら美鈴が送ってくれたらしい。

 どうやって布団まで、恐らくそれは超能力者特有の仕様だろう。

 まるで幻みたいな一日だった。

 

 二月十日の朝だ! 

 実感はないけど久々の明日らしい。

 

 シャー……

 カーテンを開けるとまるで幻のような……

「なぜベランダにお前がいる?」

「真人。あたしは功績があったとはいえ、軽く組織を裏切ったのよ。……罰として、学校に通う羽目になったし。家もない。全部貴方のせい……」

「はあ⁈ なんでだよ! だからって急に俺の家に来ても」

「ふっ、所詮貴方の家じゃない。別に一人増えた所でいいじゃない。それに貴方、巨木の超能力者を退けた炎使いとして有名になってるわよ。そういう人ってよく暗殺されるのよねぇ。あたしが守ってあげないと、ヘタレの貴方がどうなるか」

 

 ───ガチャ。

「お兄ちゃん、朝だよぉ! ……誰かいる……の?」

 チラッ。

 ───バタン。

「おかぁぁさぁん。お兄ちゃんがぁ、また朝から彼女さんを、連れてきてるよぉー!」

 なっ! 

「ふっ、マヌケね」

「お前のせいだ」

 

 

 はぁ……やれやれ。

 どうやらまだ俺は、平穏な生活には戻れないようだ。

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