第37話『禁断の図書館』
リリスと出会ってから、俺はまるで抜け殻のようだった。
旅の道中も心はここにあらず。仲間との会話も上の空で返事をしてしまう。
アリアはそんな俺の様子を何も言わずに、ただ心配そうな目で見ている。レオンは何かを察しているのか、あえて俺の葛藤には触れず、いつも通りにポポロやグリの相手をしていた。
そんなある日。
王都へ向かう途中、立ち寄った大きな街で俺は一つの噂を耳にした。
「なあ、聞いたか? 王立図書館の奥にある『禁書庫』の話」
「ああ、あの『賢者の塔』のことか。なんでも、世界の真実が記された書物が眠っているとか」
「馬鹿言え。あそこは王家の許可がなければ、誰も入れない禁断の場所だぞ」
ギルドの酒場で、冒険者たちがそんな話をしていた。
禁断の場所。世界の真実。
その言葉が俺の心に強く引っかかった。
もしかしたら、そこに行けば何か分かるかもしれない。
リリスの言葉が真実なのか。この世界の成り立ちについて、何か手がかりがあるかもしれない。
【神託】:禁書庫……イベントの匂いがプンプンするぜ
【神託】:どうせなら、もっと分かりやすいダンジョンとかが良かったな
【神託】:知恵の神オーディン:ほう、『賢者の塔』か。懐かしい名だ。あそこには確かに興味深い記録が眠っているやもしれんな。
オーディンの神託が俺の決心を後押しした。
俺は仲間たちに、その図書館へ行きたいと告げた。
「……王立図書館? なぜ急にそんな場所に」
アリアが怪訝な顔をする。
「いや、なんというか……この世界の歴史とか、そういうのを一度ちゃんと勉強しておきたいと思ってな。勇者として知っておくべきこともあるだろうし」
我ながら苦しい言い訳だった。
レオンは俺のその言葉を聞いて、眼鏡の奥の目をすっと細めた。
「……なるほど。知識欲ですか。素晴らしい心がけですな。いいでしょう、行きましょう。私もその図書館には一度訪れてみたいと思っていました」
彼は俺の嘘に気づいていながら、あえて乗ってくれたようだった。
アリアもレオンが賛成したことで、それ以上は何も言わなかった。
王立図書館は、街の中でもひときわ大きな石造りの荘厳な建物だった。
中に入ると古い紙とインクの匂いがする。天井まで届くほどの巨大な本棚が迷路のように立ち並んでいた。
俺たちは表向きは普通の歴史書を調べるふりをしながら、目的の『禁書庫』、通称『賢者の塔』の場所を探した。
それは図書館の一番奥、鉄の扉で固く閉ざされた古びた塔だった。
見張りの衛兵が二人、扉の前に立っている。
「どうする、ケンタ殿。正面からの突破は無理だぞ」
「……夜を待つしかないな」
その日の夜。
俺たちは再び図書館に忍び込んだ。
レオンが音を消す魔法と姿をくらます魔法を俺たちにかけてくれた。おかげで衛兵たちの目をかいくぐり、禁書庫の扉の前までたどり着くことができた。
問題は、この鍵だ。
いかにも頑丈そうな、複雑な鍵がかかっている。
【神託】:ピッキングスキル、持ってないのか?
【神託】:こういう時のための盗賊キャラが必要だったな
【神託】:いや、まて。鍵穴の横の壁、模様がちょっと不自然じゃないか?
神託に言われて壁をよく見る。
確かにそこだけ、レンガの模様が少し違う。
俺がそのレンガにそっと手を触れると、ずぶりと壁の中に押し込まれた。
ゴゴゴ……と重い音を立てて、隠し通路が現れる。
「……すごいな、神託とやらは。こんな仕掛けまで見抜くとは」
アリアが感心したように呟いた。
「彼らの観察眼は、時に魔法をも凌駕しますからね」
レオンも興味深そうに隠し通路を覗き込んでいる。
俺たちはその隠し通路を通って、賢者の塔の内部へと侵入した。
塔の中は螺旋階段が延々と上へと続いている。壁一面が本棚になっており、そこには表の図書館にはない、古びた禍々しいオーラを放つ本が無数に並んでいた。
何か、知らなければならないことがある。
リリスに植え付けられた疑念の答えが、ここにある。
そんな予感がした。
俺は唾をごくりと飲み込み、螺旋階段を、一歩、また一歩と上り始めた。
世界の真実へと続く階段を。
第37話を更新しました。
今回は、次の目的地「禁断の図書館」へと向かうお話でした。
リリスの言葉の真偽を確かめるため、ケンタは自らの意志で行動を起こします。
仲間への嘘、そして、深夜の潜入。
少しずつ、今までの「勇者」のイメージからはみ出した行動を取るようになってきましたね。
これも、彼の成長の証……なのでしょうか。
レオンの魔法や、神々の鋭い観察眼のおかげで、なんとか禁書庫への侵入は成功しました。
こういうパーティメンバーの能力を活かした展開、書いていて楽しいです。
さて、ついに足を踏み入れた「賢者の塔」。
そこには、一体どんな「真実」が眠っているのか。
ケンタが探している答えは、見つかるのでしょうか。
次回、物語の核心に、さらに一歩近づきます。
お読みいただき、ありがとうございました。




