第47話『信じるもの』
宿屋のホール。
俺の決意を聞き、レオンとポポロはついてきてくれると言った。
残るは、アリア。
彼女は俺の目の前に立ち、その鋭い瞳で俺の覚悟を値踏みするように見据えていた。
固唾をのんで、俺は彼女の言葉を待った。
やがて彼女は、ふぅ、と一つ長い息を吐いた。
そして、その口から紡がれたのは、俺が予想していたどんな言葉とも違うものだった。
「……お前の、その目」
彼女は静かに言った。
「初めて会った時とは、違うな」
「え……?」
「初めて会った時の貴様は、もっと何かに怯えたような、頼りない目をしていた。自分のことなのに、どこか他人事のような、そんな目を」
俺は何も言えなかった。
彼女には最初から見抜かれていたのかもしれない。
俺が、この世界の当事者になりきれていない、ただの傍観者だったことを。
「だが、今の貴様の目は違う」
アリアは続けた。
その声には不思議なほどの力強さがこもっていた。
「自分の進むべき道を自分で決めた者の目だ。たとえそれがどれだけ困難な道であろうとも、決して揺るがないという覚悟の目だ」
彼女はすっと、俺の前に跪いた。
騎士が主君に忠誠を誓う時の、あの礼。
俺は驚いて、彼女を止めようとした。
「おい、アリア! 何を……」
「黙って聞け」
彼女は俺を制した。
そして顔を上げ、俺の目をまっすぐに見つめながら、宣言した。
「お前の神託が何を言おうと知らん。神々がお前をどう評価しようと、知ったことではない」
「―――私は、お前を信じる」
その言葉は、雷のように俺の心臓を貫いた。
信じる。
彼女が信じるのは、俺に神託を与える神々でも、俺が持つ勇者という称号でもない。
ただ、俺自身。
鈴木健太という一人の不完全な人間を、信じると彼女は言ったのだ。
「私の剣は、もはや国のためでも、騎士団の誉れのためでもない。
私が信じた主君、ケンタ。
貴様が切り拓く道のためだけに、振るおう」
なぜだろう。
視界が急に滲んだ。
熱いものが目頭からこみ上げてくる。
俺は慌てて顔をそむけた。
こんな顔、こいつらに見せられるか。
【神託】:……
【神託】:アリア……さん……
【神託】:泣いた
【神託】:美の女神ヴィーナス:ああ……ああああ……! これよ! わたくしがずっとずっと見たかったものは……! これ以上の【祝福】があるかしら……!(号泣)
神託のウィンドウも感動に打ち震えていた。
ヴィーナス様だけでなく、多くの神々がこの主従の誓いに心を動かされているのが分かった。
だが、そんなことは今の俺にはどうでもよかった。
俺は今、初めて本当の意味で「勇者」になったのかもしれない。
神々に選ばれたからじゃない。
仲間が、俺を信じてくれたからだ。
俺は涙をこらえ、震える声で跪く彼女に言った。
「……顔を上げろよ、アリア」
「……承知した」
「それと、主君とかやめろ。俺たちは、仲間だろ」
「……善処しよう」
彼女は少しだけ、本当に少しだけ、口の端を上げて笑った気がした。
レオンもポポロも、そんな俺たちを温かい目で見守ってくれていた。
俺たちの新しい旅が始まる。
神にも魔王にも頼らない。
ただ、仲間との絆だけを道しるべにした、本当の冒険が。
最初の目的地は、決まっている。
魔王城だ。
第47話を更新しました。
今回は、アリアの決意表明の回でした。
彼女が選んだのは、騎士としての正義でも、神々の意思でもなく、「ケンタ」という一人の人間を信じる道。
「私は、お前を信じる」
この一言に、彼女の、そしてパーティの、全ての覚悟が詰まっていますね。
書いている私も、思わずぐっときてしまいました。
ヴィーナス様じゃなくても、これは泣きます。
この瞬間、ケンタは、神々に選ばれただけの存在から、仲間に信じられる、本当の意味での「リーダー」になったのではないでしょうか。
パーティの絆は、かつてないほど、強く、固く、結ばれました。
さて、彼らの次なる目的地は、魔王城。
しかし、その道は、決して平坦なものではありません。
次回、彼らの前に、最強の「番人」が、立ちはだかります。
お読みいただき、ありがとうございました。




