第49話『システムへの反逆者』
魔王城への道は険しかった。
大地は枯れ、空は常に暗い雲に覆われている。強力な魔物がひっきりなしに俺たちに襲いかかってきた。
だが、俺たちの足取りは不思議なほどに軽かった。
迷いが消えたからだ。
アリアは俺の盾となり、レオンは俺の目となった。ポポロとグリは、俺たちの心を温めてくれた。
俺たちはかつてないほど一つのチームとして機能していた。
【神託】:なんか吹っ切れてからの方が、パーティの連携良くなってないか?
【神託】:迷いが消えたからだろうな。見てて清々しいわ
【神託】:でも、この先大丈夫なのか? 神々の加護なしで……
神々の憂慮をよそに、俺たちはついに遥か彼方にそびえ立つ黒い城の姿を捉えた。
魔王城。
歪んだ塔が天を突くように、威圧的にそびえ立っている。
あの城の頂上に、佐藤拓也が待っている。
魔王城へと続く最後の一本道。
その道のど真ん中に、一人の男が立ちはだかっていた。
黒髪に、鋭い目つき。
ハヤトだった。
彼はまるで俺たちがここに来るのを正確に予測していたかのように、そこで静かに待っていた。
「……お前たちがここに来ることは、予測していた」
ハヤトは俺たちに背を向けたまま、魔王城を見上げながら言った。
「感傷に浸り、非効率な寄り道をし、ようやくここまでたどり着いたか。ご苦労なことだ」
「……お前も、魔王を倒しに来たのか」
俺が問うと、ハヤトはゆっくりとこちらに振り返った。
「当然だ。魔王討伐は、このゲームの最終目標。最速でクリアするのが俺のやり方だ」
彼はまだ、この世界を「ゲーム」と呼んでいた。
初代勇者の悲劇も、この世界の欺瞞も、彼にとってはただの「設定」か「イベント」に過ぎないのかもしれない。
【神託】:ここでハヤトと鉢合わせか!
【神託】:どうなるんだ!? 共闘か? それとも……
【神託】:いや、こいつらの思想は水と油だぞ
神々の予想通り、ハヤトは俺たちに冷たい視線を向けた。
「……そうか。お前は気づいてしまったのか。この世界の余計な『設定』に」
「余計な設定だと?」
「そうだ。初代勇者の悲劇だの、世界の解放だの……そんなものはゲームの進行には何の関係もない、ただのフレーバーテキストだ。そんなものに惑わされるとはな。やはり、お前はプレイヤー失格だ」
彼は全てを知っていた。
賢者の塔の記録も、リリスの囁きも、彼もまたたどり着いていたのだ。
だが、彼の結論は俺とは真逆だった。
彼は、その真実を「無視する」ことを選んだのだ。
「俺はシステムに従う。それがこのゲームの唯一絶対のルールだ。ルールの中で最速で最高の結果を出す。それが勝者の在り方だ」
ハヤトはゆっくりと腰の剣を抜いた。
その剣は禍々しいほどの暗い光を放っている。
「そしてお前は、そのルールから逸脱しようとしている。魔王と『話す』だと? そんなイレギュラーな行動は許されない」
彼の冷たい目が、俺を断罪するように見据えた。
「―――お前は、このシステムに対するただのバグだ。
―――魔王城へ行きたくば、まず俺を倒していくがいい。バグは、ここで修正する」
彼の体から凄まじい殺気が放たれる。
それはもはや人間に向けられる殺気ではなかった。
ゲームの進行を妨げる邪魔なオブジェクトを、ただ排除しようとする冷たい無機質な意志。
俺は仲間たちに目配せした。
「こいつは俺がやる。お前たちは、手を出すな」
「しかし、ケンタ殿!」
「これは、俺たち勇者同士の問題だ」
アリアは悔しそうに、しかし俺の意志を尊重して一歩後ろに下がった。
俺は剣を抜き、ハヤトと対峙した。
魔王城を目前にして。
二人の勇者が、今、刃を交えようとしていた。
第49話を更新しました。
魔王城、目前。
そこでケンタたちを待っていたのは、魔王軍ではなく、もう一人の勇者、ハヤトでした。
彼もまた、世界の真実にたどり着いていた。
しかし、彼が選んだのは、その真実を「無視」し、あくまで「システム」のルールの中で、勝者となる道。
そして、そのルールから外れようとするケンタを、「バグ」と断じ、排除しようとします。
同じ真実を知りながら、全く逆の結論に至った、二人の勇者。
彼らの戦いは、もはや、ただの強さ比べではありません。
この理不尽な世界と、どう向き合うのか。
その、「生き様」そのものの、ぶつかり合いです。
次回、ケンタ対ハヤト。
勇者同士の、決闘が始まります。
お読みいただき、ありがとうございました。




