第61話『初代調整役(ファースト・モデレーター)』
システムと一体化した佐藤拓也。
そして地上に不完全なアバターとして顕現した、知恵の神オーディン。
二人の規格外の存在を前に、俺たちはただその言葉の続きを待っていた。
`―――俺は、この世界の新しい『理』となった`
拓也の思念が俺たちの脳内に響く。
`―――オーディンたち穏健派の神々は、俺をこう呼ぶ。『初代調整役』、と`
調整役。モデレーター。
それはネットの掲示板やコミュニティで、秩序を維持し荒らしや不適切な投稿を管理する者の呼称。
なるほど、今の彼にはぴったりの役職名だった。
`―――俺はこのシステムの中心核から神々の過剰な干渉を防ぎ、世界の法則が崩壊しないように常にバランスを取り続けなければならない。それが俺の新しい役目だ`
「……とんでもない大役だな」
俺は思わず呟いた。
彼は本当に神にも等しい存在になってしまったのだ。
孤独な世界の監視者に。
`―――だが、今の俺はまだ不完全だ`
拓也の声にもどかしさが滲む。
`―――システムが不安定すぎる。俺の力だけでは世界の隅々で発生しているバグ(歪み)を、すべて修正することができない。俺はここから動くことができないからだ`
「そこでお主たちの出番というわけだ」
オーディンが槍を地面にこつんと突いた。
「我々神々も、もはや以前のように自由に地上に力を及ぼすことはできん。拓也殿が防波堤になっておるからな。我々が地上で唯一、明確に意思を疎通し、力を貸すことができるのは我々と特別な繋がり(パス)を持つ勇者……つまりお主たちだけなのだ」
そういうことか。
俺たちがこの新しい世界で唯一、神々と、そして世界の管理者と直接対話できる存在。
だから俺たちの前にこうして現れたのか。
`―――頼む、ケンタ`
拓也の声が切実に響いた。
それはもはや魔王の声でも神の声でもない。
一人の仲間としての、切実な願いの声だった。
`―――俺はもう、ここから動けない。
だから、頼む。
俺の『目』となり、『手足』となって、この新しい世界を俺と一緒に守ってくれないか`
それは依頼だった。
神々からの一方的な「召喚」や「命令」ではない。
対等な仲間からの依頼。
俺たちにこの世界の未来を委ねたいという、信頼の言葉。
俺は返事をする前に、後ろにいる仲間たちを振り返った。
アリア。レオン。ポポロ。
三人は黙って俺の顔を見ていた。
その目にはもう迷いはなかった。
答えはもう決まっている。
そんな目をしていた。
俺は再び拓也とオーディンに向き直った。
そしてにやりと笑って言った。
「……いいぜ。乗ってやるよ、そのクソ面倒くさそうな依頼」
俺は右手を差し出した。
もちろん半透明な拓也には触れることはできない。
だが、気持ちは伝わるはずだ。
「ただし、ただ働きはごめんだぜ、初代調整役様?
報酬はちゃんと用意してくれるんだろうな?」
俺の軽口に、拓也の揺らめく輪郭がふっと笑ったように見えた。
`―――……ああ。もちろんだ。最高の冒険を約束する`
俺と初代勇者の間に、新しい「契約」が交わされた瞬間だった。
第61話を更新しました。
拓也の、新しい役職。
それは、「初代調整役」でした。
彼は、自らが望んだ通り、神々と世界の間に立つ、防波堤となりました。
しかし、その力は、まだ不完全。
そこで、彼は、ケンタたちに、依頼をします。
自分の「目」となり、「手足」となって、この新しい世界を守ってほしい、と。
それは、もはや、神々の娯楽のための冒険ではありません。
世界の管理者から、直接、依頼される、公式の「クエスト」。
ケンタも、その依頼を、彼らしい、軽口を交えながら、引き受けましたね。
二人の勇者の間に、新しい、対等な、絆が生まれた瞬間です。
さて、この無茶な依頼を、仲間たちは、どう受け止めるのか。
次回、それぞれの、新しい旅の、目的が、語られます。
お読みいただき、ありがとうございました。




