第48話『魔王城への道』
俺たちは魔王城を目指し、北へと旅を続けていた。
パーティの絆はかつてないほど強く、固く結ばれていた。
神にも魔王にも与しない、第三の道。
その前途多難な旅路を、俺たちは不思議なほどの明るさで進んでいた。
神々の【祝福】や【恩寵】は、もうない。
俺たちは自分たちの力と知恵と、そして仲間との絆だけを頼りに進まなければならなかった。
旅の途中、俺たちは一つの奇妙な遺跡にたどり着いた。
荒野の真ん中にぽつんとそびえ立つ、古い祠。
その入り口は一体の巨大なゴーレムによって、固く閉ざされていた。
「……なんだ、あれは」
「古代文明の番兵ゴーレムですな。文献でしか見たことがありませんでしたが……まさか実在したとは」
レオンが興奮した様子で呟く。
ゴーレムは全身が未知の黒い金属で覆われており、その表面には淡く青い光を放つルーン文字が刻まれている。
アリアが試しに剣で斬りかかってみたが、キィン!と甲高い音を立てて弾き返されただけだった。
俺の剣も、レオンの魔法も全く歯が立たない。
「……どうする、ケンタ殿。こいつは我々の手に負える相手ではないぞ」
アリアが悔しそうに言う。
確かにこのゴーレムの硬度は異常だった。
神々の特別な加護や規格外の【恩寵】でもなければ、突破は不可能に思えた。
【神託】:うわ、こいつ硬すぎだろ
【神託】:物理も魔法も効かないって、どうすんだよ
【神託】:知恵の神オーディン:……ふむ。あれはただのゴーレムではないな。あれ自体が、一つの巨大な『封印』だ。おそらく、初代勇者が仕掛けたものだろう
オーディンの神託。
初代勇者、佐藤拓也が仕掛けた試練。
だとしたら、必ずどこかに攻略法があるはずだ。
神々の力に頼らない、攻略法が。
俺たちは一度距離を取り、作戦を練った。
「レオン、あの青く光るルーン文字。あれは読めるか?」
「……古代すぎて完全には。ですが、おそらくゴーレムを制御している制御核の位置を示しているものと思われます」
「制御核……。そこを破壊すれば倒せる、と?」
「おそらく。ですが、その核はこの分厚い装甲の内側にあります。どうやってそこまで攻撃を……」
その時、ポポロが小さな声で言った。
「……ねえ、お兄ちゃん。あのゴーレムさん、時々胸のところが、ぱかって開いてるよ?」
「え?」
俺たちは改めてゴーレムの動きを観察した。
確かにポポロの言う通りだった。
ゴーレムが腕を振り上げるなど大きな動作をする、ほんの一瞬だけ。
胸の中心にある装甲板がわずかにスライドして、内部の青い光が漏れ出している。
あそこだ。あそこが弱点だ。
だが、その隙はコンマ数秒にも満たない。
どうやってあの一瞬を突く?
答えは一つしかなかった。
俺たちの、完璧な連携。
「……よし、作戦はこうだ」
俺は仲間たちに囁いた。
「アリアが正面から奴の注意を引きつける。
レオンは魔法で俺の足を加速させろ。
ポポロとグリは陽動だ。奴の視界の左右でちょろちょろと動き回って、注意を散漫にさせろ。
そして俺が、奴の胸が開くその一瞬を突く」
無謀な作戦だった。
タイミングが少しでもずれれば、俺はゴーレムに握りつぶされて終わる。
だが、仲間たちは誰一人反対しなかった。
ただ黙って頷いた。
俺を信じてくれているのだ。
作戦は開始された。
アリアが雄叫びを上げてゴーレムに斬りかかる。
ポポロとグリがその周りをすばしっこく飛び回る。
ゴーレムが鬱陶しそうに腕を振り上げた。
―――今だ!
レオンの風の魔法が俺の背中を押す。
俺の体は矢のように加速した。
すべてがスローモーションに見えた。
ゴーレムの胸の装甲が、わずかに開く。
その奥に青く輝く制御核が見える。
俺は持っていた剣を槍のように構え、その一点だけを目指して突き出した。
ズブリ、という鈍い手応え。
俺の剣は、確かに制御核を貫いていた。
ゴーレムの青い光が急速に色を失い、やがてその巨体は動きを止め、がらんという大きな音を立てて崩れ落ちた。
俺たちは、勝った。
神々の加護なしで。
ただ、俺たちの絆の力だけで。
俺たちは互いの顔を見合わせ、そして誰からともなく笑い合った。
祠の中には小さな祭壇があった。
そして、その上には一枚の古びた護符が置かれていた。
レオンがそれを手に取る。
「……これは凄まじい魔力が込められていますな。おそらく……神々の観測を一時的に妨害する効果があるようです」
佐藤拓也が遺した、神々へのささやかな抵抗。
そして、後に続く者への贈り物。
彼は絶望の中にあっても、まだ未来を諦めてはいなかったのだ。
俺は、その護符を強く握りしめた。
あんたの意志、確かに受け取ったぜ、先輩。




