第46話『告白』
古びた教会の静かな聖堂。
俺は隣に座るリリスの探るような視線を、まっすぐに受け止めていた。
彼女は俺の答えを待っている。
神につくか、魔王につくか。その二択の答えを。
だが、俺の答えは、そのどちらでもなかった。
「……俺は」
俺はゆっくりと、しかしはっきりとした声で告げた。
「俺はあんたたちの手も取らない。そして、神々の言いなりにももうならない」
リリスの完璧な笑みが、初めてわずかに揺らいだ。
「……なんですって?」
「俺は俺のやり方でやる。神でも魔王でもない。俺自身の、そして俺の仲間たちのための道を、行く」
それが俺が長い葛藤の末に見つけ出した、たった一つの答えだった。
神々の正義も、魔王の掲げる解放も、どちらも俺にはしっくりこなかった。
どちらを選んでも、俺は仲間たちを危険に晒すことになる。
なら、俺は誰にも与えられない第三の道を選ぶ。
たとえそれがどれだけ困難な道だとしても。
「……ふふ、あはははは!」
リリスは最初驚いた顔をしていたが、やがて堪えきれないといった様子で声を上げて笑い出した。
「面白い! 面白いわ、勇者ケンタ! あなた、最高よ!」
彼女は涙を拭う仕草をしながら、俺を見た。
「神にも魔王にも与しない。まさかそんな答えが返ってくるとは、思いもしませんでしたわ。あなたなら、もしかしたら魔王様ですら成し得なかった、新しい何かを生み出せるのかもしれませんわね」
彼女は俺の答えを否定しなかった。
むしろ、面白がっている。
「良いでしょう。あなたのその『第三の道』とやら、どこまで行けるのか、わたくしも特等席で見物させていただきますわ」
そう言うと彼女はすっと立ち上がり、闇に溶けるように姿を消した。
「魔王城で、お待ちしておりますわ」という言葉だけを残して。
【神託】:……え?
【神託】:どっちも選ばない、だと……?
【神託】:そんな選択肢、アリなのかよ
【神託】:軍神マルス:愚かな! それは全世界を敵に回すということだぞ!
マルスの言う通りだった。
だが、俺はもう迷わなかった。
俺は宿屋に戻った。
仲間たちがホールで、重い空気の中、俺を待っていた。
俺は三人の前に立ち、深く息を吸った。
「皆に、話がある。俺の決意を」
俺はすべてを話した。
神々の操り人形になるのも、魔王の復讐に手を貸すのも俺は選ばない、と。
俺は魔王城へ行く。
だが、それは神々の命令に従うためじゃない。
魔王(佐藤拓也)に会って、話をするためだ。
彼の絶望を受け止めて、その上で彼とは違うやり方で、この狂った世界を終わらせる。
俺たちの手で。
「……いばらの道だぞ、ケンタ」
レオンが静かに言った。
「神々の加護も魔王軍の協力も、一切得られない。完全に孤立無援の戦いになる」
「ああ。分かってる」
「それでも、行くというのか」
「行く」
俺がきっぱりと言い切ると、レオンはふっと笑った。
「……最高じゃないですか。誰も見たことのない結末。誰も知らない真実。私の知的好奇心は、今、最高潮に達していますよ。ええ、乗りましょう。その無謀な旅に」
彼はついてきてくれるようだった。
次に、俺はポポロを見た。
彼女は俺の目をまっすぐに見て、にこっと笑った。
「ポポロは、ケンタお兄ちゃんが決めたことなら、どこまでもついていくよ!」
その純粋な信頼が、俺の胸を熱くした。
最後に、アリア。
彼女はずっと腕を組んで、黙って俺の話を聞いていた。
そして俺が話し終えると、ゆっくりと立ち上がった。
彼女は俺の前に立ち、その力強い瞳で俺を見据えた。
俺は彼女が反対するかもしれないと、少しだけ身構えた。
だが、彼女の口から出た言葉は、俺の予想を完全に裏切るものだった。
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ケンタが下した、決断。
それは、神にも、魔王にも与しない、「第三の道」を歩むというものでした。
誰かに与えられた選択肢を選ぶのではなく、自ら新しい道を切り拓く。
流されるだけだった彼が、ついに、物語の本当の「主人公」になった瞬間かもしれません。
リリスも、彼のその意外な答えを、面白がってくれたようですね。
彼女の真意は、まだ謎に包まれていますが……。
そして、仲間たちへの、告白。
レオンも、ポポロも、彼の無謀な決意に、ついてきてくれるようです。
本当に、いい仲間を持ちましたね、ケンタ。
さて、残るはアリア。
騎士としての正義と、仲間への想いの間で、彼女はどんな答えを出すのか。
次回、パーティの絆が、試されます。
お読みいただき、ありがとうございました。




