表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二作目・完結済み】異世界冒険をライブ配信中! 『神々(視聴者)』からの『恩寵(投げ銭)』でスキルを買って魔王を倒します!  作者: 立花大二
第二部:世界の亀裂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/64

第41話『摩耗』

 初代勇者、佐藤拓也の日記。

 希望と熱狂に満ちていたその記録は、ある時点を境に少しずつその色合いを変えていった。

 ページをめくるごとに彼の書く文字は小さく、そして乱れていく。まるで彼の心がすり減っていく様に比例するかのように。


 ―――二年目、四月。

 魔王軍の四天王、二人目を撃破した。

 神々は大いに喜び、【恩寵】も過去最高額を記録した。

 だが、この戦いでライナスが片腕を失った。

 俺の判断ミスだ。俺がもっと派手な勝ち方をしようと、神々の【神託】に応えようと焦ったせいだ。

 ライナスは「気にするな。これも騎士の誉れだ」と笑っていた。

 でも、俺は自分を許せそうにない。

 配信のコメント欄(神託)は、俺の勝利を称える言葉で埋め尽くされていた。

 誰もライナスの腕のことなんて、気にも留めていなかった。


 ―――二年目、八月。

 セリアがパーティを抜けたいと言い出した。

「もう、あなたの戦いにはついていけない」と。

 最近の俺は、常に神々の顔色をうかがってばかりいたらしい。

 魔物を倒す時も、どうすれば【祝福】が増えるか、どうすれば天覧者数が伸びるか、そればかり考えていた。

 セリアはそんな俺を見るのが辛かった、と言った。

 俺は何も言い返せなかった。

 神々は「あの女は足手まといだったから、ちょうどいい」と囁いていた。


 俺は日記から目を上げ、隣にいる仲間たちを見た。

 アリアが厳しい顔で日記の文字を追っている。

 レオンが静かにため息をついた。

 ポポロが不安そうに俺の服の袖を握る。

 もし俺がハヤトの真似を続けていたら。もしグリフォンの一件で俺が何も学んでいなかったら。

 俺の仲間たちもいつかこんな風に、俺の元を去っていったのかもしれない。

 背筋に冷たい汗が流れた。


【神託】:……このあたりからだよな

【神託】:初代がおかしくなっていったの

【神託】:俺たちも、少し煽りすぎたのかもしれない……


 一部の神々は後悔の念をにじませていた。

 だが、それは嵐が過ぎ去った後に瓦礫を見て嘆くような、無責任な感傷に過ぎなかった。


 日記はさらに暗いトーンを帯びていく。

 仲間を失った彼は、孤独な戦いを続ける。

 その戦いはもはや「世界を救う」ためではなかった。

 ただ、神々という得体の知れない観客の渇きを癒すためだけの、虚しいものに成り果てていた。


 ―――三年目、一月。

 今日は神々のリクエストに応えて、わざと弱い武器で格上の魔物に挑んでみた。

 何度も死にかけたが、そのスリルが良かったらしい。

 天覧者数は爆発的に増えた。

 体はボロボロだ。心も、もう何も感じない。

 でも、数字が増えるのは嬉しい。

 俺がまだ「必要とされている」証だから。


 ―――三年目、五月。

 神々が新しい『勇者』を召喚することを検討しているらしい。

 俺の配信に少し『マンネリ』を感じてきた、と。

 ふざけるな。

 俺はこんなに体を張っているのに。

 もっと刺激的な映像を見せろ、と彼らは言う。

 もっと新しい絶望を、見せろ、と。

 分かったよ。

 やってやる。

 あんたたちが望むなら。


 そのページには、涙の跡のようなインクの滲みがあった。

 彼の心はもう限界だった。

 承認欲求の果てに彼は自分自身を見失っていた。

 神々の求める「刺激的な勇者像」という空っぽの偶像を演じるだけの、壊れた人形になっていた。


「……ひどい」


 ポポロが小さな声で呟いた。

 その目には涙が浮かんでいる。


「これが……これが、勇者の末路だというのか……」


 アリアが悔しそうに唇を噛み締める。


 俺は何も言えなかった。

 ただ、次のページをめくる自分の指がわずかに震えているのを感じていた。

 この日記の最後のページが、もうすぐそこまで近づいていた。

 第41話を更新しました。

 初代勇者の日記、中盤。

 希望に満ちていた物語は、少しずつ、しかし確実に、破滅へと向かっていきます。

 

 仲間を失い、目的を見失い、ただ神々(視聴者)の数字と評価だけを追い求めるようになってしまった、初代勇者。

 彼の心の「摩耗」が、痛々しいほどに伝わってきますね。

 

 「マンネリ」という、配信者にとっては最も恐ろしい言葉。

 それが、彼の心を完全に壊す、最後の一押しになってしまったようです。

 

 彼の姿に、ケンタは何を思うのか。

 そして、この物語を読んでいる我々(神々)もまた、試されているのかもしれません。

 

 次回、日記は、ついに最後のページへ。

 初代勇者の、絶望の果ての決意が、明らかになります。

 

 お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ