第59話『変質した世界』
頭の中に響く神々のノイズ混じりの声。
彼らとの繋がりがまだ続いていることを知った俺は、少しだけ複雑な気分だった。
完全に自由になったわけではないのかという失望。
そして、まだ独りぼっちではないのだという、ほんの少しの安堵。
そんな矛盾した感情を抱えながら、俺は仲間たちを探して広大な草原を歩き始めた。
「アリアー! レオーン! ポポロー!」
何度も叫んだ。
どれくらい歩いただろうか。
太陽が真上から少しだけ西に傾き始めた頃、丘の向こうに人影が見えた。
三つの見慣れた人影。
「みんな!」
俺は全力で走った。
向こうも俺に気づいたようだった。
アリアが手を振っている。
レオンが眼鏡の位置を直している。
ポポロが「お兄ちゃーん!」と叫びながら、こちらへ走ってくる。
俺は駆け寄ってきたポポロを思い切り抱きしめた。
その小さな体の温かさに、心の底からほっとした。
「……よかった。みんな、無事だったんだな」
「当たり前だ。貴様こそ、どこをほっつき歩いていた」
アリアはぶっきらぼうにそう言ったが、その目元は少しだけ赤くなっているように見えた。
「やれやれ。どうやら我々はバラバラの場所に転送されてしまったようですな。私もつい先ほど、お二方と合流したところですよ」
レオンはいつも通り冷静に状況を分析していた。
俺たちは再会を喜び合った。
だが、すぐにこの世界の異変に気づき始めた。
「……なあ、あれ、なんだ?」
俺が空を指差す。
青く澄み渡っていたはずの空に、いつの間にか巨大な虹色の帯がかかっていた。
オーロラのようにも見えるが、それにしてはあまりにも禍々しい。
まるで空に巨大な亀裂が入って、その向こう側の異次元が漏れ出しているかのようだった。
「……凄まじい魔力の残滓です」
レオンが険しい顔で呟いた。
「先ほどのあの光……システムの再構築の余波が、世界の法則そのものを歪めてしまっているのかもしれない」
その時。
近くの茂みがガサガサと大きく揺れた。
俺たちは咄嗟に身構える。
茂みから現れたのは、一匹の奇妙な魔物だった。
体は兎のようだが、背中からは魚のヒレが生え、頭には鹿のような角が何本も生えている。
そんな魔物、見たことも聞いたこともない。
「……なんだ、こいつは」
「分かりません。私の知識にも該当する生物は……。まるで複数の生物のデータを無理やり一つに合成したかのような……」
その兎もどきは俺たちを見ると、キィィ!と甲高い声で鳴き、口から火の玉を吐き出してきた。
アリアが盾でそれを弾く。
「……システムの、バグ」
俺はぽつりと呟いた。
そうだ。
これはバグだ。
急激なシステムのアップデートによって生まれた、世界のエラー。
この世界は平和になったわけではなかった。
ただ、脅威の「質」が変わっただけなのだ。
魔王という分かりやすい脅威から、もっと混沌とした予測不能な脅威へと。
俺たちはその奇妙な魔物をなんとか協力して倒した。
大した強さではなかったが、その存在そのものが俺たちにこの世界の不安定さをまざまざと見せつけていた。
これからどうなるんだろう。
この世界は。
俺たちは。
そんな漠然とした不安が俺たちの心を包み込んだ、その時だった。
俺たちの目の前の空間が、まるで陽炎のようにゆらりと歪んだ。
そして、そこから光の粒子が集まり、二つの人影が現れようとしていた。
第59話を更新しました。
仲間たちとの、感動の再会。
しかし、喜びも束の間、彼らは、この世界の「異変」を、目の当たりにします。
空に走る、禍々しい亀裂。
そして、ありえない姿の、魔物。
システムの再構築は、世界に、平和ではなく、新たな「混沌」をもたらしてしまったようです。
「バグ」という表現が、この状況を、的確に表していますね。
これからどうなるのか、と、彼らが不安に思った、その時。
目の前に、新たな来訪者が、現れます。
一体、誰が、彼らの前に、姿を現すのか。
次回、物語は、新しいステージへと、大きく、動き出します。
お読みいただき、ありがとうございました。




