第63話『ハヤトの選択』
俺たちの新しい旅立ちの意思は固まった。
オーディンは「うむ、頼もしい限りだ」と満足げに頷き、拓也は「……ありがとう」と、ただそれだけを伝えてきた。
二人の姿は、やがて光の中に再び溶けるように消えていった。
どうやら彼らが地上に長く顕現しているのは、まだ難しいらしい。
「さて、と」
レオンが眼鏡の位置をくいっと直した。
「まずは情報収集ですな。初代調整役様から最初の『クエスト』の詳細を伺わなければ。世界のどこで、どんな『バグ』が発生しているのか……」
「その前に、腹ごしらえだろ!」
俺がそう言うと、ポポロが「さんせーい!」と元気よく手を上げた。
アリアも「……それもそうだな」と少しだけ笑った。
俺たちの間には、もう以前のような重い空気はなかった。
これから始まる途方もない冒険。
その始まりに、俺たちは確かにワクワクしていた。
そんな俺たちの和やかな雰囲気を切り裂くように、冷たい声が響いた。
「―――ずいぶんと楽しそうじゃないか。負け犬たち」
その声に俺ははっとして振り返った。
少し離れた丘の上に、一人の男が立っていた。
黒髪に鋭い目つき。
ハヤトだった。
彼の体はまだ俺との戦いで負った傷が癒えていないようだった。
だが、その瞳には以前のような空虚な色はなかった。
そこには新しい獲物を見つけた、飢えた狼のようなギラギラとした光が宿っていた。
「……ハヤト」
「お前たちの話は聞こえていた」
彼はゆっくりと丘を下りてくる。
「世界のシステムが変わった、そうだな。調整役だと? そいつが直々にクエストを依頼してくる、だと?」
彼は俺の目の前で足を止めた。
そして、ふっと不敵に笑った。
「……面白い」
彼はただ一言、そう言った。
その顔は俺が初めて見る、心の底から楽しそうな笑顔だった。
まるで最高にやりごたえのある新しいゲームを見つけてしまった子供のような。
「システムのルールが変わったのなら。
新しいルールで最速を目指すまでだ。
調整役(運営)が直々に依頼してくる公式のメインクエスト……。
その最速クリア記録は、俺がいただく」
彼はやはり、彼のままだった。
世界の平和のためでも、誰かのためでもない。
ただ己の記録のため。
「最速」という、ただ一点のためだけに彼は戦うのだ。
だが、その瞳にはもう以前のような孤独な冷たさはなかった。
そこにはケンタという好敵手を得て、この新しいゲームを心から楽しもうとする、一人の「プレイヤー」の顔があった。
「ケンタ。お前には負けん」
「……望むところだ」
俺たちはどちらからともなく、拳を突き出した。
ゴツンと固い音が響く。
それはもはや敵意の応酬ではなかった。
同じゲームを愛するプレイヤー同士の、健闘を誓い合う挨拶だった。
彼はそれだけを言うと、俺たちに背を向けた。
「俺は俺のやり方でやる。お前たちとは違うルートでな。
……せいぜい俺の記録更新の、引き立て役になるがいい」
そう言い残し、彼は風のように去っていった。
敵でもない。味方でもない。
ただ競い合うライバル。
この新しい世界で、俺たちはまた何度も彼と顔を合わせることになるだろう。
そう思うと、なんだか少し嬉しかった。
第63話を更新しました。
物語も、いよいよ、大詰めです。
そこに現れたのは、ライバル勇者、ハヤト。
彼もまた、この、新しい世界の、新しい「ルール」を、受け入れ、そして、彼なりの、新しい目的を、見つけ出したようです。
「最速クリア記録は、俺がいただく」
相変わらずの、彼らしい、ブレない目的ですね(笑)。
でも、彼の表情は、以前とは、明らかに、違います。
孤独な、攻略者から、ゲームを、心から楽しむ、「プレイヤー」へ。
ケンタとの、あの泥だらけの戦いが、彼の、何かを、変えたのかもしれません。
敵でも、味方でもない、好敵手。
彼の存在は、これからの、ケンタたちの旅を、より、面白く、スリリングなものに、してくれることでしょう。
物語は、残すところ、あと一話。
次回、ついに、最終話。
彼らの、新しい旅立ちを、ぜひ、見届けてください。
お読みいただき、ありがとうございました。




