第5話『ぎこちないパーティ』
訓練場に重い沈黙が落ちていた。
俺はアリアに剣を突きつけたまま、どうすればいいか分からずに固まっていた。彼女もただ悔しそうに唇を噛み締め、俺を睨みつけている。
気まずい。気まずすぎる。
この膠着状態を破ったのは、アリアの方だった。
「……殺せ」
「は?」
「騎士は決闘に敗れれば死を選ぶ。それが誇りだ。さあ、やれ」
彼女はまっすぐな目で俺を見ていた。冗談やその場しのぎの言葉じゃない。本気だった。
【神託】:え、マジで言ってる?
【神託】:ここで殺したら話が終わるだろw
【神託】:ここは騎士の誇りを尊重して……やるわけねーだろ!
【神託】:軍神マルス:殺せ。
軍神マルス、あんたは黙っててくれ。
俺は喉元に突きつけていた剣をゆっくりと下ろし、彼女の上からどいて立ち上がると、手を差し伸べる。
「……何言ってんだよ。ただの腕試しだろ。立てよ」
アリアは俺のその手を見つめたまま、しばらく動かなかった。
やがて彼女は俺の手を取らず、自力でゆっくりと立ち上がった。服についた砂をぶっきらぼうに手で払う。
「……なぜ殺さなかった」
「いやだから、なんで殺すんだよ。おかしいだろ」
「……」
アリアは何も言わなくなった。ただ、何かを深く考えているような顔で、俺の顔と、俺が捨てたはずの剣と、足元の砂を交互に見ている。
何を考えているのかさっぱり分からなかった。
そして彼女は不意に、俺の前で片膝をついた。
「な、なんだよ」
「騎士アリア・フォン・エルシュタイン、我が敗北を認め、今日この日より我が剣を貴方に捧げることを誓う」
「はああああ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
何がどうしてそうなった?
【神託】:チョロインきたああああwww
【神託】:展開はえーよ!
【神託】:これが吊り橋効果ってやつか(違う)
神々は、この急展開を大いに楽しんでいるようだった。
俺だけが全く状況を理解できていない。
「いや、いい! いらない! 剣とか捧げられても困る!」
「そういう訳にはいかない。これは騎士の誓いだ」
「あんたの騎士道とか知らないから! 俺は一人で……」
「貴方の戦い方、常軌を逸している」
アリアは俺の言葉を遮って静かに言った。
「あの状況で剣を捨てて砂を掴むなど、常人には思いもつかない発想だ。それはきっと、神々が貴方に与えたもうた奇跡の戦術……『神託』なのだろう」
ご名答。
というか、この世界の人たちは結構「神託」という言葉を普通に使うんだな。
「私には貴方のような発想はない。だが私の剣は、貴方の神託を遂行する刃となることができるはずだ。だからそばに置け。勇者には騎士の助けが必要だろう」
彼女は驚くほど真剣な顔で言った。
こいつ、俺のあの卑怯な戦い方を何かすごい戦術だと勘違いしてやがる。
どう説明すればいい?
「いや、あれは神様がやれって言ったから……」なんて言っても信じてもらえないだろうし、信じられたら信じられたで話がややこしくなる。
俺がどう断ろうか悩んでいると、アリアはすっと立ち上がった。
「決定だ。異論は認めん」
「理不尽!」
こうして、半ば強引に俺の最初の仲間が決まった。
女騎士アリア。
その日の夜。
俺たちは宿屋の安い部屋で、一つのテーブルを挟んで夕食をとっていた。
会話はない。
聞こえるのは、俺が硬いパンをかじる音と、アリアがスープをスプーンですする音だけ。
アリアは時々、ちらちらと俺の方を見ている。
俺が何もない宙に向かって視線を動かしたり、眉間にしわを寄せたりするのを、不思議そうに観察している。
今も、俺の脳内では神託が飛び交っている。
【神託】:気まずいw
【神託】:なんか喋れよケンタ
【神託】:とりあえずアリアの好きな食べ物でも聞いとけ
やかましい。
こんな重い空気の中で、そんなこと聞けるか。
沈黙がとにかく重かった。
これからずっとこんな調子で旅をするのだろうか。
そう思うと、胃まで重くなってきた気がした。
第5話を更新しました。いつもありがとうございます。
アリアさん、まさかの仲間入りです。
ケンタの目潰しを「神託による奇跡の戦術」と壮大な勘違いをしてくれちゃいました。
真面目な人ほど、こういう変な思い込みをしがちですよね。……え、しない?
そして、早くも訪れた気まずい食事シーン。
この二人、大丈夫なんでしょうか。前途多難なパーティの船出です。
私、こういうぎこちない空気感、書くの結構好きです。
神様たちも、二人の仲をどうにか進展させようと(?)色々チャチャを入れていますが、ケンタには届いているのやら。
次回、初めての共同作業。
二人の距離は、少しは縮まるのでしょうか。
お楽しみに!




